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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第9話 選択された目的

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第9話 選択された目的

 ここは避難所に指定されている小学校。
 周りを塀に囲まれているので、門を閉めれば、ある程度は不死者たちを防ぐことが出来る。
それに太陽光パネルも有るので、電気もなんとか賄える。
 その学校のグラウンドに面して大型液晶テレビが設置されニュースが流されていた。
『政府はこの度発生した、生命活動停止後に他者を襲う症例を反社会的人格乖離性症候群と命名し、その病原体を反社会的人格乖離性ウィルスと命名しました。
それと同時に反社会的人格乖離性ウィルス対策会議を設置し、専門家による協議を始めました。
この反社会的人格乖離性ウィルスによる被害は世界中に広がっており、既に連絡が途絶した国も有ります。
現在、日本国内に於いても、著しい流行が見られ、市民生活に支障が及ぶに至り、政府は戒厳令を布告する事を決定しました。
それに従い自衛隊に対して治安出動が命令されています。
現在、警察・自衛隊により事態の収束を図っておりますが、なおも事態の悪化が予想されます。
国民の皆様におかれましては、悪質なデマに惑わされること無く、治安維持部隊の指示があるまで、自宅もしくは避難所において、待機して下さい』
 しーーんと、静まり返る避難所の広場。
「何日も会議して、決まったのが名称かい!」
まず、飛び出したのが非難の声だ。
「ネットだともっと簡単に”不死者”になっているんだから、 それでいいじゃねぇか」
やたらと長くて舌を噛みそうな名称より、その物ズバリのネットの名称の方が単純で良い。
「役人は報告書に書く文字数で、給料が決まってるんじゃないか?」
「だから、意味不明に長い名前を、付けたがるのか!」
「いや、病気の名称とかどうでもいいから、 具体的にどうすれば良いのさ?」
「それより何処へ避難すればいいんだ?」
人々が口々に不平不満を漏らして、段々と広場が騒然として来ている、中には警官に食ってかかっている者たちもいた。
 避難所を警備している警官たちも、当惑していた。
事前に何の知らせも受けていないので、避難民たちの質問に受け答えが出来ないのだ。
「戒厳令は憲法違反だ!」
「いや、憲法云々よりアイツらをどうにかするのが先だろ」
「軍靴がー!」
「食い物はどうなるんだ?」
「9条がー!」
「その9条とやらで、この病気が治るのかよ!?」
「なんだと!」
 平和で呑気な時代の主義主張を持ち出して、喧嘩を始める者たちもいた。
 そんな光景を前にして、警備主任が拡声器で、一声掛けた。
「ただ今、ニュースで有りました通り、現在は非常事態となっております。
しかし、我々だけでは人数の制約もあり、あの不死者たちを防ぎ切れません。
そこで、有志の方を募って、自警団を編成したいと思います。
我こそはと思う方は、警備本部にお集まり下さいますよう、お願い申しあげます」
 ニュースを見ながら、 口々に雑多な抗議をしていた人々が静かになり、喧騒とした空気が変わった。
 確かに喧嘩している場合ではない、自分たちの家族を守らねばならない。
 目的を与えて、やり場のない怒りを、他に向けさせる警備主任の目論見は成功したようだ。
『……大泉総理は政府機能避難先の護衛艦内で、主な大臣たちが発症したのに従い、内閣の刷新を決めました』
 狭い船内で発症すると、船からは逃げようが無い。
護衛艦は海に浮かぶ棺桶と化したに違いない。
「……まあ、正直。どうでもいいニュースだ」
 人々はニュースに関心を失い、これからの事に専念しはじめた。
 自警団の応募にも三々五々、人が集まりだしている。
”食料や飲料水の配給計画を立てないと……他の避難所との通信も回復しないといけないな”
 警備主任はこれからの事で頭を悩ませ、政府の事は忘れてしまった。
 しかし、若い母親は幼子を胸に抱えて、不安気な視線をテレビに送り続けていた。


 栗橋友康の自宅からホームセンターが見えている。
まだ何人か生存者がいるらしく、屋上から焚き火で、煙りを出して合図を送ってるようだ。
きっと救助が来るのを待っているのだろう。
 そういえばゾンビ物の映画や漫画だと、こういう時にはホームセンターに籠城するのが、お約束事になっている。
そして人間関係で揉めて、内紛勃発で瓦解するらしい。
「お約束通りなら最初にやられる役は俺だな」
友康は自嘲気味に苦笑いした。
 コミュニケーションが苦手な自分が行っても、歓迎されないのは判っているし、それに人混みは苦手だ。
友康は誰に聴かれる訳でもないのに、そんな言い訳を考えて苦笑していた。
そうは言っても、生きていくには様々な物資が必要だ、どこかに調達に行かなければならない。
しかし、路上には不死者たちが、うろついている。
 手元にあるのは、自作のスリングショットのみ。
 不死者たちは、とにかく力が強いらしく、一度掴まれると引き離すのが至難の業らしい。
友康には突破出来るだけの脚力も無ければ、引き離す腕力も無い。
「どうしようかな?」
と頭を捻っていると、自宅近くの電柱が目についた。
「……そうだ! 余計なこと思いついた!」
まず電柱と家の間にロープを2本渡す、1本に滑車付のベルトでぶら下がり、もう1本をガイド用ロープにすれば、簡易版ロープーウェーの出来上がりだ。
「俺って頭良い!」
 早速取り掛かりたいが、肝心のロープの張り方が判らなかったので、図解入りを期待して海上自衛隊のホームページにアクセスしてみた。
まず固定する方はもやいむすび、張力を必要とする方はエレベーターという結び方で何とかなりそうだ。
家の物置にロープが有ったはず、後は滑車の替わりに椅子に付いていたローラーで代用出来ると考えた。
 これで電柱の電線伝いに辿ればスーパーまで行けるだろう。
 取り敢えず地面にさえ降りなければ、不死者たちに追いかけ回される事も無いから安心だ。
後は似たような仕掛けを、街中に張り巡らせれば良いじゃないか!
 最初に取っ掛かりを作る為に、一度路上を渡らないとならないが、それでも安全面を考えるとメリットは余り有る。
路上だってタイミングを、計って走ればなんとかなるだろう。
 取り敢えずスーパーまでの、ルートを作ろうかと街の地図を取り出した。
ふと、ホームセンターの方を見てみると、煙は屋上からだけでなく、建物のあちらこちらから出ている。
「……仲間割れでもしているのか?」
気になって窓に寄ると、煙の間に炎が混じり始めるのが見えた。
「不慮の火災が起きたか、或いは不死者たちに侵入されたか」
その時、駐車場の付近から爆発音と共に、黒い煙が上がっていく。
「車に引火したか……あのホームセンターはもう駄目だな」
やがてホームセンターの建物から、激しく炎が上がり始めた。
「何人ぐらい避難してたんだろ?」
 既に、消防車両のサイレンが聞かれなくなって久しい、消火活動をする者が居ない為だ。
 激しい炎と黒い煙の間から、悲鳴が聞こえてくるような気がした。
「……俺には何も出来ないよ」
くもり空に黒い煙が高く高く昇っていく。
 友康はぼぅっと、その火事を見ていたが、やがて飽きてルート作りの為に戻っていった。


 友康はベランダに出ていた。
手近な電柱にロープを張るには、ここが一番近い。
まず、2本のロープをベランダに結び付け、片側を軒下に放り投げる。
 友康は玄関から外にでて、周りに不死者が居ないこと確認してから道路に出た。
それにしても何だか天気が怪しい。
 その時、ポツンと頭に何か当たった感じがしたので
「……ん、雨か?」
と手を出した瞬間に、手のひらに鳥の糞が落ちてきた。
「……ぬぁ?……ちょ! 何それ!?」
折角決心したのに、何だか出鼻を挫かれた感じがする。
 心が折れそうなのを我慢して、電柱によじ登った。
ロープを張り、それに滑車を付けて、緩みが無いことを確認した。
「よしっ出来た!」
友康は意気揚々と渡りだす。
 ところが、渡り出した真ん中ぐらいで、ベランダの結び目が解けてしまった。
「え? どぁーーーーっ!」
まるでターザンのように、友康は振られて道路目掛けて落下してしまった。
「ドサッ」
落ちた友康は周りを見回すと、四方を不死者に囲まれている。
「ぐぁあああ!」
友康に気が付いた不死者が、叫び声を挙げながら押し寄せて来る。
「あぁ……どしよ?」
いきなり進退窮まってしまった……これがゲームなら魔法で一網打尽に出来るのに……
友康はヤケクソで不死者たちに手を向けて「ベ○ラマ!」と叫んで見た。
 すると不死者たちの背後にあった民家が、突然爆発し紅蓮の炎を噴き出した。
「……えっ!?」
友康に向かって来ていた不死者たちの足が止まり、そして爆発音の方に引き寄せられて行く。
 チャンス! とばかりに友康は塀の壁をよじ登って民家の庭先に難を逃れた。
 そこから軒先伝いに自宅に辿り着いた。
自宅の玄関にたどり着いて、さっきのことを思い出し、もう一度「ペ○ラマ?」と唱えてみた……
……何も起こらない……当たり前だ。
偶然、あの民家でガス漏れか何かが発生し、それに火がついたのであろう。
 非常識なのは、あの不死者だけで沢山だ。
「で、でも、ひょっとしたら……」
 友康はじっと手を見た、だが友康はどこまで行っても友康だった。 

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