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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第8話 生存の本質

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第8話 生存の本質

不死者たちはバリケードに取り付いている。
 前原達也がバリケードの向こう側を覗いた時には、その数は数百人以上に膨れ上がってた。
それは最初に発生したときよりも、数十倍の規模になっているのだ。
「……増えてる?」
達也の目には警官や自衛隊の制服を着た不死者が、バリケードの向こうに詰めかけているのが見えた。
「そういえば噛まると、不死者になるって無線で喚いていたな……」
彼等もそうやって不死者になってしまったのだろう。
 中には不死者の身体の上を歩いて、バリケードを乗り越えて来ようとしている不死者もいる。
「パン!」
乾いた音がして、突破しようとしていた不死者が崩れ落ちていった。
「もう、弾がありません!」
発砲した警官が怒鳴った、今のが最後の弾だ。
「避難路の確保を指示しろ、要所に避難指示を出す警官を配置だ、急げ!」
 警備の主任は無線に向かって、怒鳴りつけている。
 もう残る手段は白兵戦しかない、バリケードに張り付いている男達は互いに顔を見合わせていた。
「無辜の国民を救助せよ!!」
 市民団体とか言う連中が、検問所の見える所で拡声器を使って喚いてる。
「政府は国民を無差別に虐殺している!!」
 安全な場所で権利ばかり主張して、義務を果たすのはお前がやれという連中だ。
「自衛隊は撤収せよ!!」
 その嫌いな自衛隊に守って貰ってるのに、文句だけ喚いてる。
「軍隊の検問はんたーい!憲法9条を守れー!!」
 しかし、その雑音は不死者たちを引き付けている事に気がついていない、彼等がシュプレヒコールをする度に不死者たちが増えているのだ。
『じゃあ、その9条とやらに守って貰えよ』
 警備の後ろに控えていた男達が、スコップや鉄パイプを抱えて前線の戦う男達に配っている。
闘う男達は雑音は気にしていないかのように、黙々と準備を急いでいる。
どうせ大した事言ってないし、何も出来ない役立たずなど男達の眼中に無いのだ。
 彼等が対峙しているのは、噛まれると死が待っている不死者だ、全員覚悟を決め頷き合う。
 自分達が愛する家族や友人・仲間を守る闘いがもうすぐ始まるのだ。
警官たちの拳銃の弾はとっくに尽きている、単なる警備のつもりだったので予備の弾など持って来ていない。
 自衛隊も警備の手伝いだったので、銃火器などは持ってきていない。
手に持っているのは、雑多な道具をかき集めた物だ。
素手よりはちょっとだけマシなだけの状態で肉弾戦を闘う覚悟だ。
「突破されるぞ! もっと押せ!!」
 バリケードの向こう側には数千人の不死者たちが詰めかけていて、此方に向かって来ようとバリケードを圧迫している。
その圧力は凄まじいものだった。
 バリケードがミシミシと音を立てて撓んでいる、その隙間からは奮闘する警官や自衛官を捕まえようと、手を差し出して振り回している。
しかし、彼等の努力も虚しくバリケードは壊れ、崩れてしまった。
「ぐあああああ!」
壊れたバリケードの隙間から、不死者たちが叫び声を挙げながら溢れ出てくる。
 最前線の警官は警棒で、自衛官はバットや鉄パイプで、不死者たちを滅多撃ちしながら戦っている。
しかし、不死者は殴られたぐらいではひるまない。
多少よろけるぐらいで此方に向かってくる、前線にいた何人かの警官が噛みつかれてしまっていた。
 一方、勇ましくシュプレヒコールを喚いていた市民団体の連中はというと……
 さっきまで”不死者たちを救え”と言っていたはずなのに、バリケードを突破されたと見るや蜘蛛の子を散らすように、我先にと逃げていった。
そして、それが混乱に拍車をかけてしまった。
 避難誘導するはずが、彼らが彼方此方に逃げるので、普通の人たちは何が正しい避難路なのか判らなくなってしまったのだ。
そして人々は出鱈目に逃げ惑い、老人子供など弱者は押し倒されて、そこを不死者たちに襲われて噛まれてゆく。
 またそれを助けようとした男達も、囲まれて噛まれていってしまった。
「くそっ、なんてこった、もう人類の滅亡か……?」
仲間の一人が凄惨な光景を見ながらそう呟いた。
「前原! 急げ! 行くぞ!」
辺りを見て少なからずショックを受けている達也にも声を掛けらた。
「ああ、そうだな……此処で出来ることはもう無さそうだ」
 達也達は人々を襲う不死者たちに、スコップで応戦しながら後退してゆく。
 ほんの数分の出来事だったのだが、バリケードで警備していた仲間の姿は、不死者たちに埋もれて見えなくなっていた。
きっと、もう駄目だろう。
『僅かな時間稼ぎだったが、決して無駄にはしない一人でも多く救いだしてみせる』
達也の目に、誓い炎が灯るようだ。
「スコップは頭じゃなくて首を狙え!」
「首を切断すれば身体は動かない、効率良くやらんと体力が持たないぞ!」
「武器、弾薬などの装備は此方に向かっている、 それまでは手持ちの物で、なんとしても事態の収拾に努めるように!」
部隊長はそう矢継ぎ早に訓示すると、愛用のサバイバルナイフを振り回しながらその場を離れた。
『なんで……こうなったんだ』
つい30分位前までは穏やかな風景だったのに、今では死者が人を喰う地獄絵図となっている。
「……府前基地に移動しろぉー」
誰かが叫んでいる、付近にある航空自衛隊の基地だ。
 ここからは橋を渡った先にある、距離はおよそ5kmくらいだろうか。
 携帯無線機が絶叫だらけで機能しなくなってしまっているので、伝令が走り回っているらしい。
普通の市民を護衛しながらの移動はきつそうだ、何しろ此方の装備はスコップ・モップの柄・バット・鉄パイプなどだ。
まるで中学生同士の喧嘩みたいな武器しかない。
 外国ならアサルトライフルをバリバリ撃ちながら、格好良く市民を助けているはずなのに、日本ではこの様だ。
達也は避難民達を促して、駐屯地に向けて出発させ始めた。
 その後ろを多数の不死者たちが迫っている、だが車は渋滞していて動かせない、移動手段は自分達の足しかない。
「走ってください!荷物は諦めて捨てて行ってください!」
警官が声をかけながら走り回っている。
呼び掛けている間も、不死者たちは不気味な咆哮を上げながら迫ってくる。
 そして足の遅い年寄りや女子供が取り付かれてしまい、それを助けようとする男達も次々と不死者たちに噛まれていく。
「自分の命を優先してください!」
手にしたバットで不死者の頭をかち割りながら、自衛隊員が絶叫し倒れた人たちを助け起こしている。
 避難民達は走り出し、達也たちは迫り来る不死者たちにスコップで立ち向かいつつ、逃げ出す時間を稼いでいる。
「少しずつ後退しろ、無理に助けようとはするな!」
避難民の男達にも協力してもらい、放置された車両などで簡単なバリケードを作りながら、達也たちの分隊は後退していた。
 そして市のはずれまで来たとき、暇な時間に作っておいた火炎瓶を投擲して、一斉に走り出して退却した。
「ボン! ボン!」
と、破裂音と共に次々に大きな炎が不死者たちの間に立ち上がった。
 その紅蓮の炎に不死者たちが包まれていく、密集していたせいか不死者たちは実に良く燃えている、これで少しは時間が稼げそうだ。
だが残念なことに、燃えながらでも不死者たちは動いている。
「やはり頭を遣らないとダメか!」
隊長は悔しがっていた。
 しかし、不死者たちは炎で方向が分からなくなったのか、火をまとったまま思い思いの方向にさまよい始めた。
「匂いとか音とかが分からなくなったのか?」
達也は不死者たちの様子を見て呟いた。
 取り敢えず結果オーライだ、道路一杯にタイヤを並べて火を放てば、緊急時の阻止線に出来るかも知れない。
そんな事を考えながら走っていると、やがて先行していた避難民達の列に追い付いた。
 皆、薄汚れて疲れ切ったようにノロノロと走ってる。
 どの避難民も先程までの惨劇を目の当たりにして、放心状態のように走っている。
親は子供の手を引きながら、子供は自分の口を手で抑え泣き声を上げないように我慢している。
幼心にも声を出すと不死者が寄ってくるのが解るのだろう。
 中学生だろうか、男の子が何か話しかけながら車いすを押している。
車いすに座って居る老人は、何が起こっているのか理解できてないようだった。
 そういう雑多な人たちが、お互いに声をかけ、助け合いながら避難所に向かって移動している。
すると、 重そうな旅行鞄を持った中年男が、ふぅふぅ言いながら走っているのに気が付いた。
 達也は思わず声をかけた。
「おい! そんなもん捨てなよ!」
やたら高そうなスーツ姿の男は、達也に向かって血色ばんで言った。
「俺の金だ!」
男は旅行鞄を大事そうに抱え直した。
『金かよ……この期に及んでなんて的外れなものを抱えていんだ コイツ』と、達也はあきれ返りながら思った。
しかし、隊列が遅れるのは色々と支障がある。
 この男が邪魔で、後ろからくる避難民が避けなければならないからだ。
「こんな状況で、どこで金なんか使うって言うんだ!」
男は達也を睨み付けながら言った。
「俺の金をどうしようと俺の勝手だろう!」
 結局、男は旅行鞄を捨てなかった。
『自分の命より大事な金っていったい何?』
 達也は、その男を無視して赤ん坊連れの夫婦の手助けをして、赤ん坊用の荷物を母親の代りに持ち上げて走り出した。
無駄な労力を使ってるのが惜しいし、構ってる暇があったら他の人を助ける方が有意義だ。
「お、おい! お前! そんな物運ぶんならこっち手伝えよ!……自衛隊の癖に助けないのか!……ま、待てって言ってるだろうが!」
中年男は達也の行動に文句を喚き始めた。
 しかし達也は気にしないでどんどん走っていく。
その中年男はどんどん隊列から遅れていって、気がついたときには、その姿は見えなくなった。
 だが達也はもう中年男に興味はなく、彼がどうなったかは知る気も無かった。
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