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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第10話 警備主任の憂鬱

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第10話 警備主任の憂鬱

 市の中心部につながる大きな橋、前原達也たちが到着した時には航空自衛隊と警察合同の検問所が出来上がっていた。
 警官が10名前後と自衛官が20名前後だろうか。
 この騒動が起きたときに、最前線にいた警官たちの消耗が激しくて、それで警官の人数が少ないようだ。
バスを2台横に並べてバリケードにしていた。
 普通のバリケードでは持ちこたえられないのは解っている。
だから横向のバスに、放水車を直角に押し当てるような形にして、不死者の猛攻に対抗する腹積もりのようだ。
 放水車の上から警官が拡声器で呼びかけている。
「落ち着いて避難所へ移動してください!」
「列に並んで順番に検査を受けてください!」
「体調の優れない方や怪我をしている方は、此方の列に並んでください!」
 崩壊した避難所からの避難民は走り通しで、疲労困憊しており、その一時収納の対処が困難なほどになっていた。
基地との間はバスを使って輸送する手筈なのだが、大型バスを運転出来る人員が不足している。
基地でも不死者が発生したので、余分な人員がいないのだ。
「橋の爆破の用意が終わりました」
「うむ、ご苦労様」
 現場主任はいざという時には、橋を爆破する事にしていた。
勿論、橋を粉々にするのではなく、不死者たちが通過出来ないように、橋の道路部分に大きい穴を開けるのだ。
 ヤツらは何かに掴まるとか、飛んで回避するとかが出来ないらしい。
 憶測と伝聞だが、何も対策しないよりはマシであろう。
 何しろ、ここにいるのは爆破に関しては素人ばかりだ。
陸上自衛隊のプロならば少量の爆薬で橋を跡形もなく消してしまうだろうが、航空自衛隊の整備担当官と警察の事務方の寄せ集めでは、大量の爆薬でも穴明けるのがせいぜいだ。
 誉められた仕事の出来では無いのだが致し方ないだろう。
達也たちは航空自衛隊の隊員に質問した。
「自分たちの分の銃器は届いてないですか?」
「いえ、自分たちが基地から持ってきた分だけです」
航空自衛隊の隊員たちは、申し訳なさそうに返事してくれた。
「そうですか、お忙しいところすいませんでした」
暫くはバットが頼りか、苦笑しながら達也は思った。
 その時、正面から大型バスがやってくるのが見える。
かなりのスピードを出しているらしく、土ぼこりが巻き上がり、時々バスの前にいる不死者を跳ね飛ばしてる。
「ずいぶん、速度を出してるな……誰か合図を送って速度を落とさせろ!」
警備主任はバスを睨みながら怒鳴った。
 自衛隊員がバリケードの前に出て赤い旗を降り始める。
「……あれっ? あのバス……バスの運転手がいませんよ?」
双眼鏡を覗いていた巡査が警備主任に告げた。
「そ、そんな馬鹿な!?」
 巡査の双眼鏡を奪い取ると自分で覗いてみた。
確かに運転手がいない、運転手と思われる人物と不死者と思える人間が運転台でもがいている。
 運転台の後ろの方では、人間同士が争っているのが見え、窓には血飛沫が飛び散っている。
確認するまでもない、バスで避難の移動中に死者か怪我人が不死者となり、健常者が襲われているのだろう。
 バスの中は地獄絵図のようになっていた。
「……不死者を載せている! ここを突破されるとマズイ!」
あのバスの速度と重量では、ここのバリケードなどひとたまりも無い、折角のバリケードが破壊されてしまう。
 ここにはまだ走って避難してきた人たちが、ヘトヘトになって座り込んだり寝転んだりしている。
そんな処に不死者の集団に入られると、目も当てられない惨劇になってしまう。
”誰がアクセル踏んでるんだ? いや、そんな事より止めないと”
警備主任は即断した。
「自衛隊の人! あのバスのタイヤを狙撃して、バスを止めて下さい!」
バリケードの前で赤い旗を振る自衛隊員にどなった。
「はーい」
 間延びした返事をした自衛官は旗を振るのを止め、銃を構えて狙撃態勢になる。
「ドン」
89式小銃から発射された銃弾はタイヤでは無く、地面を抉っただけだった。
「ああ、あたらねぇ……普段はスパナやらレンチやらをいじってるだけだしなあ……」
射撃した自衛官が照準したままぼやきながら次弾を発射する。
「ドン」
 今度はバスのフロントバンパーに穴が空いた。
距離は50mくらいなのだが、しょせん整備担当なので射撃の腕前は期待するほうが無理がある。
 しかもバスは蛇行を始めている、益々当たらなくなってしまった。
「銃を持ってるもの全員でタイヤを狙え! 阻止しろぉ!」
警備主任はたまらず、バリケードにいる全員に伝えた。
バリケードに取り付いていた警官・自衛官が銃で射撃を開始しはじめた。
「ドン!」
小銃独特の腹に響く音と
「パン!」
拳銃特有の乾いた音が橋の上に鳴り響いている、しかし大型バスは物ともせずに突っ込んでくる。
「バスが突っ込んでくるぞぉ、避難民を逃がすんだ!」
放水車の上にいた巡査が注意を促す、バリケードの後ろにいた者たちは避難誘導を始めた。
「ぶつかる!」
誰かが叫ぶのと同時に大型バスはバリケードに衝突した。
 突入してきた大型バスは、バリケードに使っている2台のバスの間に突っ込んで、その衝撃で横転してしまった。
右側のバリケード用バスは橋の欄干から半分程飛び出してしまい、左側のは一緒になってひっくり返ってしまった。
バリケード用バスを側面で支えていた放水車は、車両の半分ほどをつぶされ2度と運転出来ないのは見て取れた。
 突っ込んできた大型バスは、衝突する衝撃で前側半分が潰れてしまい、開いた窓から不死者たちが這いずりながら出てきた。
「不死者だ! 早く制圧しろ!!」
警備していた者たちは警棒とさすまたを手に集合してくる。
「ぐぅあああああ!」
呻き声を上げながら、不死者が警備の者たちに向かってくる。
 一人がさすまたで不死者を転倒させ、一人が鈍器で頭を潰すという戦法をとらせる。
銃は緊急の時のために節約するように言ってある、予備の弾がいつ届くのか不明だからだ。
「ええい、くそったれが!」
自衛官が一人噛みつかれてしまった、仲間の自衛官が助け起こし、傍にいた警官が警棒で不死者の頭をつぶしていた。
 大型バスには60人くらい乗っていたらしいが、半数以上は事故の衝撃で頭が潰れたのか、バスの中で動かない。
残りが不死者となって、外に出てきてるようだ。
 警備の警官・自衛官のチームは、複数で不死者たちを葬っていった。
ひとりだとやっかいな相手だがチームを組めば安心して取り組める。
 やがてバスから出てきた不死者の処理が終わりに差し掛かると、次は穴の空いたバリケードをどうにかしないといけない。
「バリケードを塞ぐぞ、どこかで車両を調達して来るんだ!」
警備主任は手空きの者に車両の調達を命じていた、このままでは隙間から不死者が入り込んできてしまう。
”今回はどうにか切り抜けたな”と警備主任は安堵した。
 しかし、やっと落ち着いてきた現場に、無情の報告が飛び込んできた。
「……主任! ヤツラが来ます!」
壊れたバスの上に登り、見張りをしていた巡査がどなっている。
「くそっ、この忙しい時に……」
 今の騒動を聞きつけたのだろう、道路の向こうを不死者の集団がコチラに来るのが見える。
 双眼鏡で覗くと……数百……いや、数千の不死者の群れがいるではないか!
「……なんて数だ」
もはやバリケードの再構築は間に合わない。
「ここまでか……橋を爆破する。全員避難しろ!」
警備主任は橋の爆破を決断した。
「避難してください、橋を爆破して不死者たちを防ぎます」
警備していた者たちや、避難民の男たちが協力して誘導している。
 全員が橋の袂に避難したのを確認すると、主任は点火スイッチを押下した。
しかし、橋の上を風に煽られた紙が舞っている……何も起きないのだ。
「な……ちゃんと接続したのか?」
警備主任は唖然としつつ、傍にいた巡査に尋ねた。
「はい、間違いありませ……あっ、切れてる!」
巡査は双眼鏡で、橋の上を通っている導火線を追いながら報告した。
 バリケードに使っていたバスが、橋の欄干から飛び出した時に、導火線のケーブルが切れたのだ。
双眼鏡にユラユラと揺れているケーブルが見える。
「自分が行ってきます」
傍で話を聞いていた達也は、返事も聞かずに走り出した。
 不死者の大規模集団は、橋の向こう側まで来ている、急がないとこちらに到達してしまう。
「繋いだら直ぐに戻って来るんだぞ!」
走ってゆく達也の後ろから、警備主任がどなっていた。
 見ると橋の欄干に、切れた導火線が引っかかっている。
達也は走り寄り千切れた導火線を繋げた、しかし、つないだ瞬間に小さい火花が飛んだのが見えた。
 点火スイッチはオンのままだったのだ。
電気信号は雷管を起動させ、雷管から発生する火花は獰猛な力を蓄えた爆薬に伝わった。
「ああ……しまった」
 その瞬間、達也は一番下の妹を思い出した。
 妹が初めて作った料理はホットケーキ……らしきモノだ。
それをジャリジャリと有り得ない音で噛み砕きながら、”美味しいよ”と言った時の、はにかみながら微笑んだ妹の顔だった。

 目の前の風景が閃光に包み込まれ、橋は爆炎に覆われていった。

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