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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第56話 最後に光あれ

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第56話 最後に光あれ

府前市内シャッター商店街

 本当は正式な名称があるのだろうが、近所に大型ショッピングモールが出来上がった煽りを受けて、潰れ捲った商店が密集している商店街だ。時の首相の経済委政策のせいでは無いのに、そのせいにして聴衆者から突っ込みを入れられて絶句していた党首がいたらしい。
 目的のカメラ屋に辿り着いた栗橋友康は店の裏手に周り、裏口を”バールのようなもの”で壊して中に入った。店の住人は逃げた後らしく、耳を澄ませても誰かがいる気配は無かった。しかし、ここは友康が嫌いな建物の一階なので、さっさと店舗側に回り中を物色し始める。食糧や武器などは無いのは分かり切っているので、暴徒もここを襲わなかったらしく店内は整えられたままで、シャッターを上げればこのまま営業が出来そうなくらいに綺麗なままだった。

 カメラ屋には写真写りの効果を出すために様々な光学フィルターがある。その中に赤外線フィルターという種類が有り、友康はそれを探しに来たのだ。赤外線のみを振り分ける言う事は逆に赤外線のみを透過させる事が可能ということだ。
 その赤外線フィルターをライトなりの光源に付けてやれば、強力な赤外線発生源に出来る。これを使って不死者たちの目くらましにしようと友康は考えたのであった。
 次にストロボを分解して発光体を60個ほど筒の中に取り付けた。これをリレー形式で繋いで順次発光するようにした。百ミリ秒くらいの間隔で光るのでおよそ一分間は連続照射が出来るはずだ。
 試しに引き金を(部品が無かったのでコタツのスイッチを代用)ONにした。キュィーンとストロボに充電される音が聞こえる。やがて、充電完了のLEDが光り発光が開始された。室内の壁が赤く光っているのが判る、赤外線フィルターを通してこれなのだから相当な光量なのだろう。発光は一分程続き赤い光は消えた。本当はもっと連続発光するようにしたかったが、工作の元になるストロボが店内に無かったので仕方がない。
 仕上げに筒の先っぽには茶漉しを取り付けた。照準器代わりだ。筒の後ろと茶漉しを結んだあたりが照射範囲だ。これがないと照射範囲がわからない。友康なりの工夫だ。
「よし! 出来た。 これの名前は『ニートブラザーライト改』だな…… でぅふふふ……」
 最初の一台なので”改”は変なのだが、友康はそう名付けたかったらしい。

 他に何か使えそうな物はないかとガサガサと店内を物色すると、使い古しの乾電池が大量にあった。これはボーラの重石に丁度良い。割れたら困るので予備の赤外線フィルターも幾つかリュックにしまった。ストロボ用の電池も箱ごとリュックに詰めた。

「最初に光あれって言ったのはモーゼだっけ? 神様だっけ??」
 どこかで聞いた聖書の一節を思い出したが、友康はサバイバル知識は豊富だが宗教関係はからっきしダメらしい。
「今なら差し詰め”最後に光あれ!” だな…… なんちゃって…… でぅふふふ……」
 出来具合に満足したのか『ニートブラザーライト改』を眺めながら、そんな事をひとりで呟いて笑っている友康であった。

 早速、出来具合を試してみることにした。二階建て以上で不死者が居そうな所を探す友康。店のショーウィンドウ越しにちょっと古びたマンションが見え、その屋上に不死者がウロウロしているのが見て取れた。マンションの屋上は大概大きな水タンクがあるので籠城しやすいのだ。その替わり風雨に晒されるので、疲弊しやすく体力の消耗から死んで不死者になってしまう可能性が高くなる。直ぐに救援が見込めない時には最悪の選択なのだろう。
「あそこにするか……」
 友康はカメラ店の裏口から出て、放置された車両の影や民家の軒先に隠れながら移動した。

 マンションの屋上に非常階段で登った友康は隠れながら人数を確認した。敵の情勢を把握しておくのは、とても重要だからだ。数えた人数は八人。幸い走破型も強化型もいないようだ。両方とも独特の歩き方をしているから観察していれば見分ける事が出来る。

 友康は右手にバールと左手になべの蓋を装備している。登山で使うピッケルもあるが腰にぶら下げてある、敵を屠るのに適しているが色々と応用が効くバールの方が良い。そして、背中にはニートブラザーライト改がある。
「おいっ!」
 非常階段の入口から屋上に居る不死者に声をかけた。友康はニートブラザーライト改の炬燵トリガースイッチをONにした。少し時間がかかるのは先ほど試した通りだ。
「うがああああ!」
 友康に気がついた不死者たちは吠えながら向って来た。友康は慌てずに不死者たちの目を次々と焼いて行った。不死者たちは目を焼かれてしまうととたんに動きが鈍くなり、何も無い空中を両手を振り回しながら友康を捜している。

 友康は非常階段の入口で、その様子を観察していた。ひょっとしたら隠れている不死者が居るかもしれないからだ。ちょっと待って新たな不死者が現れない事に確信を持った友康は、武器をバールからピッケルに持ち替えた。
 彼らを始末する為だ。非常階段の入口をそーっと開けて中に入り、目の見えない状態の不死者に近づく、目を潰された不死者は、直ぐ側に居る友康に気付かずに、あらぬ方向に手を伸ばしている。友康はピッケルで始末しようと振りかぶった。だが、手を止めてしまった。

 健常な人間がストロボ光などをまともに見てしまうと、視界が真っ白になり視界が効かなくなる。しかし、ホワイトアウトした後に、じっとして暫くすると視界が回復する。だから、不死者も同じ様に回復するのか、確かめる必要があることに気がついたのだ。

”……五分も待てば良いかな?”
 友康は待っている間に屋上の柵を壊した。壊したといっても人ひとりが通れるだけの隙間を作っただけだ。支柱の一本を外して、外に向かって隙間を抉じ開ける、バールがあると色々と便利だ。バリケードに使っていたらしい木製のドアを柵の縁に斜めにかけて登りやすいようにしてあげるのも忘れない。
 そして、隙間の近くにキッチンタイマーを置いた。目は潰せても耳は聞こえてる筈だからだ。”そうか! 目と耳を潰せば良いのなら、スタングレネードがかなり有効な武器になるんだな” これも後で片山隊長に報告しておこうと友康は心に刻みつけた。

『ピピピピピッ』
 やがてキッチンタイマーが五分経過を電子音で知らせて来た。不死者はその音に釣られて隙間に近づいてくるが傍に居る友康には気がつかないようだ。友康は待ち構えていて不死者が隙間に開いた穴の近くに行くのを待ってから後ろから蹴り出してやった。柵に引っかかっている奴は後ろから足を持ち上げてやると、そのままマンションの縁でバウンドしてから地面に落下していった。蹴り出された不死者は落下し地面のアスファルトに”ドシャッ”と音を立てて貼り付いた。始末できる時には確実に行っておく事、こうしないと後でツケが廻ってくるのは良くある事だ。

 これで不死者は目を潰されると、再び視力を回復できないのが分かった。これは大収穫だ。何としても松畑隆二たちと合流する必要あると友康は考えた。不死者たちの最大の弱点が判明したからだ。合流するまで簡単には死ねない、武器をもう少し作っておく必要を感じた。

 友康はマンションの屋上からソーラーパネルのある建物を捜した。インフラが壊滅した現在、電気は来ていないので電力を確保する必要があるからだ。工場の屋根に有るのが望ましいが隣家でも構わない。電線を繋いでしまえば良いだろうと考えていた。するとマンションの三軒隣に町工場があるのが見えた。
”あそこでいいか…… ボール盤があるといいな”
 友康は町工場らしき所に侵入し、ボール盤があるのを確認して隣家に電線を繋いだ。特別、何かをするのではなく普通の延長コードを伸ばしただけだ。
 そして、町工場の片隅にあったボール盤に延長コードから電気を配給してやり、主軸にアルミ缶を取り付けてやすりで削り出した。下剤の残りがあるので簡易テルミット反応爆弾を作っておこうと考えたのだ。


 ニートブラザーライト改、簡易テルミット反応爆弾、パンスト・ボーラ、水鉄砲、ラバーカップ。
 武器は整った。不死者たちの弱点も分かった。さあ、反撃の開始だ。
 ふと見ると工場の出口の部分に大型バイクが止めてある。たぶん1000ccあるのだろう。どっしりとした重量感が格好良かった。
「これにしようかな……」
 バイクに跨り発車しようとしたがハタと気が付いた、運転の仕方がわからないのだ。
「あ、俺ってばバイクの運転なんかできねぇじゃん……」
 そばに錆びだらけな三輪のママチャリとマウンテンバイクがある事に気がついた。マウンテンバイクはまだ新車らしくサドルにはビニールのカバーが付いたままだった。何よりも格好良い。
「…… これでいいや」
 友康は迷わずママチャリに装備を積み始めた。新品のマウンテンバイクは目に入らないらしい。後ろの荷籠にバッテリーやらニートブラザーライト改を積み込み、ハンドルの部分にある傘フックに差すのは勿論”ラバーカップ”だ。

「よし! 待ってろよ…… 不死者どもめ……」

 準備が整った友康は前を睨みつけ、そのままふらふらと自転車をこぎ道路に出た。そして、十字路を右に曲がった…… しかし、すぐに戻って来て左の方向に走って行った。どうやら行き先の方角を間違えてしまったようだ。

 

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