自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。
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府前基地の監視センター。
片山隊長が基地指令と共に指令官室から戻ってきた。前原達也を始めとする彼の部下たちが傍に行き、次の指示を仰いでいるようだ。だが何やら達也と東雲隊員が片山隊長に喰ってかかっている。松畑隆二が何事かと行きかけた時に、室内スピーカーが非常ブザーと共にアナウンスを入れ始めた。基地の中で比較的高い建物である管制塔からの一報だ。
『北門に不死者の集団が接近中!』
一瞬、全員の視線が室内スピーカーに集まった。
「応戦しろ。 一体も通すな!」
非常ブザーと共に監視室に入ってきた基地司令が、入り口にあった内線電話で指示を与える。周りにいた隊員隊の動きも慌ただしくなってきた。
基地司令は次々と命令を出して行く。手空きの者は自分の小銃を取りに武器庫に向かった。
その間にも不死者たちは増えてゆく、それは黒い虫の塊が津波のように襲ってくるように見えた。監視モニター越しに見ていた隆二は、疾病センター襲撃時のように統率された動きを感じていた。
「新しい制御型不死者を獲得したのか……」
その時間を追う毎に増えてゆく襲撃者の群れに隆二は思った。
北門の阻止線では急に現れた不死者への攻撃に追われていた。
「「「うがああああ!」」」
まだ、基地到達まで距離があるが不死者たちの呻き声は辺りに響き渡っていた。基地の防衛を担う自衛隊員たちは基地の周りに掘られている壕に沿って積まれている土嚢越しに射撃していた。避難民で構成している警備班も武器弾薬の配布などに協力して走り回っていた。また車などをバリケード代わりにしようとして移動させたりもしていた。
「弾幕を張れ! 一体も通すな!!」
前線の指揮官が双眼鏡で不死者の集団を見据えたまま部下たちに怒鳴りつけている。部下の自衛隊員は歯を食いしばりながら銃撃を続けていた。
「迫撃砲を撃て、出し惜しみするな!」
”ぽんっ! ぽんっ!”と迫撃砲を打ち出す音が聞こえ、その横では轟音を出しながらM2キャリバーを打ち続ける。着弾して不死者が弾けて飛ばされるのが見えるが、不死者たちの数は一向に減る気配が無かった。
一方、監視センターでは対処方法の指示で忙殺されていた。
「なんだ!? さっきまで何も居なかったじゃないか!!」
監視モニターが画角を広角に切り替えて北門を映し出した。そこには道路と言わず建物と言わずに、みっしりと隙間無く不死者で埋め尽くされていた。それらの不死者が基地に向かっていた。
「およそ1千体以上! 付近のビルから次々と湧いて来ています!」
「!!」
「北門守備隊応戦中! 応援と補給を要請して来ています!」
「…… 下水道?? 地下を通って来ているんじゃないのか?」
「この辺は暗渠(小川などに蓋を被せて歩道などにしている道)が多いから、そこを通っているのかもしれません」
「くそっ! 何も準備が整っていないのに!!」
監視センターに居る隊員たちは歯噛みしてしまった。基地司令が次の命令を出そうとした時。室内のスピーカーが再び非常ブザーと共にアナウンスを入れ始めた。
『デカイ奴が接近中!』
劫火型不死者の襲来だ。監視モニターを望遠に切り替えると大型マンションの隣から無表情な埴輪が顔を出した。その目は炎のように赤く光り揺らめいている。口からは何か粘液を垂らしたまま、のそりと歩いて足元の放置車両を踏み潰していく。時折、口を大きく開いたかと思うと、紅蓮の炎を吐き出している。自分の目の前にある障害物を粉砕しているらしい。
その巨体の肩の所には少女のような小さい不死者が載っていた。 恐らくは制御型不死者であろう。
「これは…… 総力戦になるな……」
基地司令はポツリと呟いた。
北門の守備隊も劫火型の接近に気が付いていた。守備隊長は複数の銃座に劫火型への攻撃を命じた。設置してあるM2キャリバーが曳光弾を従って命中していくのが見えた。しかし、その12.6ミリの銃撃も弾かれているのが見えた。
「なんて、頑丈なんだ。 対戦車ミサイルを撃て!」
設置して置いたATM-三(八七式対戦車誘導弾)を先頭の劫火型不死者に打ち込んだ。ところがミサイルが届こうとした時に、劫火型不死者はその劫火砲を薙ぎ払うように吐き出し、なけなしの誘導弾を粉砕してしまった。
「くっ、ミサイルに反応出来るのなんて卑怯だろ!」
そして、劫火型不死者はお返しとばかりに手短なビルの根元を劫火で破壊した。倒れ込んで来たビルはガレキの塊になってバリケードの壕を埋め立ててしまった。今度はそこを不死者たちが渡り始めた。
「銃座を諦めろ! 囲まれると不味いぞ!!」
守備隊長が無線機に怒鳴った。攻撃を受けた劫火型不死者は銃座へ劫火を吐き出し始めた。最初に狙われた銃座は逃げ出すのに遅れて、中に居た隊員たちは犠牲になってしまったが、次の銃座は逃げ出すのに成功していた。劫火は再び吐き出すのに時間がかかるお蔭だ。
「ちきしょう…… 一〇式戦車はまだ来ないのか!」
守備隊長は無線機に怒鳴りつけていた。守備隊は下がり始めた。不死者に囲まれてしまうと終わりだからだ。
片山隊長が部下たちに命じた。
「北門の応援に行く、作業かかれ!」
小隊が基地管理センターを出て行こうとした時。達也は戦車帽をかぶった自衛隊員に声をかけられた。どうやら戦車長らしい。一〇式戦車の前で人数の確認をしている最中だった所に片山隊長の小隊が通りがかったようだ。
「おい、君! 戦車に一緒に乗ってくれ。 砲手が足りないんだ!」
達也は自分を指差しながら何かを言おうとしている。いきなりの申し出に困ってしまって片山隊長の方を見た。
「手伝ってやれ! 後で合流すればいい」
片山隊長は苦笑しながら達也に小隊無線機を手渡しながら言った。人手不足なのはどこも一緒だ。戦車長は申し訳ないというように頭を下げた。まあ、これも良い経験になるかと、達也は戦車に乗り込もうとしてある事に気が付いた。
「自分は戦車砲の撃ち方が解らないです!」
達也は前で戦車長に言った。達也は同じ陸上自隊員とは言え普通化の人員だ。戦車の仕組みがまるで解らなかった。
「大丈夫。 火器管制システムが軌道修正してくれる、引き金を引くだけだ!」
急き立てられるように戦車内に入った。
「この制御盤モニターに写る十字カーソルを常に敵に合わせるようにコイツで操作してくれ」
戦車長は砲手席の射撃盤に座る達也の肩越しに、手元のジョイスティクのような操作桿を動かした。
「俺が撃てといったら引き金を引いてくれれば良いんだ」
戦車長はそれだけ言うと、前方に居る操縦隊員に発進するように怒鳴った。
二両の一〇式戦車が基地の中を疾走して行った。まだ距離はある。劫火型は火を吐きながら近づいて来る。戦車は走行しながら先頭の一体に砲撃を加えた。
『弐号車、俺たちは火を吐くヤツに集中する!』
壱号車の戦車小隊隊長からの指示が車内のスピーカーに入った。
「弐号車。 了解!」
しかし、最初の砲弾は弾かれてしまった。どうやら戦車の装甲並に頑丈か或は衝撃を吸収できてしまうようだ。壱号車の放った砲弾は劫火型不死者の咆哮に蒸発してしまった。劫火型不死者も戦車の存在に気が付き、狙って劫火を吐き出している。一〇式戦車は右に左に蛇行しながら接近を続けた。とにかく、劫火型の注意を自分たちに引きつける、そうしないと普通の土嚢のバリケードでは劫火砲に耐えられないからだ。
埋め立てられたバリケード用の壕を戦車は渡っていく、不死者たちはぶちぶちと踏みつぶして行った。
接近している最中も砲撃は続行していた。しかし、戦車砲ですら通じない、弾いてしまうか爆発しても衝撃を吸収してしまう。
「くそっ! 直接、口の中に砲弾を放り込んでやらんと駄目だ!!」
弐号車が居る場所では高層マンションや高層ビルが邪魔をして、必要な射線を確保出来ない。それに劫火型不死者は移動しながらでも劫火を吐き出す。そのタイミングでしか口を開かないので、狙うのはやっかいな問題だった。
「よしっ! 駐車場ビルと隣のビルの間から射撃するぞ。 ビルからジャンプして射線を確保するんだ!!」
戦車長がとんでもない事を言い出した。
「壱号車! 弐号車は駐車場ビルから奴の口に砲弾を叩きこむ! 気を逸らしてくれ!!」
戦車長が無線マイクに怒鳴っていた。壱号車は了解したと返事をして道を離れていく。劫火型の気を引きつける為だ。
「く、空中で撃てるんですか?!」
達也は思わず聞き返してしまった。
「お前の小銃は空中だと撃てないように出来ているのか? 大した違いは無い、大丈夫! たぶん……」
ちょっと自信なさげだが他に代案も無い、達也はとんでもない人たちに関わってしまったと少し後悔してしまった。
「まあ、サスペイションとかエンジンとかが逝っちまうが…… 整備長には俺が頭を下げるさ がはははっ」
戦車長は豪快に笑って”ビルに突っ込め”と操縦手に命じた。
「ひゃっはっー! 了解っ! しっかり掴まってて下さいねーー!」
操縦手が愉快そうに笑い、そして操縦桿を倒して駐車場ビル内に侵入していった。機甲科の人はこういう人ばかりなのか達也は頭を抱えたくなった。途中に有った軽自動車は踏みつぶされていく。元々、戦車などという重量物を通行させる事を想定していない駐車場ビルの床は、金属製の無限軌道にばりばりと削られていく。その中を一〇式戦車が突進していった。
弐号車は一階から二階に行くスロープでお尻を振りながら駆け上がっていく。V型八気筒水冷四サイクルディーゼルがフルパワーを出し轟音をビル内に響き渡らせていた。弐号車はビル内に止められていた高級車らしき自家用車を踏みまくって三階へと登っていった。駐車場ビルを滑走している間も、建物にある壁の隙間から劫火型不死者がのっそりと歩いているのが見えていた。時々、その顔に向かって壱号車が放つ戦車砲の火の玉が向かって行くが、事も無げに手で振り払ったり劫火で火の玉を薙ぎ払ったりしている。やがて弐号車は駐車場ビルの端に到達しようとしていた。それでも一〇式戦車は速度を緩めることなく、その獰猛なパワーで駐車場ビルの端に設けられている落下防止用の安全提を突き破って空中に躍り出た。
「いぃぃぃっやっほぉぉぉぉ!!!」
操縦手が空中に飛び出た瞬間に叫んだ。どうやら操縦手はかなりハイになってるらしい。一〇式戦車は駐車場ビルの3階から飛び出して地上五メートルぐらいを飛んでいった。達也は予め砲塔を回転させて置き、劫火型の居るであろう方向に向けておいた。そして、劫火型の口元に十字カーソルを合わせようとする。戦車長も自分のモニター席で手を握り締めて照準を見ていた。そして照準が重なる。
「撃てぇー!!」
劫火型の口元に重なった瞬間に戦車長が怒鳴った。
その声に反応して達也の指がトリガーを引く。”ズンッ!”と足元から震える発射音を残して四十四口径百二十ミリ滑空砲が吼えた。砲弾を解き放った戦車はその反動で、かなり斜めに傾いでしまいながらも向かいのビルの二階中程に巨大な車体を滑り込ませた。
いきなり空中に飛び出して来た戦車に、劫火型不死者は反応が遅れてしまったが直ぐに反撃の行動に出ようとした。劫火を吐き出そうと口を開いた刹那に弐号車の砲弾は口腔に飛び込んだ。劫火型不死者の頭が異様に膨らんだかと思うと、”ボヴゥン!”と呆気なく頭部は弾けて爆砕し、身体はそのまま前に倒れこんだ。
外からの衝撃には強いが、中からの圧力には弱いのだろう。それにすぐには劫火砲の連射が効かないようだった。まずは一体を粉砕した。結果は上々、問題はどうやって弐号車を地面に降ろすか……だ。
今度は戦車長が頭を抱えてしまった。
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