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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第55話 無人偵察機

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第55話 無人偵察機

 府前基地

「なんて事だ……」
 劫火型不死者が雑居ビルを攻撃する様子は、府前基地が放った無人偵察機で監視していた。最初は敵地の真ん中に取り残された栗橋友康を捜す為だったのだが、いきなり現れた巨人の不死者に動揺していた。無人偵察機はマルチコプターにビデオカメラと無線機を載せただけの簡単な物だ。監視モニターの前に居た隊員たちはその巨大さに驚愕したが、それよりも口から吐き出された劫火の方に関心が集まった。

「あのデカイ奴は身長が5メートルぐらいありそうだな、それに火を吐いたように見えたぞ?」
「いや、口の周りに粘液らしきものが垂れ下がっているから、火じゃないと思う」
「火じゃないな、その証拠に周りの建物に延焼による出火が見られない」
「自分には発射する前に光が口の中に集まっているように見えた」
「じゃあ、ビーム兵器なのか……」
 マルチコプターが送ってくるライブ映像に、隊員たちが思い思いに話し合っている。そこに疾病センターから救出されきた松畑隆二たちが合流した。新種の不死者が出たので基地司令が意見を求めたのだ。

「荷電粒子加速砲ですかね。 他にコンクリートを溶かしてしまうようなビーム兵器は思いつかないです」
 島田隊員がモニターから目を離さずに報告した。彼は自分のモニターに劫火を咆哮する様子を繰り返し再生していた。
「劫火型か…… また新種の誕生なんだろうな…… 」
 溜め息を付きながら松畑隆二がポツリと言った。栗橋友康が聖歌型不死者の対処方法を見つけてくれたのに、また振り出しに戻ってしまうからだ。
「このデカイ奴は聖歌型不死者の様に防ぐことは出来るのかね?」
 横で聞いていた基地司令が聞いてきた。基地の防御態勢を見直す必要があるのかを心配しているのだ。
「んー、見たところコンクリートを溶かしてますからね、戦車の装甲ですら無理でしょうね」
 島田隊員が頭を掻きながら返答する。
「じゃあ…… どうすればいいのだ?」
 基地司令は集まっている面々に尋ねてみた。何も対案が無ければサーモバリック爆弾で爆撃しようと彼は考えていた。隆二も首を傾げるだけで返答が出来ない。
「まずはアパッチヘリによる威力偵察を具申します、敵の戦力がどの程度か判らなければ適切な攻撃方法を策定出来ません」
 島田隊員が答えた。取り敢えず、どんな武器が有効なのかを推し量ろうと言うのだろう。
「この基地と劫火型不死者の距離が近すぎます。ここは一先ず逃げましょう、そして航空機による爆撃をお勧めします」
 片山隊長が答えた。だが、基地司令は唸ってしまった。逃げようにも航空機が足りないし、陸路でも動員できる車両に限りがあるからだ。基地には自衛隊・警察・消防など関係者の他に避難民など、合わせて三千人程の人間が詰めかけている。直ぐには避難できない。
「まず、栗橋氏を探しましょう。彼の観察眼のヒントから、これまでも何度も助けられましたからね」
 隆二が友康を探すように提案した。
「島田。 栗橋氏が最後に確認されたのはごみ焼却場だったな? そこに無人偵察機を差し向けるんだ」
 基地司令が島田隊員に無人偵察機の操作を命じた。

「強化された皮膚や骨格に、邪魔な物を溶かしてしまう熱線を吐き出す能力、全地球的な情報通信網を備えた生物……」
 基地司令は呻くように劫火型の特徴を言い出した。
「コドクウィルスは神の兵隊でも作ろうというのかね?」
 他の隊員も疾病センターのメンバーもモニターを見るのに夢中になっていた。
「……どんどん手強くなって行くな、ところで栗橋氏はまだ見つからないか?」
 誰も答えてくれないので、自分が考えているコドクウィルスのイメージを呟いていた。
「はい、見つかりませんでした」
 無人偵察機を操作している隊員が答える。
「…… ったく、じっとしていないな」
 そこに基地の副官が現れた。なんでも淡路島に作られている臨時政府から基地司令と片山隊長にテレビ会議の呼び出しが来ているのだと言う。
「君! 避難計画の立案を行うようにしてくれ」
 傍に居た女性自衛官にそう告げると、基地司令は片山隊長を連れて基地司令官室に向かって行った。

 基地司令が監視室を去った後は、各隊員たちがざわざわと喋っていた。
「あの、体育館の中をもっと見てみたいのですが……」
 松畑隆二が議論白熱する監視員を制して言った。
「はい、何か居ましたか?」
 捜査員は隆二を見ながら体育館付近の地図を呼び出した。マルチコプターに目標のGPS座標を記憶させるためだ。こうしておけば無線の信号が途絶えても自力で記憶座標まで戻ってこれる。迷子防止用の処置なのだ。
「いえ、あの劫火型不死者の発生原因が何なのか確かめないといけませんのでね」
 隆二は疾病センターで強化不死者同士が共食いしているとの東雲隊員の報告を受けていた。それが本当なら証拠が体育館にあると踏んでいるのだ。
「了解しました。 予備機を待機させますので少々お待ちください」
 操作担当官は複数飛ばしているマルチコプターを操作して、近所に展開していたもう一台のマルチコプターを呼び寄せた。こうしておけば深く入って電波が途絶しても予備の機から無線を中継させることが出来るからだ。
 その準備を終えたマルチコプターは体育館に空いた穴から侵入した。
 体育館の中は暗く、穴から入ってくる光だけでかろうじて見える程度だった。だが、それで十分だった。中は何か爆撃でもあったのかと見間違う程にバラバラ死体だらけだったのだ。その動く物の無い空間をマルチコプターは映し出していた。
「死体がバラバラですね。 手のみとか足のみとか…… んー、これは恐らく共食いした後ですね」
 隆二はその映像を見ながら隣に居た柴田医師に話しかけていた。柴田医師は口元を押さえたまましゃがみこんでいる。人の体を切ったり縫ったりする外科医である彼にも正視出来ない有様であった。
「内臓は無いという事は咀嚼されてデカイ奴が取り込んだと見るべきか……」
 隆二が独り言を呟いている。柴田医師は落ち着かない様子で部屋の中を歩き回り冨田看護師に叱られていた。
「カニバリズム……ですか?」
 冨田看護師がモニターを注視しながら聞いてきた。緊急外来の看護師であった彼女はグロイ画像に耐性があるらしい。
「…… し、自然界ではカニバリズムはさほど珍しい事では無いのですよ」
 柴田医師がそれを受けて説明を始めた。モニターに背を向けているのは殺戮画面を見たくないからなのだろう。
「多くの昆虫が共食いを行います。 カマキリやクロゴケグモなどのようにはメスが交尾した後、オスを食い殺すことはよく知られています。交尾後にオスを捕食してしまう昆虫は他にも多く存在します。これは、メス自身に良好な栄養状態を保ち、卵の発育を促すためであると考えられています」
 柴田医師は昆虫に詳しかったらしく、とうとうと昆虫の生態を語っていた。というかグロ画像を見なくて済むのなら何でも良かったらしい。
「「「……」」」
 会議室が急に静かになった。
「…… な、なんで、みんな私を見てるんですか?」
 会議室に居る男たちは冨田看護師を注視していた。交尾後にオスを食ってしまうメスのカマキリをイメージしたのは冨田看護師には内緒だ。

「コホン  もっとも人間同士の場合にはクールー病という病気に罹患する危険がありますけどね」
 軽く咳払いをして、隆二が説明を続けようとした。
「クールー病?」
 自衛隊員の一人が尋ねてきた。
「狂牛病に似た神経変性疾患で、現在のところ治療法はありません。 クールー病を罹患すると脳がスポンジのようになってしまうんですよ。 身体が震えてしまう・ろれつが回らないといった症状がみられ、やがては身体を動かすことや唾を飲み込むなどが困難となってやがて死亡します。 異常プリオンというタンパク質に感染してなると言われています」
 かつて狂牛病にかかった牛を食べて、脳がスポンジ状になってしまう奇病(クロイツフェルト・ヤコプ病)が欧米で流行った。その原因が異常プリオンと言われている。
「コドクウィルスは異常プリオンと関係があるのでしょうか?」
 冨田看護師が尋ねてきた、唐突に異常プリオンの話になった理由が知りたかったのだ。
「それは不明ですが、私は異常プリオンとの関連を疑っています。歩行型が強化型になるには、なんらかの切っ掛けが必要なはずなんです、そうでなければ今頃は強化型だらけになっているはずです」
 確かに強化不死者になれる者とそうでない者の個体差があるのは謎だった。
「そういえば強化型の頭部を調べたときに、妙なタンパク質が分析結果に上がって来たけど、あれが異常プリオンだったのか!」
 柴田医師がおでこに手を当てて言い出した。分析結果を見ながら独り言をブツブツ言っていた時に自分で正解を当てていたのだ。それを隆二は聞き逃さなかったのであろう。
「じゃあ、異常プリオンを持つ女性の不死者が強化型や劫火型になるのか……」
 島田隊員が言いながら、目に付いた不死者の数を数えていた。後、何体ぐらい発生する可能性が在るのかを心配しているらしかった。
「共食いは歩行型不死者や強化型不死者が体内に精製した物質を取り込んで、劫火を放てるだけに成長出来るようにする為でしょうね」
 隆二が劫火を吐き出す劫火型不死者を指差しながら言った。
「じゃあ、コドクウィルスは炭素繊維を作らせるために、我々人間を襲っているんですか?」
 冨田看護師が不快感を隠さずに言った。自分たちが狩りの対象になっている事を改めて確認する事になるからだ。
「はい、人間だってチーズやバターの為に牛を飼ってるじゃないですか。 同じ事ですよ」
 隆二は口元をゆがめながらことも無げに言った。

「さあ、栗橋さんを探しましょう……」

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