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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第58話 飛べない翼

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第58話 飛べない翼

 府前基地

 前原達也たちの乗る一〇式戦車はまだビルの二階にいる。前に進もうとすると車体が床にめり込んでしまうのだ。後ろに進もうとしても同じ結果だった。
「うーん、弱ったな」
 戦車長はヘルメットの下に指を入れてポリポリ頭を掻いている。
「戦車に沿って爆破してみてはどうですか? 旨くいけば、そのままストンと落ちますよ」
 達也が意見を具申した。
「うーーん、他に代案が無いし、やってみるか…… 仕掛けるのを頼めるか?」
 戦車長は達也を見ながら言った。
「大丈夫です…… たぶん」
 達也と戦車長はお互いに苦笑いしながら頷き合った。双方とも爆薬が苦手だったらしい。達也は戦車の四方の一メートルほど離れた場所に長く棒状に伸ばしたC4爆薬を仕掛けた。こうすれば戦車の重みで過重気味の床が一辺に崩壊して、戦車はストンと落ちるはずだ。
「じゃあ、行きますよ」
 達也が車内に戻ってきて起爆スイッチを手に持って言った。
「おう! 派手に行こうぜ!!」
 操縦手は愉快なことが始まると喜んでいるようだ。戦車長はうなずいただけだ。達也がスイッチを押し込む。すると”ズズン”と音と埃を巻き上げながら爆薬がさく裂した。それと同時に戦車は下の階に落下してしまった。

 下は外国車の展示場だったらしく、如何にも高そうな車が陳列されていた。一〇式戦車は高級外車を四台程踏みつぶして一階に下りた。ビルに飛び込んだ時には自動車の展示場だとは知らなかったので、これは事故のようなものだ。
「ひゃっはー、上手くいったぜー さあ、次の戦(いくさ)だぁぁぁ!」
 操縦手が大喜びで手を叩いてから、戦車のエンジンをスタートさせて前進させはじめた。ぐずぐずしていると今度は地下に落ちてしまいそうだからだ。そして操縦手は、まだ無事だった高級車を次々と三台踏みつぶして外の通りに出た。これはきっとわざとだ。

 外の通りに出ると、もう一両の一〇式戦車に出会った。見ると砲台に付いているはずの砲が半分ほど溶けている。劫火型とやり合っているときに劫火をかわし損ねたらしい。
「おーい、そっちは無事か? こっちは砲がやられちまった」
 壱号車の戦車長が砲台の上から身を乗り出して大声を出している。
「こっちは大丈夫。 でも、射撃盤がいかれたらしい。 目測でしか射撃ができんよ」
 達也の載る弐号車の戦車長が同じように砲台に身を乗り出して返事をした。
「あの、壱号車の砲手をこちらに載せましょう。 それで砲手を交代してください。 目測射撃なら訓練を受けた砲手の方が良い筈です」
 その様子を車内モニターで見ていた達也が、自分の載る壱号車の戦車長に具申した。
「うん、それもそうだな…… それで、君はどうするんだ?」
 戦車長は達也のほうを見ながら尋ね返してきた。
「原隊に復帰させてください」
 達也は不慣れな狭い戦車より、比較的自由に動ける肉弾戦の方が楽だと思ったのだ。
「判った。 見事な射撃だったよ、ご苦労だった。 おーい、壱号車の砲手をこっちに寄越してくれ!」
 壱号車の砲手がやってきて達也と交代し、戦車長と操縦手は敬礼して達也を見送った。これから彼らは基地に接近する不死者を踏みつぶしに行くのだそうだ。戦車砲が撃てないのでは接近戦はかなり不利になるからだ。それに戦車であれば讃美歌もある程度は凌げる。


 自分の原隊に復帰しようと駈け出した達也の頭上を、攻撃ヘリが劫火型不死者を討伐するべく飛んで行った。
 まず、ロケット弾での面制圧攻撃だ。攻撃ヘリの両側に付いているロケットポッドから、オレンジ色の炎を引きながらロケットが次々と飛び出して行った。ロケット弾は劫火型不死者に真っ直ぐに向かっていく。劫火形不死者の背中に何発か命中しているのだが、何もなかったのごとく振る舞っている。目標に命中せず地面で爆発したロケット弾の爆焔と煙が劫火型不死者を包むが、それを振り切るかのように劫火型不死者が顔を出し、攻撃ヘリに向かって劫火を吐き出した。それも断続するかのように”ポポポポン”と小出しにしてだ。
 劫火の出力を微調整して、連続攻撃する技を編み出した個体のようだ。劫火形不死者の放った劫火が攻撃ヘリを追って空中を飛び、やがて地面にも飛び、劫火の焔に触れた高層ビルの中程を粉砕した。高層ビルの上部階が崩れて来て、攻撃ヘリを飲み込んでしまった。

 もう一体の劫火型不死者が基地入り口にあったバリケードを粉砕した。しかし基地の周りには壕が掘られている。そして渡ることの出来る橋は掛けられていない。すると劫火型不死者は手短な家を持ち上げて壕に投げ込んできた。彼女らは壕を埋立て用としているのだ。基地内から射撃が集中しているが、全て弾かれるか劫火で焼かれてしまった。
 やがて、劫火のひとつが高層マンションに当たってマンションの片側半分が崩れてしまった。そのガレキは壕目がけて崩れ、壕に落ち埋め立ててしまった。
「……まずい、突破されるぞ……」
 その様子を見ていた守備隊の隊長は呟き、手元の無線機を取り上げた。

 劫火型不死者がその劫火でガレキの凹凸を薙ぎ払っていく。劫火で通路を開かれ強化型が侵攻してくる。歩行形はその後を群となってやって来た。その数はざっと見で二千体を超えている。しかし、通りの向こう側にびっしりと不死者が蠢いているのが見えていた。
 前面で防衛に努める戦闘車が劫火に飲み込まれる。
「攻撃地点は常に移動し続けろ! 立ち止まるとデカイ奴の焔に焼かれるぞ!!」
 守備隊長が無線で攻撃対象を指示し続ける。それでも劫火に焼かれてしまう隊員も居る。劫火の他にも聖歌型不死者の歌う賛美歌でも体調を崩す隊員が出ている。彼女たちのような攻撃力のある不死者は仲間がいようと構わなく攻撃してくる。犠牲を厭わない敵はかなりやっかいだ。
「今の地点から後退しろ! 囲まれる前に後退するんだ!!」
 守備隊長が無線に向かって怒鳴り付けていた。ひとつの地点に固執していると取り囲まれて全滅する恐れがあるからだ。それよりも撤退しつつ敵を減らす方が時間を稼げる。しかし、その時間も限られたものになりつつあった。

 守備隊長がふと見ると北門の前方にある通りを二両の一〇式戦車が走っていた。砲を撃つわけでもなく、ただ不死者を踏み潰しているのだ。ときおり後ろを走る戦車が劫火型不死者に向かって砲撃していた。前方を走る戦車はなぜ打たないのかと思って良く見ると砲身が半分無かったのだ。やがて二両の戦車は圧倒的多数の歩行型不死者に囲まれて停止してしまった。時折エンジン付近から煙が上がるところを見ると強引に突破を試みているようだ。しかし、彼らの努力は適わず劫火型不死者の劫火を歩行型不死者と共に浴びせられてしまった。


「……先生たちを避難させるんだ」
 守備隊隊長の悲鳴のような後退命令を聞いていた基地司令は部下に命じていた。
「オスプレイの発進準備!」
 命令を受けた部下は、内線電話で発進場に命令していた。重要人物の松畑隆二たち医療チームを避難させる為にオスプレイが発進準備を開始していた。そして、隆二たちはオスプレイで逃げ出す為に監視センターを後にした。もう、隆二たち医療チームに出来る事はここには無いからだ。必ず生き延びて不死者への反抗を試みるのが、今の隆二たちの使命だ。
「避難民たちは徒歩で海上自衛隊の横須賀総監部に向かってもらえ」
 基地司令は部下に次の命令をした。
「護衛はどうしますか?」
 それを聞いた部下は質問した。
「陸自の戦闘中隊を付けろ、府前基地があの不死者の大集団に飲み込まれるのは時間の問題だ。 基地守備隊が時間を稼ぐから一人でも多く避難させるんだ!」
 ある部下は伝令に走り、ある部下は小銃弾を配っていた。指令は基地を放棄することに決めたようだ。司令は自分用の小銃に弾装を入れながら部下に指示を与え続けた、敵わないまでも少しでも時間を稼いで見せる。彼の背中が語っていた。


 隆二たちの乗るオスプレイは滑走路に出るために駐機場から移動し始めた。その脇を劫火がときおり掠めて行く。オスプレイの挙動に気が付いた劫火型不死者が滑走路に向かって来ているのだ。それを阻むべく自衛隊員らは携帯式対戦車ミサイルなどを撃つがことごとく跳ね返されてしまっていた。オスプレイに迫る劫火型不死者と強化型不死者。その後ろから歩行型不使者が雲霞の様に迫ってくる。
 基地内に居る隊員たちや警備隊の市民たちも、侵入してきた歩行型不死者の相手に忙殺されてしまっていた。歩行型不死者を始末しないと避難民を逃がす機会が無くなるからだ。

 先に滑走路に近寄った劫火型不死者が劫火を吐き出した。オスプレイは右翼ギリギリで劫火をかわして左に走っていく、そこには聖歌型不死者がいた。聖歌型不死者がオスプレイの鼻先に向けて讃美歌を歌う。しかし、オスプレイは急制動をかけてかわしていた。いつまでもこのままではいずれ捕まってしまう。オスプレイは輸送機なので不死者を攻撃する術が無い、こうやって巧みに避けるしか方法が無いのだ。
「まだ、飛べないのか!?」
 護衛部隊の隊長がオスプレイのパイロットに訊ねた。その時に後から来た劫火型不死者が劫火を吐き出し、オスプレイの前方に穴を穿ってしまった。パイロットは舌打ちしながら穴を回避する。
「あの砲撃避けるのには、減速して方向を変えないといけないんですよ。 プロペラの出力を上げている暇が無いんです!」
 パイロットは右に左に避けながら、プロペラの速度を上げようと必死に操作していた。しかし、前方の滑走路に聖歌型不死者が複数居るのが見える。しかも、讃美歌を歌おうとしているではないか。後方には二体の劫火型不死者。隆二の乗ったオスプレイは完全に挟まれてしまった。
 パイロットは首を右に左に回しながら攻撃を凌げるルートを探している。劫火型不死者はニタリと笑った。聖歌型不死者もニタリと笑った。完全に彼女たちの砲撃射線上に居る。プロペラの出力は浮上には足りない。オスプレイは進退極まってしまった。


”ピィーーーーーッ!”


 不意に、向かいの丘から防犯ブザーの音が響いて来た。その電子音にオスプレイを追い掛け回していた劫火型不死者は”何事か?”と立ち止まってしまった。そして、他の不死者たちも揃ってそちらの方に顔を向けていた。それまで、辺りに充満していた雑音が消えたように思えるほど、防犯ブザーの音だけが響いていた。

 見ると丘の上に防犯ブザーを手に持った男がいる。
 乗っているのは錆びたママチャリ、子供用のリュックを背中に背負い、肩から水鉄砲と何やら白い筒を斜めにかけている。そして、ママチャリの傘立てに刺さっているのは傷だらけのくたびれたラバーカップ。

 

 栗橋友康だ。

 

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