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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第53話 劫火の紅光

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第53話 劫火の紅光

 府前市広域ごみ焼却処分場。

 栗橋友康はごみ焼却場屋上の昇降口から一階まで難なく降りる事が出来た。昇降口での攻防の時に騒いだせいで、不死者は昇降口に集中し、そこをアパッチがまとめて葬ってくれたおかげだ。
 もちろん残った不死者たちが少数いたが、物陰に隠れながら下まで降りて来たので見つかる事は無かった。友康は不必要に闘う事好まない。何しろ一人で行動しているので、闘うとその物音で周りの不死者を集めてしまうのだから当然であろう。コソコソと静かに移動するの良しとしていた。

 ごみ焼却処分場を抜け出した友康は○×ハイツと言う名前のボロアパートの二階に上がっていった。一階を避けるのは不死者に襲われた時に逃げる方向が限られてしまう為だ。外の階段を上がり五室並んでいる部屋のドアノブを片っ端から廻してみて、そして開いていた二番目の部屋に侵入した。まず探すのはもちろん食料だ。
「独身者用なのかな…… 碌な食い物が無いや……」
 使いかけのスパゲティやインスタントラーメンが残っていたがお湯を沸かす手段が無い。社会インフラが壊滅してしまうと、インスタント食品は取扱いに困ってしまう。非常食には向いていないのかもしれない。
 友康はインスタントラーメンの袋を手でもみほぐしして中身をバラバラな状態にした。そして、添付されているスープの素を振り掛けて食べ始めた。
 夜中に小腹が空いた時に、よくこうやって食べたのだ。猛烈に喉が渇くのが欠点だし、栄養の面で感心しないが取り敢えず腹は膨れる。ボリボリと乾麺を食べながら室内を物色すると化粧品や衣類が多数見つかった。
 室内の乱雑さや食料の少なさから勝手に男の部屋だと思っていたのだが、どうやらこの部屋の住人は女性だったらしい。女の子の部屋は奇麗に片付いているとの幻想を打ち砕かれたようだ。友康は脱ぎ散らかっていた女の子の下着を見てドギマギしてしまったが”例の物”がある可能性に気がついた。
「じゃあ、アレを持ってるな……」
 クローゼットをおもむろに開けると目的の物は小振りなチェストの中に有った。パンストだ。チェストからパンストをリュックに詰め始めた。ボーラを自作する為だ。重石なら河原に行けば小石はいくらでもある。
 ふと見るとパンストの下にコンドームが有った。それも詰め込んだ。ナニに使うのでは無い、水を確保する時に使うのだ。ポリ袋と兼用すれば水漏れの心配の無い水筒が出来る。しかも、ある程度は丈夫だ。汚れても洗ってしまえば再利用できる。
「…… た、大量にあるな、俺は数えるほどしか使った事が無いのに、トホホ」
 誰も聞いていないのに無意味な虚勢を張る素人童貞の友康であった。結構、お盛んな人だったらしくコンドームを三ダース程手に入れた。友康は次の調達物資を探し始めた。
「漂白剤無いかな……」
 不死者除けの水鉄砲がカラだったので補充がしたかったのだ。水はトイレのタンクに残っていたが、肝心の漂白剤が無い。洗濯をコインランドリーでするタイプの住人だったのかも知れない。スタンガン用の乾電池も欲しかったが無かった。友康は諦めてその部屋を出て隣の部屋に移って物色を続けることにした。

 友康がボロアパートで家探ししている頃、その斜向かいにある学校の体育館で異変が始まっていた。
 学校の体育館の薄暗い闇の中に何かが動いている。そこには不死者になりきれなかった人間の死骸や、歩行型不死者の残骸が隙間なく詰め込まれている。
 その中央付近に強化型不死者が一体居た。しかし、よく観察すると他の強化型不死者より一回り大きい。そして、その強化型不死者は目の前に居た不死者を頭から食べ始めたではないか。強化型不死者はお互いに共食いしているのだ。
 つまり、体育館に雑多に散らばっている死骸は彼女の食事の後だったのだ。まだ、動ける不死者たちは何も疑問に感じる事が無いのか、自ら進んで強化型不死者の前に進み出て捕食されていった。
”バリッバリッガリッボリッ” 体育館の中には咀嚼される不死者の音がいつまでも響いていた。

 強化型不死者は共食いすることで、彼等の体内に出来上がるカーボンナノチューブや様々な生成物を濃縮しているのだろう。そして、ある程度の大きさになると昆虫が脱皮するように、小さくなった体を脱ぎ捨てているのだ。
 仲間を食い終わって暫くすると、不死者の身体は膨らみ始めた。その腹には何かが動いているのが見て取れる。やがて、背中の表面にひびが入ったかと思うと、割れて中から一回り大きな不死者が現れてきた。
 強化型不死者が次の悪意へと羽化しはじめたのだ。ずるりと脱皮した強化型不死者は更に大きくなっている。羽化したばかりの身体からは水蒸気が立ち上っている。

 立ち上がった不死者の身長は五メートル弱程もある。一般的な二階建住宅位の高さである。
 そう、新たな種類の不死者の誕生だ。
 その強靭な身体は銃弾は勿論の事、多少の焔では傷が付けられなくなっていた。
 顔は埴輪に似て目・鼻に対応する部位に穴が開いているだけで、口は横に薄い線が入っているだけだった。身体は人間だったときの名残りなのか、胸が膨らんではいたが他に性別を示す特徴はどこにも無かった。しかし、強化型になれるのは女性だった不死者だけなので”彼女”と呼ぶべきなのだろう。
 しかし、その無表情の顔面から受ける印象は違って見えていた。目は燃え上がるように赤く染まり、口元から紅蓮の焔が顔を覗かせ、この世へ生を受けたことへの怒りに満ちているようだ。そして、額や身体のアチコチからは汗の代わりに漆黒の煙りを棚引かせている。彼女は非常に温かい体質らしい。

 立ち上がった不死者は不意に笑った。或いは笑ったように、見えただけなのかもしれない。口に相当する部位がすぅっと開き始めたのだ。彼女たちの得意な賛美歌を歌おうとしているように見えた。
”シュゥォォオオ……” 
 少しずつ開く口元が眩しいオレンジ色の光を放ち始め、その能面のような顔面にある空気が、まとわりついて陽炎のように揺らいでいる。
 大きく大きく口をニチャーという感じで開いた。口元には何やら謎の粘液が糸を引いている。そして粘着質の唾液らしき物が糸を引きがら身体に垂れ、溜め息のような薄青い煙が吐き出される。口腔の奥の方に集結してゆくオレンジ色の光は、堪り兼ねたように溢れ出て、凶暴な破壊力を持った劫火の紅光を解き放った。
”パウッ!”
 照射される時間が短いせいなのか、その射撃音は思ったよりは迫力は無い。しかし、破壊力は凄まじく戦車砲並みに有った。
 彼女の劫火の紅光は自分が居た体育館の壁を蒸発させた。かつて壁のあった部分は丸く溶けて、その縁からは熱を発しながら煙が立ち上がっていた。
 彼女は劫火型不死者なのだ。
 その劫火型不死者は体育館の壁を通り抜け、大通りに面した所に出てきた。そして目の前にあったビルに向かって再び劫火の紅光を放った。3階だてのビルが爆散では無く、氷が熱い蒸気に触れるかのように溶けて蒸発していったのだ。
「ィギィジャァァァアアアッ!」
 その結果に満足したのか劫火型不死者は虚空に向かって大きく咆哮を行った。

 そう、コドクウィルスは不死者を『荷電粒子加速砲』が照射出来る様にしたのだ。体内に取り込んだ素材を使って連鎖反応型圧電素子を作り出し、効率よく発電させる方式を生み出したらしい。その際に出される膨大なエネルギーを使っているようだ。
 閉じこもっていた体育館を出た劫火型不死者は、頭を少し持ち上げ周りを見渡し、やがておもむろに歩き出した。”ンズゥーーン”と完成体が歩く度に地響きが唸る。長い両腕は体重を支えるために地面に着いている。その呟きなのだろうか”シャーーー”と壊れたようなラジオの様に雑音を周囲に撒き散らしていた。
 目を転じると体育館だけで無く、校舎と思わしき建物からも光が溢れて壁が無くなると同時に違う劫火型不死者が現れた。コドクウィルスは劫火型を量産することに決めたらしかった。


「な!? ……ぇ? ……ええぇぇ??」
 その様子を偶然、ボロアパートの二階から友康は見ていた。そして目の前で繰り広げられた光景に目を見開いて驚愕してしまった。今、存在する強化型ですら、あんなに苦労するのに巨大なサイズでしかも火を吐くのだ。恐らく強化型以上に防御が強固に違いない。経験上で考えるに不死者は続々と強力になっている。友康は憂鬱になった。
「あれって元々人間だったんだよな? というか火を吐きだすって映画に出てくる怪獣じゃんか」
 友康は急いで静かにアパートを抜け出し、大通りの道を走り出した。”ちょ、あれはシャレになんねぇよ……” 怖いもの知らずの友康といえども、ラバーカップではどうにもならないと考えた。今は敵との距離を取る事が優先するのだ。
 不死者たちには絶大な人気を誇る友康を見つけたら、寄ってたかってあの”火”を集中砲火されるに違いにない。
「なんとかしないと…… みんなと連絡する手段は何か無いのか?」
 偶然とはいえ目撃が出来たということは、日本中或いは世界中で劫火型の羽化が起きているのは確実だ。それらの対策を考えるためにはもっと情報が必要だった。その為には府前基地を目指さなければならない。友康は無人となった街を走っていった。

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