自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。
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府前基地。
陸上自衛隊の駐屯地も関東には三十箇所あった。しかし事変後には朝霞駐屯地と習志野駐屯地しか残っておらず他は全滅した。事変の始まりのときに全ての傷病民の避難を受け入れたため、避難民の中で発生した不死者と外から襲撃する不死者に挟撃されてしまったからだと言われている。
府前基地が無事だったのは、その目立たなさであった。何しろ住んでいる市民ですら、市内に自衛隊の基地がある事を知らない人が多いのだ。
戦前は旧陸軍の燃料補給基地であった為、基地の敷地は広く作られていた。戦後は米軍を経て航空自衛隊に移管された過去を持つ。しかし、航空機の管制業務や陸・海・空自衛隊が必要とする気象情報の作成・提供を主要な業務としている為、普段は実働部隊はおらず今回の事変においても後方支援を主な業務としていた。
その為、怪我をした家族を抱えた一家は他の場所へ保護を求めて移動してしまい、残ったのは比較的軽傷の避難民が多かったのだ。
現在は隣にあった公園に避難民の一時収容と保護を行っている。基地の警備などは関東の各地にあった自衛隊の残存部隊が来ていた。基地に面する直線道路を航空機発着用の空間として利用しているが、何分にも急造であるため夜間の離発着は設備の面から無理だった。
ここに保護した避難民は瀬戸内海にある島々(海を隔ているので安全を確保しやすい)か北海道に収容されるのを待っていた。地元に残ることを望む者が多かったが食料に限りがあるので受け入れられること事はなかった。
基地指令官は不死者対策として基地の周りに壕を掘らせた。建築で使うユンボなどの重機を動員して掘らせたのだ。幅・深さを2メートルくらいにしておけば、不死者は渡って来る事は出来なかった。そして、壕に水を張り堰堤に木の杭を立てておけば不死者たちは入って来るも、壕に張る水は多摩川から引いて来れば良かった。
壕に落ちた不死者は、しばらくは水の中で足掻いているが、やがて腐敗して膨らみ水流に流されていった。勿論、そのまま海に流してしまうのでは無い。途中に堰堤を設けて流れ着いた不死者を最終処分していた。
壕には橋は作られてはいない。細い丸太とガイド用ロープを組み合わせれば、緊急の際に出入りする事が出来るようにはしてある。不死者たちはバランスを取ることが出来ないから、丸太を使って渡る事が出来ずに掘りの中に落ちるはずだ。でも、これはあくまでも緊急用だ。
現在、府前基地には直接的な入り口は無い。バリケードは不死者に数で襲撃されると突破されてしまうからだ。前回の時には基地の人員の半数以上を失うという犠牲を払ってしまった教訓から廃止したのだ。
どうやって出入りをするのかと言うと中程度のビル同士を鋼鉄ロープで結んだ簡易ロープウェイを作って人員だけをそれで運ぶのだ。戦闘用車両などは、その都度鋼鉄製の橋を延長させて出入りさせている。
しかし、基地司令官はそれでも安心できないのか基地内に不死者対策の罠をそこかしこに設けさせていた。
罠というのは幅10cmの板を格子状に渡して置く、その下に釣り針のような返しを付けた釘を埋め込んだ1メートル四方の網を敷き詰めておく。こうすると直線でしか移動しない不死者は板を踏み外し罠に足を取られてしまう。罠に掛かった不死者たちは外す事が出来ないのでその重い網を引きずってしまう事で行動が制限出来る。そこをさす叉と斧を持った自警団が処分してしまおうという算段だ。これなら歩行型の不死者にも走破型不死者にも対応できる。いちいち銃を使っていては弾が勿体無い。
また、丈夫な丸太と針金を組み合わせて、対不死者用の罠が全ての通路に張り巡らせている。針金は地面から六十センチくらいの高さにしてあるので、急ぐときには針金を潜ればいいのだ。通路はジグザグに進めるようになっている。不便だが入り込まれた時に、咄嗟に逃げるのには役に立つ、生存するのが最優先だ。
そして、壕が作られると付近の住宅からソーラーパネルを移設した。現代人は電気が無いと生きていけないからだ。不死者を追い払うポンプを動かすのにも電気は必要だ。
一番やっかいなのが”讃美歌を歌う奴だ”と松畑隆二が基地司令官に報告していた。
「何故、あの超音波砲が讃美歌なのですか?」
基地司令官は素朴な疑問を隆二に聞いてみた。
「敵味方関係無く破壊する無慈悲な神の力みたいだからですよ。 だから讃美歌なんです」
隆二は口の端を歪めながら答えた。後で片山隊長に聞いたらこれは彼が微笑んでるのだと聞いた。”なるほど、学者と言うのは変わった考え方をしておるもんだ” 基地司令官は色々な意味で感心した。
学者等はこのタイプを聖歌型不死者と名付けていた。これで不死者は「歩行型」「走破型」「制御型」「強化型」「聖歌型」の五タイプに分類される事になったようだ。勿論あとの型になるほど強くなる。これまでは全てをただ”不死者”と呼んでいたが分別出来るようになったので報告が楽になる。
基地司令官は壕に沿って十メートル間隔で銃座を設置していた。その銃座の形は聖歌型不死者対策で卵のような形をしている。超音波砲の音圧を逸らしてしまおうと言う考えだ。銃座には対物狙撃銃のバレットM82A1や対人狙撃銃M24SWSを備えて置いた。片山隊長の小隊からの報告で5.56弾が効かないと聞いていたからだ。
最初に使用するのはボウガンから放たれる弓矢、それが駄目な時には小銃、弾かれるのなら強化不死者なので大口径ライフルの出番だ。隆二からの忠告で強化型不死者は超音波砲を撃てるように進化するので必ず始末をつけるように警備隊員に申し渡されていた。
基地の外周には不死者を定期的に駆除するための施設もあった。不死者は人間を見つけると諦める事無くその場所に留まってしまうので、しつこい者は首狩りをしているのだ。数が集まりすぎると厄介な事になるのは経験済みだ。
首狩りに使う道具は鉄パイプに細工をしてあるもので、鉄パイプに電動巻き上げ機に繋いであるピアノ線を通し、先端を輪っか状にしておく。不死者の手の届かない場所から、不死者の頭に輪っかを通してから手元の電動巻き上げ機で一気に閉めるのだ。こうすると輪っかの中にある不死者の首はスポンと刈り取ることが出来る。
もちろん頭は動いているが、動かないので余裕を持って潰す事が出来るのだ。音も小さいのでコツコツと周りの不死者を処理するのに向いている道具なのだろ。頭を処分する時にはうろついている不死者に漂白剤をかけて追い払っている。
基地の中(というか隣にあった公園を避難場所にしていたのだが)にいる避難民たちには全員に何らかの形で仕事を与えていた。人間暇になると碌な事を考えないのが世の常だ。自暴自棄になって暴徒化されると厄介な事になるのを防ぐ為だ。
避難民たちは朝起きて罠の整備や前日に捕まえて処分した不死者の焼却処理などをする者。簡単な農場があり農作業をする者。自警団は男たちが交替で付き、自衛官を小隊長にして基地内を見回っている。
農場には育成に難しい物は植えない、作物に植え付けているのは大豆だ。これなら素人集団にも手に負えるし、第一大豆が無いと味噌も醤油も作れないので我々日本人にとっては大問題だ。他にもホウレンソウなどの野菜も植えていた。
自給自足出来るようにする為には、もう少し安全地帯を広げる必要があるが、そこまでは手が回っていないのが現状だ。
前回の大襲撃で基地を失われ掛けて、苦労して奪還してからは不死者の襲撃が下火になっていたが、疾病センターの騒動を見ると、まだまだ油断が出来ないようだ。
そこで基地司令官は無人偵察機の作成を命じていた。マルチコプターと呼ばれる十字型の梁の端に、それぞれにプロペラが付いているヘリのような飛行形態をするタイプの機体だ。一見すると玩具みたいだがカメラを搭載出来て、プログラムで自動飛行が出来るので定期的な偵察が出来る。人員が限られている現状では有り難い無人偵察機だ。
早速、テスト飛行をやらせてみた所、近隣の調布飛行場からの映像が送られて来た。出来れば飛行場を自分たちで使用したかったからだ。貨物機を離発着させる事が出来れば避難民たちの送り出しや貨物の受取が捗る。今の道路を利用した滑走路では地下にあるインフラ物(ガス管・水道管・排水管)のせいで重量のある貨物機が使えないのだ。
出来ればマルチコプターに武装を施したいのだが、それだと大型化してしまい、軽量で取り回しの良さが失われてしまうので、偵察用に特化して運用していた。
「調布飛行場の様子なんですが、無分別に避難民を収容したので不死者で溢れかえっているようですね」
マルチコプターを操作している技官が基地司令官に告げていた。ざっと見て数千体の不死者がいるようだ。普通なら獲物を求めて、バラバラに散って行動するのが不死者なのだ。まとまっているのは珍しかった。
「彼らが飛行場から抜け出して、こちらに向かって来る可能性はあるのかね?」
基地司令官はドローンから送られてくる画像を見ながら隣にいる松畑隆二に尋ねた。府前基地と飛行場は直線距離で二キロ程度しか離れていない。彼らがその気になれば一時間程度で着いてしまう。
「幸い出入り口が小さいので外には出て来られないようです。 疾病センターで感じたのですが制御型がいたらやっかいな事になるかもしれません」
隆二は疾病センターで見かけた、統率されている不死者たちの襲撃模様を報告していた。これだけの人数で制御型が発生していないのは何故なのか考え出した。制御型が居ればとっくに移動しはじめて、健常な人間が多数いるこの府前基地を襲撃しているはずだと考えたのだ。
栗橋友康の存在がキーになっているとの考えは隆二の胸にしまっておく事にした。
「一度、偵察小隊を送る必要がありますね。 健常者の有無を確認してからCB爆弾での爆撃を検討したほうが良いかと思います」
府前基地に於いて工作を担当している島田隊員がモニターを見ながら具申していた。開けた場所はCB爆弾の威力を発揮出来る場所なので、多数の不死者を一度に退治出来るチャンスだ。基地特製のドラム缶……では、なくてCB爆弾ならチヌークでぶら下げて投下が出来るからだ。
「うむ、そうだな……」
強行偵察を出来る部隊は限られている、実戦で鍛えようにも経験者が少ない。寄せ集めの部隊ばかりなので各隊員の技量が分かりかねているのもある。
「……また、片山君に命令するしかないのかな?」
基地司令官は腕組みをして考え込んでしまった。出来れば休ませてやりたかったのだ。
その府前基地の食堂に疾病センターから脱出してきた一行が居た。彼らは府前市広域ごみ焼却処分場でのアパッチが攻撃する模様を見ている。
まず、超音波砲の射撃の軌跡が見えた。超音波砲は白い軌跡を描いて飛んでいくのだ。ヘリがその軌跡の方に近づくと処分場ビル屋上の昇降口の上に男性が一人だけ居るのが見えた。その周りには不死者の群れが蠢いている。しかし、ヘリからではどれが強化型不死者なのかは判別が付かない。
ヘリのガンナーは迷わずに殲滅することを選んだようだ。 ”……カタカタカタ……” 画面に映るモノクロの映像にガンナーのマイクが拾ったチェーンガンの音が少しだけ入っている。画面の不死者と思われる集団に、チェーンガンの砲弾の白い軌跡が触れたかと思うと不死者は爆散した。凶暴な力を秘めている三十ミリ砲弾が命中したのだ。普通の人間なら掠っただけでも肉をごっそり持っていかれる弾種だ。ヘリはそのまま横滑りしながら不死者に砲弾を叩き込んでる。白黒の画面では判別しづらいが、もうもうとした爆煙が立ち込めているらしい。だが、それも直ぐに強風で払われてバラバラに飛び散った不死者の残骸が映し出されていた。
すると昇降口の上に居た男性が立ち上がり、ヘリに向かって手を振っているのが映し出された。
「あっ! 栗橋さんだ!!」
東雲隊員がモニターを指差して嬉しそうに笑っている。
モニターを見ると半壊している昇降口の上で、栗橋友康が”あの”ラバーカップを振っている。この時点で攻撃ヘリのパイロットは友康の事は知らなかった。誰かを探せと無線で言われたが、てっきり自衛隊員を探すのだと思っていたせいだ。それに警護を言い渡されたチヌークを守る事が優先で、たまたま通りすがりに生存者と思しき男を助けたに過ぎないと思っていたのだ。
府前基地に帰投してチヌークに収容した面子から、友康の事を聞きガンカメラに写っていた男の事を思い出し、撮影データを持って来たのだった。
「な? 言った通りになったじゃねぇか。 俺たちみたいに銃に頼らなくても、しぶとく生き残るのが友康なんだよ」
前原達也は自慢げに話をしている、友康の無事が確認出来たのがよほど嬉しかったのだろう。そしてホッと安心する一同。
「隊長、助けに行きましょう」
すぐさまに助けに行こうと言いだす達也と東雲隊員であった。
「うむ、装備を補充しておくように、これから基地指令官に会って人員の補充をお願いしてくる」
片山隊長はそういうと基地指令の元に現状報告と補充の要請に部屋を後にした。片山隊長は休みを取らずにすぐに出かけるつもりだった。
”……もう、これ以上。 仲間を失いたくない” 片山隊長はその思いを胸に秘めて廊下を歩いていた。
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