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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第54話 冷凍倉庫

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第54話 冷凍倉庫

 府前市内冷凍倉庫。

 ここは府前市民の胃袋を満たすべく世界中の海産物を冷凍しておく倉庫だ。内部は広く、様々な冷凍食品が山のように積み上がっていた。日本人の代表的な好物の海産物と言えばマグロだ。世界中の海で取れた身の丈ほどもある本マグロから近海で取れたメバチマグロまで冷凍されて保存されている。その本マグロは床に並べられて永遠に来ない出荷を待っていた。

 まぐろ、まぐろ、まぐろ、ともやす、まぐろ、まぐろ……

 栗橋友康は冷凍本マグロの間に隠れていた。
「さささささ…… むむむむむ…… いいいいい……」
 歯がガチガチと鳴るぐらいに寒い冷凍倉庫の中。それでも不死者が何体かうろついていた。
 劫火型不死者を目撃した友康は基地に向かおうと走っていた。だが、道路を走って角を曲がろうしたときに、不死者たちの集団に鉢合せをしてしまったのだ。幸い走る不死者は居なかったらしく、強化不死者や劫火型不死者が出てくる場面は無かったが、それでもそれなりの数の不死者に囲まれてしまった。前後を挟まれて逃げ道に窮した友康は冷凍倉庫の中に逃げ込んだのであった。

 冷凍倉庫の扉を閉める暇が無かった為、何体かの不死者が侵入されてしまったが、彼らは友康を発見出来ないで彷徨っていた。友康は保冷倉庫に入った瞬間にその寒さにビックリしたが、入り口付近に有った防寒具を着て、更に上から非常用保温シート(防風・防水機能で保温が出来る銀色のシート)を羽織っていた。それでも冷凍倉庫のマイナス二十度では、余り役に立っていなかった。

 隠れる場所が少ない倉庫の中、シートに包まって白い息を吐きながら冷凍まぐろの間に寝そべって、不死者の集団が行き過ぎるのをじっとしていた。不死者たちはあまり目が効かないのは判っている、冷凍まぐろの間にいる友康には気が付かずに通り過ぎた。旨くかわせそうだ。

「ぶぁっくしょい! チキショーメ……」
 しかし、余りの寒さに友康はクシャミをしてしまった。もう少しで上手く行くのに、肝心な所で全てを台無しにするのは友康の持って生まれた性分らしい。慌てて口元を抑えたが遅かった。その音に反応を見せた不死者たちが振り返り友康の方に歩いて来たのだ。三メートル・二メートル…… 一メートル…… しかし、足元に居た友康に気付かないのか彼らは通り過ぎてしまった。

 友康は保冷シートから目だけを出してその様子を見ていた。 ”動かなかったのが幸いしたのかな? それとも保冷シートのお陰なのか……” 漠然とした疑問を抱きながら、友康は冷凍倉庫からこっそりと抜け出した。しかし、街角でまたもや不死者の集団に鉢合わせしてしまった。人数は五体ほどだ。
「!」
 驚愕してその場に張り付いたかのように動かなくなった友康。しかし、不死者の集団は友康の存在に気がつかないのか、やはり通り過ぎて行ってしまった。
「……なんで?」
 そんな不死者たちの行動を、友康は横目で見ながら思わず呟いてしまった。この近辺には爆撃前に多数の不死者が集結しているのは判っている、だから急いで離れなければならないのも判っている。しかし、すぐには動かずに不死者の集団が見えなくなるまで、その場でじっとしていた。今、起こっている現象を解明する必要性を感じていたのだ。

 そういえば松畑医師が”不死者は赤外線で見ているのかもしれない”と言っていたのを思い出した。
 じっとしている間、疾病センターの地下警備室で松畑隆二と柴田医師の会話を思い出していた。 ”不死者は赤外線で健常な人間を識別しているかもしれないとも言っていたな……” それなら不死者が自分を見つける事が出来なかったのは、全身を覆う保冷シートを被って体温を外に逃がさないようにしているお蔭だと説明が付くと友康は考えたのだ。

 友康は自分の考えを確かめる事にした。”だったら、不死者を健常者と勘違いさせてしまえば良くね?” と考えたのだ。そこで不死者たちに見つからないように調剤薬局に赴き、漂白剤(次亜鉛素酸ナトリウム)と下剤(酸化マグネシウム)を確保するついでにある物を探した。略奪者が見向きもしないもの『携帯式カイロ』だ。高齢者の体温保持用に大概の調剤薬局に大量に保管されている。祖母の介護を手伝った時に近所の薬局に買いに行かされたので知っていた。”赤外線に反応するのなら、これが有効なのではないだろうか?” と思い付いたのだ。

 友康はさっそく実験してみる事にした。調剤薬局の前の通りには何体かの不死者が所在無げに歩いている。友康は調剤薬局の二階に上がり、窓から一階の庇の上に出て不死者が来るのを待ち構えた。
 カイロは服に容易に張り付ける事が出来る様に片面に糊が付いている。その面を下にして反対側をラバーカップの棒の部分に洗濯バサミで挟み込んでおいた。こうしておけば不死者の頭にカイロを張り付ける事が出来ると考えたのだ。
 そして軒下をうろうろしている一人の不死者の頭にラバーカップの先で貼り付けてみる。だが、その不死者がしばらく歩いているとカイロがずりずりっ…… ポトンと落ちてしまった。
「あっ …… 本体が落ちた……」
 その不死者はカツラを被っていたのだった。緊張して事態の推移を見守っていた友康は脱力した。しかし、それが緊張を解してくれたのだった。

 友康は深呼吸をして気を取り直して、次の不死者に狙いを定めた。今度は見た限りでは女性なのでヅラの可能性は無い(たぶん)。ラバーカップの先に付けたカイロを女性の不死者のおでこに張り付けた。
 そして、顔は全部出さずに「おい!」と大声を出した。周りに居た不死者たち。最初は声のした方に顔を向けたが、すぐにおでこにカイロを張り付けた女性の不死者に気が付いたようだ。
 その不死者たちの反応は素早かった。
「うがああああ!」
 たちまち女性の不死者は囲まれて首に噛みつかれてしまっていた。その女性の不死者は首を噛まれ過ぎて頭がポロリと落ちてしまった。しかし、不死者たちはその頭にも群がり噛みつこうしていた。頭の無くなった身体の方には見向きもしなかった。
「…… やはり、赤外線に反応するのか」
 不死者たちの激しい反応に、友康は携帯式カイロの有効な運用方法を考え始めた。

 ”赤外線を感知するという事は、強力な赤外線を照射すれば、不死者の行動の自由が効かなくなるんじゃないのか?” つまり不死者が受動出来る以上の光線を目に浴びせれば、視覚を飽和状態にさせる事が出来る。視覚で対象を識別しているのであれば、かなり有効な目くらましになるだろうという事だ。

”目くらまし?…… ! ”

「そうか! 目を潰してしまえば良いのか!!」

 友康は指をパチンと鳴らそうとしたが”スカッ”と音がしただけだった。”じゃあ、強烈な赤外線を発生させる装置を作ればいいじゃん!” そして行動の自由が効かない内に不死者を始末してしまえば良い。これなら”強烈なビーム”を出すデカイ不死者にも通じるに違いない。
 物理的に目を潰すには狙撃できる銃や弓などが必要だが、友康には無いので接近する必要がある。だが、光源であればある程度離れて攻撃が出来る。ヘタレ具合なら右に出たがる者がいない友康には打って付けの方法だ。この事を基地に避難している松畑隆二や前原達也に教えてやりたいが連絡方法が無いのでそれは後廻しだ。
「俺ってば天才! でぅふふふ……」
 友康は強烈な赤外線を発生させる装置を思いついたらしく、調剤薬局を出て通り一本向こうにあるシャッター商店街を目指して歩き出した。

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