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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第51話 猛禽の飛来

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第51話 猛禽の飛来

 府前市広域ごみ焼却処分場。

 栗橋友康はゴミピットにある大きいクレーンの上に居た。クレーンは”天井クレーン”と呼ばれる酒類で、Hの字形に天井付近に取り付けられており、この手のタイプのクレーンは操作する場所は別にあるのだ。そして、そこからしか操作が出来ない。つまり、友康は自力で天井近くにある保守点検用の通路まで登らなくてはいけないのだ。
 友康はゴミピットからの脱出する為にリュックの中からロープを二本取り出した。一本づつ交互にクレーンの巻上げ用ロープに縛り付け、それで自分の身体を支えつつ、登りきろうという作戦だ。
 友康は最初の一本を結び、次にもう一本を少し上の部分に結ぶ。身体をそこまで引っ張り上げて、最初のロープを外して少し上の部分に結びつける。ゴミピットの底からは囚われてしまった不死者たちのほえ声が聞こえてくる。なるべく下を見ないようにしていたが、ふと怖々と下を見てしまった。
「……うがああああ!」
 遥か下の方では動く黒いゴマ粒がひしめき合っているような不死者たちが見えた。黒い虫が畝っている様子に肌にプツプツが出てきそうだ。
「キシャアアアア!」
 中には走る不死者も居るようだが、ピットが深すぎて思うように動けなく虚しく咆哮するだけだ。きっと強化型も居るに違いないが、下からは遠すぎるのか友康は発見されていないようだ。
「うひぃぃぃぃ……」
 友康はその様子に目を瞑って、思わず巻き上げロープにしがみ付いてしまったが、意を決したかのように目を見開いてロープを結ぶ作業を再開した。このロープの結び方は”もやい結び”と呼ばれる物で、頑丈な結び方であるが片方の紐を引っ張ると簡単に外れる結び方だ。友康は以前にロープの結び方をネットで検索した時に見つけて練習しておいたのだ。
 そんな上りかたをして、小一時間ほどでクレーンガーダ(クレーン自体を吊下げている梁)にたどり着き、点検用通路に身を横たえる事が出来た。
「やっと、登った……しかし、高いなここは両方とも”ひゅん!”となっちまうぜ、でぅふふふ……」
 友康は安心したのか下を覗き込みながら、そんな軽口の独り言をつぶやいていた。そして、外へ脱出する方法を考え始めた。
”恐らく一階の焼却場入口の方は不死者だらけのはずだよな……なら、職員の通用口からの脱出になるのか……”
 友康はそんな事を考えながらクレーンガーダを渡り保守点検用の入口から建物内に入った。点検用の通路である為なのか、或は普段から人通りが少ないのか、不死者がうろついている事はなく、難なく一階の階段出口ドアまで辿り着くことが出来た。

”ここでドアを開けると不死者だらけなのが、ゾンビ物のお約束なんだよな……”
 友康は慎重だった。過去に色々と手痛い経験から学んでいる、念のために階段の昇り口にロープを張っておいた。こうしておけばいざという時に足止めが出来ると考えたのだ。本当は針金が良かったが、生憎と手持ちが無くなっていた。
 まずドアに耳をぴったりと付け、ドアの向こう側の気配を伺った。幸いにも何も気配を感じないし物音も聞こえない。そこでそ~っとドアを開け顔を半分だけ外に出して素早く周りを見廻した。
 覗いて見ていたのは職員用の廊下らしく事務所のドアが並んでいた。
 友康は音を立て無いようにそ~っとドアを閉め、身を屈めながら焼却炉とは反対方向に歩き始めた。普通の作りであるのなら、廊下の先に職員用の出入り口があるのは経験上の知恵だ。
 そして、それらしき入口は目に見えている、出入り口まで五メートル・四メートルと近づく、途中の部屋には不死者が所在無げに歩いている。外の喧噪には興味が無いようだ。三メートル・二メートル。外の風景がドアの窓越しに見えてきた。
”後、少し……” 友康は安全確認の為に後ろをチラリと見てから正面を向いた、その時。
 ドアの窓に不死者が張り付いていた。口から涎を垂れ流しながら、左右の目はそれぞれに違う方向を見ていたが、友康と目が合った途端に咆哮しはじめた。
「ィギャッハハハハ!」
 よりによって強化不死者だ。本の一瞬前まで居なかったのにいきなり現れてしまった。
「くっ!」
 友康は回れ右をして走り出した。手元には何も武器を持っていないからだ。もっとも例え所持していても逃げたであろう。
 ガシャーンと背中でガラスが割れる音を聞いたが、友康は振り返らずに保守用の階段を目指した。途中の部屋に居た不死者たちも気が付いたのか廊下に出て来ようとしているのが目の端に映った。
”……キ、キ、キ、キ” 不気味な音が背中越しに聞こえてくる。彼女は友康を見つけた喜びを賛美歌で表そうとしているのだ。
 友康は飛びつくように保守用階段の入口ドアを開けた。
”キュィーーンッ パゥンンッ!”
 扉を開け中に飛び込むのと同時に讃美歌の咆哮があった。その衝撃波は開け放れていたドアにモロに命中し弾き飛ばしてしまった。友康は衝撃波の余波を受けて壁に叩きつけられてしまった。

 壁に叩きつけられて頭を打った衝撃と、クラクラとする頭を振りなんとか立ち上がる友康。もっとも頭への衝撃だけでなく、咄嗟に両腕で耳を庇っていても襲ってきた超音波のせいでもある。
「……や、やばい。 今ので不死者が集まって来てしまうよ」
 身体を壁にもたれさせ、一歩づつ階段に向かう友康。廊下からはざわざわと気配が漂い始めた。その中に”タッタッタッ”と走る音が混じっているのを聞き逃さなかった。讃美歌を詠った強化不死者が中に入り込んだに違いない。
 友康は階段に張ったロープを潜り、上階への階段を上りだした。一階の折り返しの所で後ろを振り返ると、階段の入口には何体かの不死者が居た。その後ろに強化不死者が居るのが見える。
「ィギャッハハハハ!」
 しかし、強化不死者は歩く不死者が邪魔で中に入って来られないらしい。他の不死者たちと入口の所で押し合いをしていた。友康は今の内に距離を稼ごうと階段を一段飛ばしで上り始めた。すると空気が振動するのを感じ始めた。その独特の音に気がついた友康。 ”これはヘリの風切音だ。 恐らく救助が間に合って自分を探して居るに違いない!” そう考えた友康は今度は二段飛ばしで屋上への階段を上り、昇降口の椅子やら木材を乗り越えて屋上へと飛び出した。

 ごみ焼却場の周りは、爆撃の影響で炎と煙が立ちこめていた。視界が限られているのかヘリはゆっくりと飛んでいるが、その姿勢は焼却場を向いてはおらず、今にも立ち去ろうとしているかのようだった。
「ああぁぁぁぁ…… 待ってぇぇーー! ここっ!! ここに居るよぉぉぉーーー!!!」
 ゴミ処分場の屋上に着いた友康はラバーカップを振り回しながら叫んだが、無情にもヘリの機影はどんどん小さくなっていく。
「ああぁぁぁぁ…… 行っちゃった……」
 友康はガックリと肩を落としてビルの縁に立っていた。その時、”ぞわり”とした感覚が友康の背中を流れた。救助ヘリに夢中で良く確かめずに屋上に出てしまったのだ。
”…… ひょっとしてやっちまった?”
 恐る恐る後ろを振り返る友康。
「うがああああ!」
 やはり、不死者だ。屋上には不死者の集団が居たのだ。そういえば屋上への昇降口にバリケードらしき残骸があった事を思い出した。恐らく事変が発生した時の生き残りが立てこもったのであろう。そして、噛まれたか或は元から感染者が居たかで、不死者が発生して全滅してしまったと推測される。
 友康は思わず後ろに居た不死者の襟首を掴んで屋上の縁から投げ落とした。元女性だったと見えて身体がそんなに重くなかったのが幸いだった。周りを見渡すと他に五体の不死者がいる。一体は女性らしき不死者で残りの四体は子供の不死者だ。
 見ると屋上の隅の方に机で仕切られた領域があり、友康はそこに逃げ込もうとした。いくら体が軽い女子供といえども一辺に来られると手に余ってしまう。滑り込むように避難領域に逃げ込んで見ると猟銃が落ちていた。
「ここで戦った奴がいるのか…… 居ないと言うことは…… 自分で自分を始末したんだろうな……」
 そんな事を考えていると残りの不死者が避難領域に侵入してくる。友康はリュックからビニール袋を取り出し不死者の頭に被せていった。これで不死者をやっつけることが出来る訳では無いが目くらましには使えるのだ。それに始末する時に顔を見なくて済む。
 いくら不死者でも子供を始末するのは気が引けてしまう。友康もまた普通のいち市民なのだ。ビニール袋を被せられた不死者は手探りで友康を探そうとするが、軽々と避けながら一人づつ抱えて屋上から放り出した。気は引けるけど同情すると自分の身が危ない。仕方がない事と友康は割り切る事にしている。

 友康は屋上に居た不死者全員を放り出してから、先ほど見つけた猟銃を調べて見た。だが、残念な事に弾は空砲が幾つかしか無かった。実弾は全て使い切ったと伺える。猟銃の台尻に血の跡がこびり付いて居る所を見ると、最後には棍棒代わりにして戦ったのだろう。
 友康はポケットティッシュを取り出し、水に浸して釘やボルトを包み始めた。銃弾代りにする為だ。無ければ作れば良いのだ。実にシンプルな考え方だ。だが、速射が効かない。一回使ったら次が無いのだが、何も無いよりはマシだろう。
”……キ、キ、キ、キ”
 すると昇降口の所から嫌な音が聞こえ始める、強化不死者が到着してしまったのだろう。
”キュィーーンッ パゥンンッ!”
 賛美歌と共に昇降口にあったバリケードもどきが吹き飛んだ。でたらめに積んであれば威力が軽減されたのだが、バリケードを積んだ人間は几帳面だったのだろう。超音波砲をモロに受け止めてしまったらしく、丁寧に積まれたバリケードは雑多なゴミとなって屋上から吹き飛んでいった。
「まずい……」
 友康は急いで昇降口の屋根に昇って、不死者たちから隠れた。何も無い屋上では他に隠れる適当な場所が無かったのだ。
 そーっと昇降口から覗き見ると不死者たちが、次々と屋上に入り込んで来た。中には下半身の無い者も居る。階段に張ったロープで切断されたのだろう。そして、やっかいな強化不死者も三体も入り込んで来た。
「そか、そういえば呼びかけ行動をしていたな……」
”ィギャッハハハハ!”これは友康を見つけた事を知らせる呼びかけ行動らしく、付近の強化不死者が集める行動らしかった。友康はどこかに逃げ道は無いかと探ってみた。後ろは取っ掛かりの無いビルの壁、地上まで20メートル以上はある。ロープは階段の所で使い切ってしまった。手にはなんちゃって猟銃とラバーカップ……

 強化不死者は執拗に友康を探して屋上を伸し歩いている。普通の歩く奴も十体以上いる。さて、どうしたものかと下を覗き込んだ時に強化不死者と目が合ってしまった。
「まずっ!」「ィギャッハハハハ!」
 友康は慌てて頭を引っ込めたが遅かった。見つかってしまたのだ。
”……キ、キ、キ、キ”
 再び彼女たちは歌おうとしている。何しろ恋い焦がれる友康を見つけたのだ。
”キュィーーンッ パゥンンッ!”
「こんな所でむざむざやられて堪るか! くらえっ!!」 ”ドンッ!”
 友康は即席の弾を入れた猟銃で正面の強化不死者に発砲した。弾を詰めすぎていたのかバレルが割れてしまったが、弾丸代わりの釘やナットは強化不死者に命中し、口の中に入ったボルトは彼女の後頭部を吹き飛ばした。
 しかし、残りの二体の阻止には間に合わなかった。彼女たちの歌は昇降口の壁を壊してしまったのだ。その衝撃で昇降口の中に居た不死者たちが押しつぶされてしまった。
「同胞が死ぬのもお構いなしかよ!」
 超音波砲は連射出来ない、しかし屋上には他にも強化不死者がいる。友康は昇降口の上で強化不死者二体に囲まれているのだ。残りの武器はラバーカップのみ。超音波砲で攻撃されて、半壊した昇降口の上で絶体絶命な状況に達観してしまった友康。
「……くそっ、他に手は無いのか」

 その時、ごみ焼却場の建物が震えた、震えたというより振動したが正しい。周辺の空気を振動させる脈動が伝わって来る。”え!?”と思っていると隣のビルの陰から猛禽が飛来してきた。
 AH-64Dアパッチ攻撃ヘリだ。戦車を屠るのに使用される空を飛ぶ猛禽だ。
 その猛禽は屋上に居た強化不死者を20ミリガトリング砲で砲撃して粉砕した。兵隊が持つ小銃弾は弾いいてしまえる強化不死者も、装甲車などを撃破する事を目的に強化されている20ミリ砲弾は無理だったようだ。風船が壊れる時のようにパチンと弾けて、その血肉を撒き散らすように粉砕されていく。
 AH-64Dアパッチは、姿勢をそのままに横滑りしながら、屋上にたむろする不死者たちに死のダンスをプレゼントしていった。何発かに一発の割合で含まれている曳航弾が蛇のように荒れ狂い、その触手に似た赤い光で不死者を次々と粉砕していくのだ。
 時間はものの一分も掛っていないが、友康には永遠に続くかと思われた。何しろ自分の横を機銃弾が通り過ぎて行くのだ。恐ろしいのにも程がある。しかし、あれだけ苦労して逃げ回った強化不死者を、攻撃ヘリはいとも簡単にやっつけてくれた。安心したのか友康は攻撃ヘリに向かって手を振った。
 ヘリのガンナーは人差し指と中指の2本で軽く敬礼して去っていった。
「ありがとぉーー!」
 どうせ聞こえないと思っていたが、ラバーカップを振りながら友康は叫んだ。 だが、ハタと気がついた。

「あ……乗せて貰えば良かった……」

 

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