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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第50話 震える大地

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第50話 震える大地

 病院棟の屋上。

 病院棟の屋上に沈黙が流れていく。爆撃機の姿は夜明け前の薄明かりの中でもはっきりと見えていた。きっと上空の方が明かりが先に来ているのであろう。その行方を全員が見守っているのだ。
「一個飛行中隊だから四機、一機に付き四発爆弾を積んでいるはずだから中隊全部で十六発」
「子爆弾(スキート)は一発に付き四十個だから合計六百四十個か……」
「サッカーコート十面分くらいの広大なエリアを吹き飛ばしますね……」
 小山隊員と東雲隊員が上空の爆撃機を見ながら話し合っている。やがて、目標を定めたのか高度を落とし始め、それを投下しはじめた。
 空中から投下される爆弾は遠目にも大きいのが判るほどだ。ぱっと見だと電信柱を無造作に切ったような格好だった。それが空中分解したかと思うと雲霞の様に子爆弾を周囲に撒き散らした。まるでヒヨドリの集団が飛行してるみたいだ。
 最初は散発的に爆発している様子が見えていたが、やがてそれらの雲霞は一斉に爆発した。どろどろとした爆音と共に、黒々とした爆炎が拡がり衝撃波が白い弧を描いて空中に広がって行った。
「……あいつ、旨く逃げる事が出来たかな?」
 前原達也がポツリと呟いた。あいつとは栗橋友康の事だ。全員、爆炎が空高く昇って行くのを見て黙りこくってしまった。そして煙を照らし出すかのように太陽光が差し込み始めた。怒りに震えた大地を慰めるかのように光が差し始めたのだ。
 雲の隙間などから光が伸びるような現象を”天使の階段”と呼ぶそうだ。爆炎の煙から伸びる光は”悪魔の階段”と呼ぶのだろうか?達也はそんな事を考えた。『前原さんは神様に会った事はあるんですか? 僕は無いですよ。 だから神様なんかいないんですよ。 でゅふふふ』 そんな馬鹿話を友康をしていた事を不意に思い出したりもした。『達也でいいよ。 しかし真面目な信仰心を瞬殺だなお前の話』 そう言って二人で笑ったりもした。
 やがて、空が明るくなり始めた頃には、空気を乱暴に振動させながらCH-47チヌークが接近してきた。周りには攻撃ヘリも帯同している。ヘリは乱暴に着陸しキャビン後方のランプ・ドアを開けた。そして、屋上に居た片山隊長を始めとする一行は猛烈な風圧の中を頭を低くしてランプ・ドアから機内に収納されていった。

 ヘリは一同が乗り込むと時間を惜しむかのように上昇して行った。
「操縦手。 爆撃地点の上空を旋回してくれませんか? 仲間が取り残されている可能性があるんです」
 片山隊長はヘリの操縦手に頼み込んだ。少しでも可能性があるのなら友康を捜索してやりたかったのだ。
「いいですよ。 でも、何時間も飛んでいられません。 護衛の武装ヘリが居ますから、そちらにも連絡しておきますね」
 操縦手は快諾した。しかし、この後に飛行予定があるので、いつまでも飛べないとも言っていた。
 病棟のヘリポートから離陸したヘリは上空から下を見て爆撃後の惨状を見て回った。しかし、目の前に広がる光景に一同は息を飲んだ。密集している建物も地面もボコボコに穴が開き、その周りにばらばらに砕け散った不死者たちや、手足がもげても蠢いている不死者などがいる。放置されていた車両は煙を上げて燃えている物もある。それだけクラスター爆弾の威力は凄かった。しかし、肝心の友康が見当たらないのだ。
「対装甲車用のクラスター爆弾を使ったみたいですね、対人用だったら地面に深い穴は開かないですから……」
 小山隊員が双眼鏡で下を監視しながら言った。対人用は爆弾の周りに破片を爆散させて敵兵を死傷させるが、対装甲車用はノイマン効果を応用する為に爆発力が一点に集中するようになっている。そして装甲に穴を開けて装甲車内の敵兵を死傷させる。だから地面に深めの穴が開いているのだろうと推測した。
「それにしては爆発してる地点がバラけているね?」
 松畑隆二が目の前に広がる光景を見ながら尋ねた、対装甲車用ならレーダーなどが反応する車などに集中して当たるため、地面などに余り落下しないと考えたのだ。
「装甲車を見つける為のセンサーをOFFにでもしておいたんじゃないですか?」
 小山隊員が双眼鏡を覗きながら言った。
「そうか、用途限定の武器は余り役に立たなくなってしまいますからね……」
 反対側の窓から下を見ていた東雲隊員が話を繋いで言った。
「銃弾が効かない強化不死者が居ると、米軍も知ってますから念のためにと対人用ではなく対装甲車用をくれたんじゃないですかね」
 小山隊員は目をこすりながら言っている、揺れる機内から見ているので疲れてしまうらしい。他の隊員たちも窓から必死になって友康を探していた。
「そっか、威力が小さいと破片では強化不死者は葬れないから対装甲車用を使うのか……」
 武器を効率的に運用する人たちは考え方が違うのだなと隆二は感心した。

 その時。
「……! 白い布を振ってる人がいる!」
 監視していた小山隊員が叫んだ。見ると三階立ての住宅の屋上でシーツを振り回している男性が見えた。隆二は思わず小山隊員の双眼鏡を奪い取って覗き込んだ。しかし、見えたのは中年の男性で他に女性が二人居るのが見えた。
「友康! ……って違う人か」
 隆二ががっくりして双眼鏡を返した。小山隊員は苦笑しながら双眼鏡を受け取った。いつもひょうひょうとしているが、こんなにも慌てるのは珍しいからだ。小山隊員も隆二が友康の事が心配で貯まらないのを解っているのだろう、いきなり双眼鏡を奪った事を特に非難はしなかった。
「まあ、そう言わずに助けよう。 小山! ラベリングの用意をしろ」
 片山隊長も同じように苦笑しながら指示を出した。小山隊員が片手を挙げて了解の意思を示した。
「操縦手。 上空でホバリングを!」
 操縦手が前方を向いたまま片手で合図している。片山隊長は次々と指示を出す。
「東雲隊員は救助者の受け入れ準備を行え、木村さんは釣り上げクレーンの操作をお願いします」
「了解」
 木村はクレーン操作の為に後部に移動した。
「柴田さんは怪我の有無を確認をお願いします」
「はい」
 柴田医師はポケットにしまってあった聴診器を出そうとしたが、ロープが出て来て焦ってしまった。後ろからため息を付きながら、冨田看護師が聴診器を渡していた。

 思いがけずに生き残りの一家を発見したが、ヘリに居た隊員たちはテキパキと動いた。そしてヘリはホバリングしながら救助を開始した。まず小山隊員が救出用のケーブルにぶら下がって屋上まで降り、最初の救助者を自らの安全ベルトに巻き付けて一緒にクレーンで上がって来た。一家の娘さんらしい。
「爆撃の前に男性を見かけませんでしたか? ママチャリに乗っていたはずなんです」
 達也は最初に釣り上げて救助した娘さんに友康の背格好や特徴を交えながら尋ねた。
「ええ、ママチャリには乗っていませんでしたけど、小さいリュックを背負った男の人が泣き喚きながら大通りを東の方に走って行きましたよ」
 救助された娘は、最初に簡単に救助のお礼を言った後に友康の事を話し始めた。どうやら彼女たち一家は友康の逃避行を見ていたらしい。
「その男性は不死者全員に追い掛け回されていたみたいです。 1千人近く居たんじゃないかと思います」
 次に救助された母親らしき女性が言った。なぜ友康があそこまで不死者に執着されるのかが、不思議でしょうがなかったらしい。
「凄い人でしたよ。関心な事に不死者たちの間を巧みに避けて逃げてましたね」
 最後に後から乗り込んで来た一家の主人が話を繋げた。救助した一家は友康が逃げ惑う様子を見ていたらしかった。しかし、ごく普通の市民である彼らに、友康を助ける手段も無く見ている事しか出来なかった。助けてあげられなくて済まないとも言っていた。
「仕方ないですよ、誰もがヒーローになれる訳ではないですから……」
 片山隊長は一家に声をかけていた。

「その後、彼はどうしましたか?」
 達也は、友康の行動が知りたかった、どこかに生き残っている可能性があるからだ。
「それが…… あの後、地面が一斉に爆発したんで何も見ていないんです」
「おっかなくて一家全員で家の中で伏せてました」
「あの家にも爆弾の一発が落ちて天井に穴が開いたくらいです」
 一家は口々に言い出した。見ると一家の居た建物からは煙が上がっている。建物に着弾した子爆弾は一階まで突き抜けてから爆発したらしかった。
「友康は生き埋めになってる可能性があります。 自分をここで降下させてください」
 達也は単独での捜索を片山隊長に願い出た。大通りを東の方に行ったと一家は言っている、少なくとも生存しているかもしれないエリアは確定できた。そこを集中的に探せばいいのだ。
「駄目だ。 碌な装備も無しで探索に行かせる訳にはいかない、一度基地に行って人員の補充と装備を整えてからだ」
 片山隊長は毅然として言った。そして片山隊長の判断は正しい。十分な装備と後方支援の用意は二次被害を出さないためだ。一刻も早く駆け付けたいのは判るが、だからこそ準備は怠りなくやるのが救助の基本中の基本だ。救助に行った人員が失われては何の為に行動したのかが判らなくなる。
 それに、もし友康がヘリの飛行音を聞いたのなら、何等かの合図をとるはずだ。それが無いという事は事態が深刻になってる可能性もある。だから万全の体制で確実に救出したい、片山隊長はそう考えた。
「大丈夫。 友康は必ず生きてるよ……」
 片山隊長は自分に言い聞かせるように呟いていた。指揮官で無ければ彼が一番最初にヘリを飛び下りていたに違いないからだ。
 その後、救助ヘリは爆撃地上空をひとしきり旋回した後に、名残り惜しそうに府前基地に帰投していった。

 

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