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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第49話 存在の証明

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第49話 存在の証明

 夜明けの少し前、まだ星々が自分の立場を主張するかのように瞬いている。
 あと小一時間もすれば太陽が顔を出して、その光で終わりつつあるこの世界を照らし出してくれるだろう。不死者たちとの闘いに終わりが見えない今、その鍵を握る人物たちが疾病センターで孤立し助けを必要としている。
 彼らを助ける為にヘリが救援に向かおうと出発しているが、疾病センターを取り囲む不死者たちの集団が大きくなりすぎて存亡の危機となっているらしい。それを援護する為にタリオンが翼に爆弾をぶら下げて獲物を仕留めるべく飛んでいた。
『府前コントロール。 タリオン1。 目標を指示されたし』
『タリオン1。 府前コントロール。 目標は疾病センター周辺の不死者集団。 かなりの数が集結して味方が難儀しているらしい。爆撃で数を減らしてやって欲しい』
『府前コントロール。 タリオン1。 了解。 タリオン1。 アウト』
 疾病センター上空に両翼の限界まで爆弾を積んだ1個飛行中隊のF2戦闘機がさしかかっていた。彼らが抱えて来たのは米軍から供与を受けたクラスター爆弾だ、広範囲の敵を薙ぎ払うのに適している。米軍はサーモバリック爆弾を使っての支援を申し出てくれたが、威力が有り過ぎて救助対象者まで粉砕されるので今回は断った。何しろ以前に自作したサーモバリック爆弾で数ブロックを吹き飛ばしたのがトラウマになってしまったらしい。
『タリオン1より各機。 照準器を赤外線モードに変更されたし』
『タリオン2了解』『3』『4』
 夜明けまで後少し、味方の元に我らが騎兵隊に収容されるまで持てばいいのだ。
 だが、せっかくやってきた支援攻撃機だったが、疾病センターらしき建物の残骸は見えるが不死者の大群は見えなかった。疾病センターの周りには散発的な不死者と思われる人影が見えるだけだった。
『タリオン1より各機。 不死者の集団が見えない……各機はどうか?』
『こちらタリオン4。 真方向250方向。 目標の蠢いてる不死者集団と思わしきもの有り』
 編隊の最左翼を飛んでいたタリオン4がうぞうぞと動く集団を見つけていた。
『タリオン4。 タリオン1。 了解。 こちらも確認した。 各機プレゼントの投下用意』
 編隊は高度を落とし編隊の陣形をひし形の形に組み直し、対象とする地域を面で爆撃する体制になっていった。
『投下する カウント 5・4・3・2・1 スプラッシュ』
 隊長機に続いて僚機も一緒に爆弾を投下した。


 栗橋友康はちょっとした長い坂道を登っていた。
 そこを登り切れば先は当然のように下り坂で、そうなればかなり楽になるはずだ。ママチャリを立ちこぎで喘ぎながら登っていると、強化不死者が家々の屋根を伝って先回りしようとしているのが見えた。
「なんて器用な奴がいるんだ」
 後ろには有象無象の不死者が連なって付いて来ている。強化不死者も走る不死者も歩く不死者もだ。全ての不死者の増悪を友康が背負ったかのように引き連れていた。
「ちっ、人気者はつらいぜ…… でぅゆふふふふ……」
 疲れているのか訳の分からない独り言を漏らし始めた。
 その時、”ごぅ……”と金属音が混じった音が空から聞こえて来た。まだ薄暗い空に何か人工的な流れ星が見える。誰に言われるわけでもなく、それがジェット機だと友康には判った。
「ああ、いいなあパイロットに成れば良かったなあ……」
 そんな事を呑気に考えていたら、その人工の流れ星はクルリと輪を書いて、こちらに向かって来るのが見えた。そしてあろう事か高度を落としているではないか。その意味を友康は瞬間的に理解した。
”……爆撃だ!”
 こちらに向かって来るという事は、間違いなく目標は友康が引き連れている不死者の集団だ。他に目標になるようなものは、この辺りにはどこにも無い。
「あああああ…… ま、ま、ま、ま、まずいっ!」
 何しろ人間と違って爆弾は平等だ。不死者だろうが友康だろうが無慈悲にその力をいかんなく発揮していくだろう。
「僕が居るの知らないのぉぉぉぉ!」
 友康は載っているママチャリを漕ぐ足に力を入れガチャコンガチャコンと坂を上っていく。普通に考えれば、この爆撃は疾病センターに孤立する要救助者の避難行動を円滑に運ぶ為の支援爆撃だ。”……みんな助かったのかな?” 一瞬余計な事を考えた。
 だが、失敗はそれだけで十分だった。道に転がっている不死者になり損ねた死体に躓いてしまったのだ。
「あれ? を!? ぬおっ~!!」
 友康は前のめりに自転車ごと転んでしまった。
「ひょ、ヤバイ 急がないと……」
 ひぃひぃ言いながら慌てて自転車を起そうとするが、ツキに見放される時はとことん見放される。自転車のチェーンがはずれていた。
「ああああ、どうして…… いつもこうなるの……」
 しかし、嘆いてもしょうがない。振り返るとすぐそこまで不死者の集団は近づいて来ている。坂の頂上はすぐそこだ。友康は自転車を捨て走り出した。

「ィギャッハハハハ!」
 友康に追いつきかけて走る不死者たちが、歓喜の笑い声を出して追いかけて来ている。しかし、友康は下り坂が終わりかている辺り、急に平地になっているせいなのか、走る体制のバランスを崩してしまい転んでしまった。脇腹も痛くなってきたし何より体力がもう無い。日頃の不摂生の賜物だ。

「……もう、駄目」
 テルミット反応爆弾もパチンコ玉もボーラも無い、ラバーカップスタンガンの電池も切れたままだ。
「……母さん……僕はもう走れないよ」
 優しい母の顔を思い出しながら、友康は汚泥とゴミが散らかる道路に突っ伏してしまった。先頭の走る不死者はすでに友康の傍まで来ている。その時、自分を掴もうとしている不死者の顔に被さる様に前原達也の顔が浮かんできた。
”簡単にあきらめてんじゃねぇよ”
 その後ろには松畑隆二が居る。
”やることやってから、お互い死にましょ?”
 口元を僅かに歪めながら隆二が言っている顔が浮かんできた。

 そうだ、諦めない。のんびり死んではいられない、一体でも多く不死者を引きつけて達也や隆二たちを逃がすと決めたのだ。初めて自分と言う存在を認めてくれた友を助ける。友康はそう決めたのだ。
 その時、友康の視界に先端に日の光を浴び始めた巨大な煙突が目に入った。
”……あれは ……そうだっ!”
 それが何か思い出した瞬間に、友康は地面を蹴って走りだした。友康に襲い掛かろうとしていた不死者たちは折り重なるように積み上がってゆく。友康が走る正面には歩く不死者しかいない。その不死者たちの隙間を見つけて掻い潜るように走り抜けていく。
「ィギャッハハハハ!」
 横の道からは走る不死者が飛び出してきた、友康はラバーカップで薙ぎ払いながらなおも走り抜ける。その巨大な煙突は大通りを右折しないと行けない。
 そんな友康が大きい通りのT字路に飛び出た時に見た光景……左手の道路には道一杯に広がる不死者たちが居たのだ。友康は唖然として涙目になってしまった。無事に通り抜けられる自信が無いからだ。それでも友康は走りながら右に折れて前に進んだ。

「うがああああ!」
 自分の後ろを不死者の集団が追いかけて来る。時間の経過と共に増え続けている感じだ。そして一階の窓ガラスを破って飛び出してくる強化不死者もいる。低い屋根の上を飛びながら伝って走る今日か不死者まで居る。まるで蝗の集団が群れになって友康一人に襲いかかってくるようだった。
 すると目の端に空から何かが黒い物体が落ちて来るのが見えた。爆弾だと思ったが違和感がある。飛行機から投下するのなら、もっと大きいのではと一瞬考えたが、やがてそれが何であるのかを思い付いた。

「クラスター爆弾の子爆弾かよ、ひぃ~~~~っ……」
 元々クラスター爆弾は平原などに広がって行進する戦車や装甲車・歩兵などを荒ごなしに制圧しようという趣旨の爆弾だ。本体の中に子爆弾を収納し敵地上空でばらまいて面制圧するのだ。敵が有象無象に居る時に、広範囲の目標に損害を与える。そんな物騒な爆弾の雨の中を友康は走り抜けている事になるのだ。

 やがて強化不死者たちが、友康の為に賛美歌を歌い始めた。友康は身体を振るわせ始めた強化不死者を見た瞬間に横に飛んだ。彼女たちは讃美歌を直ぐに歌えるわけでは無く、少しだけタイムラグが生じてしまう。
 彼女たちの放った超音波砲は友康が飛んだ後をまるで白い帯のように通り抜け、その場に居た歩く不死者たちを薙ぎ払いながら突き抜けて行った。

 超音波砲を放ちしばし行動が止まっている彼女の頭上に最初の子爆弾が降って来た。一瞬、光り輝いたかと思うと強化不死者はあっけなく吹き飛んでしまう。周りのそこかしこに子爆弾は振って来る。友康は夢中で駆け抜けていくと目の前にデブの不死者がいた。こちらに向かって来るので、友康はその口にポケットにあった靴下を丸めた奴を叩きこんだ。こうすれば口を閉じる事が出来ないので噛みつけない。これまでの経験で彼らは異物を取るという事が理解できないようだった。

 そのデブの不死者の脇をすり抜けようとした時に、また子爆弾が降ってくるのが見えた。友康はデブの不死者の背中に飛び付いた。爆風を避けようとしたのだ。爆弾は爆発しその周囲の不死者たちを吹き飛ばす。友康はデブの不死者と共に飛ばされたが、デブの不死者が盾になってくれたので無傷で済んだ。動かなくなった不死者をどかしてまた走り続けた。

 走り続けた先にあったのは巨大なごみ焼却場。巨大な煙突は焼却場から出る煙や熱などを高空に逃がす為に作られたものだ。ここは府前市が近隣の市町と合同で作成したごみ焼却場だ。友康は中学生だった時分に社会科見学で訪れたことがある。
 その焼却場のごみピット(集荷してきた家庭ごみを一時保管する為の穴)は深く作られている。友康は不死者たちの集団をそのごみピットの中に閉じ込めようと思いついたのだ。

 ごみピットの入口まであと少し、不死者たちは左右から友康を目指して迫ってくる。平時であればゴミ収集車が引っ切り無しに行き交う駐車場を不死者の集団を引き連れながら走り抜けた。そして友康はそのごみピットの中に迷わずにダイブした。ごみピットの中は広くて不死者を多数葬り去ることができるのだ。見るとそこにあるのは何も無い真っ暗闇の深い穴だ。
「のぁああああっーーーーー!」
 判ってはいたが、いざとなると絶叫してしまう。その時に友康の背景が一瞬輝いたかと思うと、地面が轟音を立てて震えた。クラスター爆弾の子爆弾が一斉に爆発したのだ。次の瞬間には強烈な爆風が空中を飛ぶ友康を更に奥へと押し込んだ。すると、ピットの中にあるゴミを運搬する為のクレーンが目の前に迫って来た。ごみピットの中に貯まる可燃ごみを、焼却炉に運ぶのに使う普通乗用車ほどの大きさもあるでかい奴だ。そう、友康はこれが此処にある事を思い出して焼却場の中に飛び込んだのだ。

「……! うぉりゃぁっ!」
 そのクレーンの側面にラバーカップを横殴りに張り付けた。所詮はゴムで出来てるだけのトイレ掃除用具だ、友康の体重は支えきれない。しかし、それを軸にして体を回転させて、右手をクレーンの淵にかける事が出来た。
「…………うぐぅぅぅぅ」
 そのまま、右手を引っ張り上げ、次に右足を縁に引っ掛けて最後の力を振り絞って、なんとか体を引き上げた。友康を追ってきた走る不死者は、次々とピットの中に飛び込んでくる。
「ぐぁああぁぁぁ……」
 しかし、下は空虚な空間が広がっており、彼らはそこに吸い込まれていく。天井にポツンと点る薄暗い照明しか点いていないピットは、巨大な口を開けた地獄釜のような不気味さがあった。
「キシャァァァァッ……」
 その深淵に次々と吸い込まれていく不死者たち。歩く不死者たちも釣られてピットから中に落ちていく、中には爆撃のせいなのか身体が欠けている者も居た。
「ィギャッハハハハ……」
 中にはクレーンに飛びついた者もいたが、とっかかりの無いクレーンからズルズルと滑り落ちて行った。その後ろから下半身を吹き飛ばされた不死者がごみピットの入口から落ちて行った。

「ぜぇぜぇ……ずっと……走って……ばかりだ……」
 友康はクレーンの上で横になった、体力が切れてしまったのだ。ふと、友康は可笑しくなってきた。
「……クスクス」
 友康はクレーンの上に座り込んだ。一生懸命に友康を亡き者にしようとする不死者たちとそれを躱し続ける友康。
「……ふっふっふっ」
 友康は笑いながらクレーンのケーブルに捕まりながらも立ち上がる。
 不死者たちがどんなに友康を亡き者にしようと足掻いても、その夢は決して叶う事などないのだ。


「……あーーーはっはっはっ!   お、俺はここに居るぞおおおぉぉぉ!!」


 天井に点いている薄暗い明かりの中、クレーンの上に仁王立した友康はあらん限りの声を出して叫んだ。
「……ィギャァァァハッハッハッハッ……」
 ゴミ搬入用ピットの入り口から、いつ果てるとも知れない無数の不死者たちが湧き出て、そのままピットの深淵に飲み込まれていっている。前進することしか知らない彼らは、友康を抹殺するという本能に導かれてそのまま進み、そしてピットの中にぼとぼとと落ちているのだ。

”強くなるのなら成ればいい、自分はそれ以上に強い武器を作り出して、必ずお前たちの前に立ち塞がって見せる”

 そう、それが友康の存在の証明なのだ。

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