自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。
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「うがああああ!」
廊下の曲がり角からいきなり不死者が飛びだして来た。咄嗟に前原達也は89式小銃を不死者に向けて引き金を引いた。”カチッ” 期待した発射の反動では無く、乾いた金属音がしただけだった。病院棟の入り口から東雲隊員とふたりで不死者を排除しながらやってきたので弾が切れたのだ。
だが、達也は落ち着いて不死者の足を引っ掻けて転倒させ、そこを東雲隊員が斧を頭に叩き込んだ。手慣れた連携プレーだ。栗橋友康が大半の不死者を引き連れて行ったとはいえ、まだかなりの数が病棟の廻りや中に生息している。
「あいつ……旨く逃げられたかな……」
不死者の頭から斧を引き抜きながら東雲隊員がポツリと呟いた。
「栗橋さんなら大丈夫、今までもたったひとりで生き残って来たんだからな……早く、隊長たちと合流して体勢を立て直して助けに行こう」
東雲隊員が警戒している隙に達也は自分の小銃の弾装を交換した。そして身を潜めながら構え、 安全装置をタ(単発)に合わせる。東雲隊員が先頭に立ち達也が後ろを警戒しながら付いて行く。
達也は医局の横を通ったときに薬箱が散乱しているのが見えたときに”府前基地で消毒薬が不足している”と冨田看護師が嘆いていたのを思い出した。
「東雲。 手土産に消毒薬を持って行こうか?」
達也が床に落ちている消毒薬を指差しながら言った。
「ああ、そういえば冨田看護師が足りないっていってましたね。自分は階段をちょっと見てきます」
東雲隊員が階段の様子を見に行った。達也は医局にあった恐らく女性ものと思われるバックを手にした。そしてバックの中身は逆さまにして全て捨て消毒薬を集め始めた。
すると廊下の角からは病院棟の入院患者であったろう寝まき姿の老婆の不死者が現われ、こちらに向かって来た。白髪を振り乱し唇はどこかに消え、歯は3本欠けて歯茎がむき出しになったまま口を開けて叫んでいる。
「うがああああ!」
達也は小銃ではなく斧を振り上げて老婆の不死者に突き立てた。しかし、老婆の不死者に気を取られていると、突然目の前に2体の学ラン姿の不死者が現れた。いきなりだったので銃を構える暇が無く、現われた学ラン姿の不死者に思わずバックを投げつけた。斧は老婆の不死者に突き刺さったままだからだ。しかし、学生の不死者はバックが当たった事を気にもとめずに向かって来る。
「ええい、くそったれが!」
達也は左にそれて学生をひきつけた後、姿勢を低くし学生の右脇を通り抜けようとしたが、いかんせん廊下が狭く不死者の手が達也の服を掴んでしまった。達也はそのまま学生に体当たりをして転ばせて銃床で頭を砕いた。そして銃を構え直してもう一体の不死者に発砲した。
真正面から撃たれた不死者の頭は、その脳漿を廊下に撒き散らして倒れ込んだ。しかし、その発砲音は他の不死者たちを惹き付けてしまったらしく、奥からわらわらと集まってきている。銃剣を付けて置けば良かった、音に釣られて集まって来る不死者を見ながら達也は後悔した。
「大丈夫ですか?」
東雲隊員が発砲音に驚き慌てて駆け付けてきた。不死者は10体以上居る、ふたりで相手するにはちょっとしんどいので逃げることにした。
「……大丈夫。 さあ、急ごう」
達也は先程投げたバッグを背負い直し、不死者に突き刺さったままだった斧を回収して廊下を駆け出した。そして屋上に続く階段を上り始める。階段を上りつつそれぞれの階をチラリと見ていくと、そこいら中に不死者の残骸が散らばっている。冨田看護師と柴田医師のコンビネーションは相変わらず凄いなと達也は思った。
「きっと 冨田さんと柴田さんですね。相変わらず凄いな~、まるで芝刈り機でも通った後みたいですね」
東雲隊員は苦笑いしながら言った。
「ああ、冨田看護師だけは絶対に怒らせてはいけないと”俺も”思うよ」
達也も同じ事を思ったのだ。とりあえず病院棟に潜んでいる不死者は普通の歩く奴だけらしく、やっかいな走る奴や始末に悪い強化不死者が居ないのが幸いした。
屋上に到着すると、すでに全員が集合していた。片山隊長が夜明けの早い時間にこちらに向かってくると最後の通信で連絡があったと話している。そのとき、夜明けを間近にした空にジェット機特有の金属音が聞こえて来た。
「……あれは?」
まだ、明けきらない暗い空。見えない航空機の音の方角を見ながら松畑隆二が聞いてきた。
「基地が気を利かせて爆撃機を差し向けてくれたらしいな……大量の不死者に取り囲まれてしまい、疾病センターを放棄して病院棟に移動すると連絡入れたんですよ」
片山隊長が答えた。
「不味いです。 栗橋さんが時間稼ぎに不死者の集団を引き連れているんです」
東雲隊員が病院棟入り口での出来事を話した。そして時間稼ぎのために囮になって不死者の集団を引き連れて、ママチャリで病院棟とは違う方向に走っていったと話したのだった。
「恐らく自分が強化不死者を引き込んでいると栗橋さんは考えたのでしょうね」
隆二がポツリと呟いた。
「このままでは栗橋さんの信頼や想いを、我々が裏切ってしまうことになる……」
東雲隊員は最後には涙声になってしまった。今日は佐藤隊員や三池隊員を失ってしまった。もう友人を失いたくは無いとの思いなのだろう。
「奴らと一緒に吹き飛んでしまいます、仲間が居ると伝えて止められないんですか?」
達也が無駄だとは判っていても聞いた。片山隊長が苦虫を噛んだ様な表情になっている。一番悔しいのは他の誰でもない彼なのであろう。
「……連絡手段が無いんだよ」
無線機は携帯用のしか持ってきていない、部隊間で使える大型無線機は疾病センターのガレキの下だ。今から救援に向かうにも時間が無い。人間の足より航空機が早いのは判りきっている事だ。
病院棟のヘリポートに立ち、その場に居た全員が芥子粒のような爆撃機を見あげていた。雁行体形で飛行していた編隊は病院棟の上を旋回したかと思うと一方向に向かい高度を落とすが判った。それと共に流れるように編隊をひし形に変更し始めた。
さあ、ダンスの時間だ。
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