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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第47話 ママチャリに乗った勇者

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第47話 ママチャリに乗った勇者

 ”ガシッ”

 彼女はその鋼のようになっている手足を壁にめり込ませて疾病センターの壁を登っている。彼女の他にも何体もの強化不死者たちが、獲物を狙う捕食動物のように同じ壁を手足をめり込ませながら登っていた。しかし、彼女の隣の強化不死者は上から銃撃され落下してしまった。
 彼女が上を見上げると、壁の頂点から自衛隊の男が彼女の仲間たちを次々に打ち下ろしに銃撃していた。
「キシャァァァァッ!」
 屋上の縁に隊員を認めると彼女は全身を振るわせ始めた。やがて、ニタリと笑うかのように崩れかかっている口を開きだした。
「やらせて堪るか!」
 前原達也は全身を震わせて口を開いている強化不死者に狙いを定めて引き金を引いた。その弾は口元に当たり、頭が上ではなく壁に向かった瞬間に超音波砲は放たれた。彼女の自慢の讃美歌は歌う方向を曲げられてしまいに、その威力は疾病センターの壁に向かってしまった。
 元より壁に固定されている訳でも無く、ただ掴まっているだけなので、超音波砲の反動を支えきれない彼女ははるか遠くに弾き飛ばされてしまった。もちろん壁にも大きい穴を開けられてしまったが、その穴を越えて彼女たちは登ってくる事は無いだろう。
「ただ落下させるだけじゃ駄目だ。 発射寸前に口元を狙うんだ!」
 達也は次に体を震わせている強化不死者に照準を合わせ、その口元を銃撃した。今度は顔は下を向かず横に向けさせ、その超音波砲は疾病センターの壁を削りながら横にいた違う強化不死者を弾き飛ばした。勿論、放射した強化不死者も反作用で飛んで行ってしまい、病院棟の壁にベシャリと鈍い音を立てて張り付いてしまった。
 銃撃で下に落とした強化不死者は体に支障が出来たのか、再び上ろうとはせずに疾病センターに向かって賛美歌を歌っていた。
「壁が無くなっていくな……」
 讃美歌を歌い終わった強化不死者は、なぜかその場で固まってしまうので容易に的になる。東雲隊員はそんな不死者を次々と銃撃していった。
「なんか……不味くね?」
 銃撃を続けながらふたりで話し合っていた時。
『……アルファより各員。 疾病センター入口が突破された、ビルの倒壊が予想されるので隣の病院棟に移動する。 すぐに撤退するように。 以上』
 片山隊長から携帯無線に撤退の連絡が入った。
「こちらチャーリー。 了解」
 達也はそう返事を行い、銃撃を東雲隊員に任せて、屋上から撤退の準備を始めた。栗橋友康の爆弾作りの材料などをリュックに詰め込んだ。友康は1階に出来上がった爆弾を届けに行って、まだ屋上には戻って来ていないのだ。
 そして達也と東雲隊員は屋上から3階に降りようとしていた。ところがガクンと揺れたかと思うと体全体が沈みこみ始めた。
「え!?」
 ギシッギシッと音を立てながら床が傾きつつある。疾病センターの倒壊が始まったのだ。
「……ビルが崩れ始めてる!」
 達也たちは慌てて2段跳びで階段を下り始めた。しかし、3階から2階に続く階段に差し掛かったときに、階段と壁の際が開き始め階段を固定していたボルトが弾け飛ぶのが見えた。
「間に合わない!」
 達也は咄嗟に腰から自動拳銃を抜いて窓を連続で銃撃した、そして円形に穴だらけにした窓に体当たりをして外に身を躍らした。その窓の下に病院棟に続く渡り廊下があったのからだ。東雲隊員も達也に続いて壊れた窓から飛び出し、その直後に2階に続く階段が崩れていった。
「しまった、栗橋さんの居場所が判らんぞ!」
 達也がゆっくりと崩れていく疾病センターを見ながら東雲隊員に怒鳴った。
「あそこ! 2階の廊下を滑り落ちてる!!」
 東雲隊員が指差ししながら怒鳴り返した。見ると2階の廊下を滑って落ちていく友康の姿が部屋の奥にちらりと見えていた。


 その少し前、友康は入り口ホールの2階を奥に向かって走っていた。入り口ホールの壁が崩れ始めたのが見えたからだ。
「……なんで、いきなり攻撃が激しくなるんだよ!」
 一際大きい軋み音がしたかと思うと、廊下の先がせり上がって来るような感じがして、廊下全体が入り口ホール側に向かって斜めになり始めた。廊下にあったゴミ箱や放置されていたダンボールなどが滑り落ちてくる。
「 ! どわわわわ!」
 ダンボールに足元を掬われた友康が斜めに傾いてしまったビルの廊下を滑り落ちていく、天井からは天井パネルやらケーブルやらが降り注いで来ていた。だが問題はそこではなく、その先には不死者の群れが待ち受けていることだ。
 崩れたビルが立てる砂埃の中から、コロコロと友康が飛び出てきた。そして、そんな友康に不死者たちは反応して近づいてきた。
「うがああああ!」
 いきなり煙の中から転がり出てきた友康に不死者は咆哮して出迎えてくれた。
「ィギャッハハハハ!」
 強化不死者も咆哮してきた、彼女たちの賛美歌でなくて良かったと一瞬考えた友康だった。
 もちろん、すぐに捕まるほど愚鈍では無い。友康は不死者が伸ばす手を巧みに避けながら、水鉄砲で追い払い走り出した。強化不死者にはスタンガンで対抗している。
右に左にと不死者の群れの中を逃げ惑う。少しでも隙間のある所を体を屈めたりしながら逃げ回った。そうするうちに不死者の群れは一つの群れのようになり、その先頭で友康は走るようになった。
 なんとか病院棟に近づこうとするのだが、そこに行く前に不死者たちが立ちはだかってしまうのだ。だが、悪い事ばかりではない、普通の不死者が邪魔で走る不死者も強化不死者も近づけないでいるのだ。例のやっかいな讃美歌も歌おうとしない。
 友康がひぃひぃ言いながら走っていると、左手の不死者の群れを割って達也がバイクで駆けつけた。
「飛べ!」
 達也は左手で友康の襟首を掴み引き上げながら叫んだ。
「うひゃあぁぁぁ」
 友康は妙な掛け声でバイクの後部シートに飛び乗った。それを確認すると達也はバイクのアクセルを吹かした。
「このまま病棟の入り口に突っ込むぞ!」
 達也は肩越しに友康に怒鳴った。友康は達也の肩越しに水鉄砲で退路にいる不死者に漂白剤をお見舞いしている。
 もう少しで病院等の入口。だが、建物入り口に転がっていた不死者の躯でバイクは転倒してしまった。
「おわっ!」
 友康はバイクの後ろから投げ出されて滑って行ってしまった。達也は横倒しになったバイクと一緒に滑っている。病院棟の影から東雲隊員が達也を助けようと飛び出してきた。
「のわぁあああ!」
 友康は、そのまま床を滑って病院棟の壁際で止まった、慌てて周りを見ると何体かの不死者たちに囲まれている。
「ィギャッハハハハ!」
 そんな友康の存在に気が付いた強化不死者が雄たけびを挙げた。ふと見ると病院ビルの植え込みに倒れこむようにママチャリが捨ててあった。鍵はかかっていなさそうだ。
 そして、先ほどの不死者の群れもこちらに近づいてきている。
「……そうか」
 友康は東の空を見て、その不死者たちを見て決断した。
「……よし! こっちだぁ!」
 友康は咄嗟にそう叫ぶと、腕を伸ばして自分を掴もうとする不死者を避けながら、ひょいとママチャリに跨ると達也たちとは違う方向に走しり始めた。
 その頃、達也は倒れてしまっていたバイクを必死に引き起こしていた。
「待ってろ! 今、助ける!」
 達也がそう叫び、バイクのセルモーターをキックした。しかし、エンジンが掛からない。もう一度セルモーターをキックした時。
”ビーーーーーッ!”
 通りの向こうから防犯ブザーの音が響き渡った。
「「 え! 」」
 驚愕する達也と東雲隊員。見ると友康が防犯ブザーを手に掲げて鳴らし、疾病センターとは反対方向にママチャリで走っているのだ。
「ィギャッハハハハ!」
 主敵である友康を見つけた強化不死者は、周りに知らせるように咆哮しながら追いかけ始めた。それに釣られるように疾病センターに詰めかけていた不死者たちも、そちらの方向に引き寄せられていった。
 潮が引くように不死者たちの数が少なくなっていく……
「…………あいつめ」
 達也が友康の意図に気が付いた、友康は囮になって達也たちを逃がそうとしているのだ。待望の夜明けまでもう少し、その少しの時間を稼ごうと友康は大半の不死者の群れを引き連れて行った。
「くそっ! 栗橋さんの思いを無駄にするな! 中の不死者たちを掃討するぞ!」
 東雲隊員が解っていることを口にしながら斧で不死者の頭をかち割っている。
「病院のドアを封鎖するんだ!」
 何体か残った不死者たちを斧で薙ぎ払いながら達也は病院棟に逃げ込んだ。

「……ィギャァァァハッハッハッ……」

 遠くの方で不死者の叫びがこだましていく、それもやがて暗闇に紛れて行った。

 

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