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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第4話 災厄の蠢動

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第4話 災厄の蠢動

 その頃政府は政府機能を海上に移転することを決め海上自衛隊のひゅうが型護衛艦に各大臣達が家族を連れて続々と集合してきた。
海上であれば陸と違い物理的に隔離できるので安全であろうとの判断だった。
もう病気に怯えず死の恐怖を感じなくて済む、各家族達の表情に安堵感が溢れ出ている。
「持ち込める荷物はスーツケース一つまでとなっておりまーす」
乗船を案内する自衛官が声を張り上げている。
そんな中、舷門(げんもん・船の玄関口)で、とある家族が悶着を起していた。
「俺を誰だと思っているんだ!」
防衛大臣が顔を真っ赤にして怒っている。
「ちょっと眠ていると言ってるだろう!」
防衛大臣の、娘家族の幼い孫娘の様子に疑問を持った、女性自衛官が検査を要求していたのだ。
「いえ、疑わしい場合は検査しますので、それまでは隔離させてもらいます。」
舷門にいた若い女性自衛官は当惑しながら答えた。
「劇症インフルエンザを艦内に持ち込ませないようにする為です、ご協力お願い申し上げます。」
女性自衛官は深々と頭を下げた。
しかし防衛大臣は顔を益々赤くして怒鳴りつける。
「もういい! 部隊長を呼べよ。お前なんざクビにしてやる!」
防衛省のトップに言われてしまっては、どんなに理不尽なことであろうと逆らえない。
女性自衛官は艦内電話でどこかに電話を入れ、少し押し問答をした後に防衛大臣に向かい直した。
「どうぞ、お通りください。」
 舷門の自衛官はしぶしぶ通した。
 防衛大臣は勝ち誇ったようにドカドカと音を立てながら舷門を通って行った。
彼の家族である娘夫妻も幼い孫娘を抱いたまま従って通過した。
 しかし、防衛大臣の孫娘は乗船して2日後には症状が悪化し、その僅か半日後には死亡してしまった。
孫を抱いて看病していた娘夫婦も発病しているのだろう、だるそうに寝転がり顔を赤くしている。
 閉鎖された海上で、しかも集団生活での致命的なミスだった。
 そして乗船した他の家族にも発症者が出始めていた。


 最初の異変は、病院の遺体安置所だと思われる。
増え続ける遺体に処理が追いついてゆかず、遺体は遺体安置所やその周辺の廊下などに雑多に置かれていた。
 何しろ死体の引き取り手に連絡が付かない事が多くなってきているのだ。
たとえ身内といえどもウィルス感染で死んだ遺体など、遺族と言え触りたくないのだろう。
まだ生きている自分達に危険が及ぶ可能性大だからだ。
 その遺体の一つにかけられていたビニールが少しづつ動いていく、やがてガバッと死んだはずの男が起きあがった。
死は男に安息をもたらせてくれなかったのだ。
 闇夜のような暗い安置所で佇んでいた男は立ち上がりフラフラと遺体安置所の外へと歩いて出ていった。
そしてすぐ前の廊下で壁にぶつかり、その虚ろな瞳は廊下の壁を見つめ、口からは呻き声を発していた。
 ほどなくして、病院の警備員が男に近づいてきた。 患者が迷い込んだと勘違いしたのだろう、警備員は不用意に声をかけてしまった。
「こんにちは、どうかしましたか?」
男は警備員の声に反応したかのようにこちらに顔を向け、そしておもむろに口を開けて噛み付いて来た。
「ぬぁっ! 何をする!!」
警備員は両手で噛みついてくる男の顔を抑えつけながら男の足を引っ掛けて転がした。
そして男の片方の手を捻りあげ、背中から押えつける。
「ぐうぁあああああ!」
男は耳をつんざくほどの叫び声を上げながら、激しく暴れまわる。
 そして力も強く屈強な体格の警備員も、押さえつけるのがやっとだ。
「いきなり噛み付くなんて逝かれてやがる。」
警備員は取り押さえる時に、噛まれてしまった右手をかばいつつ、警備本部に無線で連絡を入れ応援を呼んだ。
「妙な男が暴れている! 力が強くて一人では無理だ、至急応援を頼む!」
右手からは血がダラダラと垂れている。
「痛ぇな、くそったれが!」
警備員は男を足で抑えつけつつ、器用に手にハンカチを巻き付けていた。


 暴れる男は1階の警備本部に連れてこられた。
喚き続ける男は、他の警備員達が椅子に抑えつけている。
 警備本部長は警察に電話をしようとしている時に、ふと男の足首に違和感を感じた。
もう一度よく見ると違和感の正体に気が付いた。
やはり違うのだ。
この病院では、不足している看護師の負担を少しでも軽減させる為、患者の足首に症状別カラータグを付けている。
そして男の足首についてるのは”黒”、これは死亡用のカラータグのはずだ。
『何故動いてる?』
『この病院の患者なのか?』
『生きてるのか? じゃあ、このタグはなんだ??』
 警備本部長は様々な疑問を抱きつつ詳細を聞こうとして、先程この男を連行してきた屈強な警備員の方を向いた。
だが屈強な警備員の様子がおかしい。
大粒の汗を拭いながら頭を抱えている、酷く具合が悪いと言う。
仕方ないのでソファーに横になって休むよう指示を出して、警備本部長は直に男に尋問することにした。
「お名前を伺えますか?」
警備本部長は物静かに尋ねるのだが、この男は焦点の合わない目つきで虚空を睨みつけるだけだった。
「誰かこの男のタグナンバーを、病院事務局に問い合わせてくれ」
警備本部長は、男の足首に着けられているカラータグを指さし、近くの部下に指示を出した。
しかし、その一瞬、目を離した隙に噛みつかれた。
「ぐうぁあああああ!」
男は警備本部長の耳に噛みつき、そして噛み千切った。
「ああ! やめさせろ!」
「何をする! 取り押さえろ!!」
他の警備員達が男を更に抑えつけようとする。
「部長! 大丈夫ですか!?」
その喧噪の最中、この災厄を連れてきた屈強な警備員がゆらりと立ち上がる。
「お、おい! お前も手伝え!! ……え?」
 立ち上がった屈強な警備員は、先程までの具合悪そうな顔つきと違って、目が吊り上がり口元はだらしなく開き、涎まで垂らしている。
そして連行されてきた男のように叫び声を上げはじめた。
「ぐうぁあああああ!」
「え!?」
屈強な警備員は、驚愕して固まった同僚の警備員の肩に噛みついた。
「や、やめ!」
抑えつける警備員の数が減り、最初に連れて来られた男を取り押さえる数が減り、自分を抑えつけている警備員に噛みついた。
「け、警察を……ぐっ!」
暴れる男と逃げ惑う男たちで、喧噪が繰り広げられる警備室であったが、やがて警備室は静かになり、不死者たちの呻き声だけが室内に響いていた。


 病院の待合室で最初に気がついたのは、その病院に母親に連れてこられた子供達だった。
診察を待つ間の退屈しのぎに病院内を探検していた時、階段を上がってくる異形の人々を見つけた。
看護師の格好をしていたが、それを見かけた子供達の体に瞬時に緊張が走った。
 なぜなら彼女の目は虚ろで、口は弛緩してだしなく開き、口元からは涎が垂れていた。
 どう見ても普通ではない、というか本能的に危険を感じ取った。
振り返り母親を呼ぼうとした時には、その細い首筋に噛みつかれていた。
 そして、その背後からは呻き声が聞こえ不死者たちが、ぞくぞくと階段を上がってくる。
階段の物音で子供達の母親は、我が子が襲われているのを見て、慌てて子供の元へと行こうとしたが、他の不死者たちにたちまち捕まってしまった。
 その場に居た者たちは皆、その光景を目の当たりにして背筋が凍りついた。
逃げなくてはいけないのは判ってはいるが、突然の事に体が反応出来ない。
 その間も、階段からは正体を失ったモノ達が、次々と溢れ出てくる。
突然の事で一瞬時が止まったかのように思えたが、彼等が手短な人間に襲いかかるのを見るや、悲鳴を上げながら我先にと逃げ出した。
”何だか判らない、判らないから恐ろしい……だから、逃げよう。”
 恐怖は伝播し待合室は、たちまちパニック状態となった。
 そして押し合いながら、狭い出入り口へと殺到していく。
もちろん、大人数を通過出来るようになっていない出入り口は、たちまち逃げようとした人々で詰まってしまい、彼等が追い付く手助けとなってしまった。
追い付かれて噛み憑かれている人達を、助けようとする人もいたが、後ろから来る不死者たちに、襲いかかられてしまっていた。
 階段を上って避難しようとしている人達もいる。
 皆ひどく慌てていたので、階段を無秩序に上がっているので、中年女性が途中で転んでしまい将棋倒しになっている。
立ち上がろうともがく彼らに、不死者たちは次々と噛みついた。
不死者は噛みついて動かなくなると、すぐに次の獲物に狙いを定めるようだ。
 そして不死者に噛まれて死んだ者も安らかな死は訪れない、暫くすると不死者となって復活し生きている者を求めて動き出していた。
「噛まれた奴も、同じなるぞ! 気を付けろ!」
 その叫び声で、病院の中では恐慌状態になり、叫び声や怒鳴り声がアチコチの階から聞こえている。
 患者を見捨てることが、出来なかった医療関係者や患者の家族は、たちまち病室で不死者たちの餌食になった。
戦う者も居たが、殴ろうが倒そうが一度死んでいる不死者の活動を止めることは出来ない。
それどころか時間の経過と共に数が増えている。
 そして、各階の病室は喧噪の中、徐々に沈黙してゆき、しばらくすると病院からは不死者たちが、溢れ出てくるようになった。

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