自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。
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栗橋友康は日々広がっていく社会の崩壊模様をネットワークで見ていた。
友康の部屋にある大型テレビが、その日のニュースを伝えていた。
『厚生労働省の発表によりますと、 感染者やその体液との接触に厳重に注意した上であれば、換気を行っても全く問題はないと……』
アナウンサーは手元の原稿を淡々と読み上げていた。
「うわー、微妙にどうでも良い問題だわ」
友康がネット掲示板への書き込みをしながら、TVに向かって抗議のように独り言をつぶやいた。
友康の書き込みに回りもやや同意したように、落胆した書き込みが続いた。
今、待っているのは救援の言葉であり、生き残る為の助言だ。
空気の入れ替えが出来たからどうだというんだ。
”どうして役人というのはこんなにもズレているんだ”との書き込みも続いている。
そんな事よりネットの他の掲示板には、死体が起き上がって噛みついて廻ってるとの書き込みで溢れかえっている。
「何が起こってるんだ?」
ネットでは彼らの事を”不死者”と呼んでいるようだ。
『病院のロータリーで暴動のようになってるのを見た、と友達のお姉さんが言っていたのを聞いた』
などと噂に尾鰭を付けまくりなのが主な書き込みだが、場所が違うところでも同じような書き込みが見る事が出来る。
彼らは一度死んでいるからなのか、片腕がもげようが平気で動いて噛みついてくるらしい。
鉄パイプで滅多撃ちにしたが、それでも動いていたとの書き込みもある。
画像掲示板には動き回る死体の画像や、噛みつかれた画像が修正無しで張り付けられてる。
「ちょ、グロいな……」
動画サイトには動く死体の動画が溢れ、それは日本だけに限られていなかった。
「アメリカやヨーロッパも同じなのか……」
外国では自動小銃を使って歩く死体を駆除しているらしく、動画では激しく銃撃してる様子が映し出されていた。
しかし不死者は銃で撃たれても、ちょっとよろめくだけで平気で動いている。
頭部を撃たれると流石に動けないようだが、慌てている人にそう簡単に当てることなど出来ない、駆除しずらそうだ。
「まるでゾンビだな、警察や自衛隊は何やってるんだ?」
そういえば自宅の外がやけに騒がしい……
部屋の窓から外を見てみると、車が電柱に正面からぶつかり停まっていた。
車の周りにはフラフラと所在無げに歩いてる奴がいる……
「ひょっとしなくても、あれは不死者なんだろうな……」
自宅周辺も、動画サイトにアップされていた都市のようになるんだろうかと、憂鬱な気持ちになってきた。
そして今日になっても、両親からは電話も電子メールも来なかった。
友康は鳴らない携帯を見つめながら、椅子の上で体育座りしていた。
松畑隆二は午前中の診察を終え、 昼食を取るために食堂に行こうとしていた。
すると病棟の方から悲鳴と、ドタバタと暴れる音や、物が壊れる音が聞こえて来た。
何だろうかと、食堂に続く廊下に出てみると患者達が一斉に走り出している。
全員、後ろを振り返りながら逃げている、まるで何かに追い立てられているようだ。
一緒になって逃げて来ている看護師に、事情を聞いてみようと呼び止めた。
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
「患者さん同士が噛みつき合ってるんです!」
看護師は早く逃げたそうだ。
「引き離して拘束して、警備に引き渡せばいいじゃないですか?」
「噛みついてる人たちは凄く力が強いんです、しかも噛みついてる人の中に警備の人もいますよ」
看護師はもどかしそうに返事をする。
それに……と、続けた。死んだはずの患者が動き回っている、しかも誰かれ構わず人間に噛みついていると言う。
「いやいや、死んだ人は動かないでしょ? 」
隆二が何の冗談かと笑っていると、廊下の奥からズルズルと音がする。
その音を聞いた看護師は、隆二の手を振り払い逃げていった。
「え?」
口から血を垂らしながら、不死者たちの集団が足を引きずりながら現れた。
廊下の騒音に不安を覚えたのか、何事かと病室のドアを開けた人がいた。
目の前の不死者に驚愕したが、あっという間に噛みつかれて病室の中に倒れ込んで行った。
その後に続いて不死者たちが、病室に侵入し室内の悲鳴が廊下に響いていた。
しかし、後続の不死者たちはズリズリと行進を止めなかった。
何かに取りつかれたかのように、廊下を真っ直ぐに進んでくる。
「……えぇ? なんだアレ!?」
覚束なさそう足取りだが、すぐ目の前にある車椅子を跳ね除けて、はっきりと此方を目指している。
「これって…… ん? あれって昨日死んだ患者さんじゃないか!?」
自分が死亡宣告した患者の顔も見えている、他にも看護師や医師の姿をした者まで混じっている。
死んでいるのに動いている、驚愕の事実だが体が恐怖にに捉えられ動かない。
捕まえて観察してみたいとの、研究者として欲求が湧いて来るが、人間としての本能がヤバイと警鐘を鳴らしている。
「ど、どしよ……とりあえず逃げる!」
くるりと身体の向きを変えると、隆二はさっさと逃げ出した。
市内を流れる一級河川に架かる宮前橋。
其処にブルドーザーとドラム缶を利用した簡易検問所がある。
前原達也達は感染者の物理的移動を、ここで食い止める為にここにいた。
「きゃあああああ!!」
突然、悲鳴が上がった。
見ると隔離地域から人々が逃げ出している。
「……なんだ?」
唖然としていると、逃げ出している人混みの中に異質な存在があった。
目は白濁し赤黒く汚れた口を開け、服は返り血を浴びて赤く染められた不死者がいた。
それらが手短な者を捕まえては、噛み付いているではないか。
「なんだ……アレ?」
誰かが呟いた。
逃げている人も冷静になって避ければいいのだが、そこらじゅうに不死者がいるので、次々と捕まってしまっている。
この事態に警官達も慌てて駆けつけているが、多勢に無勢の状態で手に余っているようだ。
突然の事に自衛隊員達も浮き足立っている。
「隊長! どうしますか!?」
隊員達の呼びかけに隊長は迷わず言った。
「噛みつかれた人を助ける! 噛みついてる方は拘束して警察に引き渡す! 作業かかれ!!」
指示は明確で簡潔なのが良い、自衛隊員達は引き剥がし作業に取り掛かった。
現場に駆け付けるとアチコチで乱闘状態になっている。
中年の女性が少年に噛みついてる、達也が女性を羽交い締めにして引き剥がし、同僚が少年を抱えて救護所に行った。
中年女性は少年から引き剥がされると、今度は達也に向かって噛みつこうとしてきた。
その口は少年のものであろう鮮血で赤く染まり、その吐き出す息は生臭さかった。
「ぬあ、何でこんなに臭いんだ! 歯ぐらい磨け!」
咄嗟に女性を地面に組み伏せビニール紐で後ろ手に縛ったのだが、その間も噛みつこうと暴れている、しかも力が異様に強い。
男が2人がかりじゃないと押さえきれないぐらいだ。
そして中年女性を押さえていると、今度は高校生ぐらいの男の子がうめき声をあげながら取りついてきた。
「そりゃ!」
その高校生の腹を蹴り上げ、転ばせると高校生も縛り上げた。
「マズイ! 囲まれると遣られるぞ!」
縛り上げてる間にも、他の不死者たちが襲い掛かってくる。
「縛った奴はそのままほっとけ、健常者たちを逃がせ!」
見ると隔離施設から続々と不死者たちが湧き出てきている、人数ではこちらが不利なのは明白だ。
達也達は不死者を固縛する事を諦めて、健常者を逃がすことに専念しはじめた。
その頃、達也達に助け出された少年は、救護所とされているテントに連れてこられていた。
だが、少年は床に膝を着いて、肩で息をしながら大量の汗を流している。
やがて口を大きく開け放ち、まるで声にならない悲鳴を上げた。
「……!」
続いて少年は咳き込み辛そうにしている。
「ぐはっ! げほっげほっ!!」
やがて白目を剥き出し、 体中に血管が浮き出し震え始めた。
「がぁあ!」
大きく叫び声を上げると、今度は倒れ込んで動かなくなってしまった。
突然のことに少年を運んできた隊員が困惑し声をかけた。
「坊や? 大丈夫かい?」
しかし、少年の顔を覗き込んだ隊員に少年は噛み付いた。
「うぎゃ!」
抵抗する暇も無く隊員は噛まれてしまった。
救護所に居た、他の人々は隊員を助けようと一歩踏み出したが、そこで固まってしまった。
運び込まれていた噛まれた人達も、ゆらりと動き出したのだ。
「ひ! あいつらも仲間になったのか?」
「逃げろ!」
そのうちの一人が警官に取りついた、それに慌てた警官が拳銃を発砲した。
「パン!」
乾いた音がテント内に響き、弾は命中したが少しぐらりと揺れただけだった。
撃たれたにも構わずに警官に噛みついてくる。
そしてそれに吊られたのか、他の警官たちも次々と発砲しはじめた。
「なんだ、コイツら死なないぞ」
身体に次々と弾が命中してるにも関わらず、彼らは此方に向かってくる。
「ゾンビ? 不死者? なんだそりゃ!」
警官達の拳銃の弾が切れた、予備弾を持ってきてなかったのだ。
自衛隊員たちは銃器を持ってきてない、手元に有った掃除のモップやパイプ椅子を振り回して応戦していた。
「ここはもう駄目だ、阻止線まで引き上げて体制を立て直すぞ!」
警官も自衛隊も、橋の上の阻止線まで後退する事を決め撤退していった。
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