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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第3話 安全の変質

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第3話 安全の変質

 栗橋友康は窓から曇り空を眺めていた。
両親と連絡が取れなくなっている。
父親も母親も帰宅しないし、電話は通話中のままだし、電子メールにも返事がない。
念のために伝言を残しておいたが、聞いてくれたかどうか怪しいものだ。
 きっと医者である両親は、患者の治療で手が放せないのだろう……本当にそうなのか?
 あるいは、引きこもりニートの自分に愛想をつかしているのか、そういえば父親とは何年も顔を合わせていない。
自分とは違って責任感の強い両親の事だ、無理して過労で倒れているのかも知れない。
或いは感染して動けないのかも知れない……
 最初は”自由な日々バンザイ!”と喜んでいたが、いざ平穏な日常が終わり、厳しい現実が始まると困った問題が発生した。
”むぅ……どうやって飯を食おうか?”
しばらくは家の冷蔵庫の中身で、食いつなぐことが出来るが、このままだと食料が底を着いて飢え死にしてしまう。
”というか、米の炊き方すらわかんないや……”
友康は調理というものをした事が無い、その手の知識は皆無だ。
蛇口を捻れば水が出る、スイッチを押せば電子レンジが温めてくれる、冷蔵庫を開ければ炭酸飲料がある。
 これが当たり前の日々だったのだ。
 時間になれば母親が用意してくれたし、母親が夜勤の時などには、冷凍食品をレンジで温め直すだけで良かったので、特に不自由に感じなかった。
しかし、親が何日か留守にしただけでこのありさまだ。
ネット弁慶は日常生活が弱点だった。
 取り敢えず、インスタント食品だけでも確保しておくかと、買出しに出かけることにした。
近所にあるスーパーには直ぐに到着したのだが、スーパーの前は凄い人だかりになっていた、みんな考えることなど一緒なのだろう。
客達は全員、買い物籠一杯に様々な物を詰め込んでいる、ここのスーパーではあまりの人出に品出しが追い付かないため、一人一籠と制限をしているくらいだ。
 友康は取り敢えずインスタント食品を次々と籠に放り込み、自宅に籠城する為の準備を始めた。
”どの位籠っていなきゃならないんだろう? そもそもいつ終わるんだ??”
ニュースでは悪性インフルエンザが大流行で、死者多数との同じ話題ばかりやっていて、肝心の状況説明も終息させるための説明も無い。
”人の不安に付け込むのが商売とは言え、もうちょっと役にたてよな……”
どこのチャンネルでも、ひな壇に無芸人を並べて、内輪受けの面白くもないお笑い番組か、名前だけのコメンティーターを並べてのニュースショーをやっている。
この災害でも、生活して行く上でも、テレビは役に立っていなかった。
”まあ、マスコミが役に立たないのは、今に始まった事ではないけどな……”
友康はそんなネット掲示板の受け売りを思い浮かべながら、インスタント食品を籠に詰めていた。
 そういえばトイレのラバーカップが壊れたと、母親が言っていたのを思い出して買い物籠に入れた。
自宅に帰ったら家にあるものを調べて、不足しているのを、どこで調達するかを考えないといけないなと考えた。
”ちょっとネットで、サバイバル知識を検索して仕込んでおくかな……”
 友康は飯の炊き方を、一番最初に検索しよう心に決めた。


 ここまで至っても悪性インフルエンザは衰える気配がなく、その兇悪な牙を縦横無尽に奮っていた。
感染を嫌って人々が、自宅から出なくなっているせいで、経済は加速度的に悪くなっていく。
 最初に物流が止まった。
日本の物流を担うトラックも、そのシステムを支える物流センターも人が来ないのだ。
 今の日本は細かいシステムに分かれているので、どれかが欠けていても全体が上手く動かないようになっている。
品物が無ければ加工する事も売る事も出来ない。
店先からどんどん品物が無くなり、入荷もいつの日になるのかは店員達にも判らないという。
一部の店が便乗値上げを試みたが、次の日には焼き討ちされていた、必要なら耐え忍ぶが不正義は絶対に許さない国民性なのだろう。
 今はまだ各家庭に備蓄された食料があるので落ち着いてはいるが、それがいつまで持つのか判らない。
そしてこの状態がいつまで続くのか?
肝心の政府は与党と野党の足の引っ張り合いで何も決まらない、方針を示せない政府に対して国民の間に不穏な空気が流れ始める。
 ここは内閣府での会議場。
「物流が止まりつつあります。このままでは食糧不足になります」
若い担当官は簡潔にそう報告した。
「このままだと暴動が起きるかもしれませんね。」
若い技官の報告を受け、内閣官房長官の菅原は嘆いて見せた。
「自衛隊に治安活動の補助を命じる必要があるな……」
内閣総理大臣の大泉は、やはり治安出動を早々と出しておくべきだったかな?と思い始めてる。
「それだと国会が紛糾して、纏まるものも纏まりませんよ?」
内閣官房長官の菅原は、総理の意見に真っ向から対抗している。
「法的な根拠が無いんじゃ、警察が嫌がるでしょうねぇ、あの人達は責任は取らないけど仕切りたがるからね」
法務大臣の鳩川は呑気に呟いた。
「今だって状況は変わらんだろ。」
経済産業大臣の宮川が笑いながら答える。
「食料の配給計画を立てるように関係省庁に命じたまえ。それと……自衛隊に治安出動の準備を命じる」
大泉は力任せに国会を乗り切る覚悟を決めた。
”いいんですか?”
菅原は大泉に無言で問いかけるようにチラリと見た。
 閣議に出ていた閣僚達は大泉を伺った後、顔を見合わせていた。


 松畑隆二は研究棟にいた。
今日の診察時間は終了していたのだ、前日に仕込んでおいたサンプルの様子を確認して、今日は患者から採取したばかりの血液と唾液のサンプルの培養に取り掛かることにした。
隆二は、その日に問診した親子連れとの会話を思い出していた。
「お子さんの時には1週間位の潜伏期間があったようですね。」
しかし、今回の母親の潜伏期間は5日位だ。
 そして他の医者の、所見データを見ていてある事に気が付いた。
「……発症までの時間が短くなってる?」
 取り敢えず疑問をメモ帳に書き込み、メーリングリストで他の医者の所見を聞いてみようと、メールを一斉送信してみた。
関心が高いらしく直ぐに次々と返事が来る。
『変化してる可能性はある、症状に違った点は見つからないのか?』
『劇症化の度合いも違っている、一番ひどいのは脳も内臓もドロドロなってしまう』
そういえば水死体のように、パンパンに膨らんだ遺体を見たことがある。
メスを入れると解けた肉体の内容物が噴出して、手術室がエライ事になってしまったと、大野医師がぼやいていたのを思い出した。
『こちらでは短くはなっていない、個体差を考慮した方が良い』
『どこかに発症して完治した人間はいないの?血液からワクチンを作りたいんだが……』
様々な返信があった中に、気になるメールを見つけた。
『変化では無く、進化ではないのか?』
ドイツの研究者からだ、彼とはユーロ疾病対策学会で会って以来、よくメールで議論する中だ。
『ウィルスの本体も、形を次々に変化しているようだ、これかなと思って培養すると形が変わってしまったりしているんだ』
ドイツの科学者は、インフルエンザウィルスも似たような模索をしていると指摘している。
但し、インフルエンザウィルスの変化速度は10年単位だが、このウィルスの変化速度は時間単位ではないかとメールしてきている。
”進化……より効率よく自分を複製する方法を、ウィルスが探っているって事なのか?”
隆二はその考えを捨てた、ウィルスに知能が無いのは判っている、試行錯誤では無く自然淘汰の方がしっくり来るだろうと考えたのだ。
”果たしてそうなのか?”
”自分たちと形態が似てないからって、知性が無いと決めつけていいのか?”
”そういえば耐性菌の伝播メカニズムの都市伝説を聞いたことがあるな、離れた地点の菌が同じ抗生物質に、耐性を持ってしまうって奴。”
”いやいや、現象には必ず理屈がある、研究者がつまらない噂に振り回されてどうする。”
隆二は節電の為に暗くしてある、自分用の研究スペースで、ノートパソコンを睨みつけながら、自問自答を繰り返していた。
 試しに研究報告書を上伸してみたが完全に無視された上、余計な事してないで診察に専念しろと注意までされた。
進化するウィルスではと危惧する龍二だが、日々の診察に忙殺されてしまっている。
 だが自分の研究用スペースでは、細々とウィルス研究を継続させていた。
”発症のサイクルがドンドン短くなっていって、……その先はどうなるんだろう?”
隆二は漠然とした不安を抱え込んで、一人研究室の椅子に座って天井を見上げた。


 前原達也達の乗った89式偵察車は、かつては雑多な人々の行き交っていた交差点を通り過ぎる。
思い出したように通るのは自分達のような緊急車両だけだった。
ときおり見かける市井の人々は息をするのも怖ろしそうに小走りに駆け抜ける。
 そんな中を、もはやかたずける人のいないゴミが路上を風に吹かれて舞い上がっていった。
 市内を流れる一級河川に架かる宮前橋。
達也達は阻止線の検問所へ応援に向かう為に移動していた。
 其処にはブルドーザーとドラム缶を利用した検問所がある。
感染者の保護を詠っているが、感染者の物理的移動をここで食い止める為だ。
避難民達は長い行列を作って、静かに自分の順番を待っていた。
 簡単な問診を受けてた後に、サーモセンサーで避難民達の体温をチェックしている箇所を通る。
熱が有るようなら別室に誘導して、医師に詳しく検査させるためだ。
 もし異常が有れば隔離地区に誘導する。
勿論、苦情を言う人もいたが、警察官に別室に連れていかれるとおとなしくなった。
 其れ以外の人々は避難所に案内して、取り敢えず休息をとってもらう。
配給の食料を受け取り食事をする人や、今後の身の振り方を相談員に乗ってもらう人もいる。
 何しろ経済が壊滅状態になっているので今後の生活に不安を持っている人々が多いのだ。
また親戚などを頼って直ぐに出発する人たちもいた。
 達也たちは避難所に到着すると、すぐに簡易型テントの設営に駆り出されて行った。
「隔離された人たちはどうなるんだろ?」
達也は同僚の清水に聞いてみた。
「さあ? 治療法が無いと言うから、隔離してもそのままじゃね?」
清水は事も無げに答えた、もとから医者でも無い彼に聞いてもしょうがない事だ。
 先程からチラリと見ていると、大体3分の1くらいの人が隔離地域に案内されている。
患者がそんなに多いわけでは無いのだが、家族の誰かが疑われたら、残りの家族も一緒になって着いていく感じだ。
この様な状況では、はぐれたら再開するのが難しいので仕方ないのかもしれない。
”……じゃあ、遺体はどうしてるんだろ?”
葬儀場はこの付近には無いので、火葬する場所がないはずだ。
埋めてしまおうにも空地は無いし、そんな人の手を掛けられるほど人数の余裕も無い。
達也は簡易テント用の支柱を組み立てながら考えていた。

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