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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第34話 ステープラ

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第34話 ステープラ

「こちら救出チーム。府前基地。 救出チームは走る不死者に強襲されヘリを消失させた。救助用のヘリが必要。 送れ」
『こちら府前基地。救出チーム。 救助者の人数を教えられたし。 送れ』
「こちら救出チーム。府前基地。 大人が9人、子供が14人だ。 なお不死者は塩素系の漂白剤が苦手な模様、対策に取り入れられたし。 送れ」
『こちら府前基地。救出チーム。 救出チームに損害は出ているか? 塩素系漂白剤は了解、付け置きは必要か? 送れ』
「こちら救出チーム。府前基地。 操縦士の高畑・大山は墜落の際に死亡、機銃手の増田は機外に投げ出された、生死は不明だがあの高度では死んだ者と思われる、要救助者収容後に我々は捜索任務を具申する。 送れ」
『こちら府前基地。救出チーム。 救助ヘリの件は了解した、殉職した隊員の遺体は回収できそうか? 送れ』
「こちら救出チーム。府前基地。 遺体はヘリ共に池の中に沈んだ、現状では回収は不可能。 送れ」
『こちら府前基地。救出チーム。 了解、それでは不明隊員の安否確認を許可する、安全に留意されたし。 送れ』
「こちら救出チーム。府前基地。 了解。終了」

 栗橋友康の手は割れたガラスでざっくりという感じで切れていた。
「これは縫わないと駄目ですね……」
友康の傷を見た柴田医師は縫合しないと、雑菌が入り込んで危険だし止血に時間がかかってしまうと説明した。
「ここには手術道具は無いのですか?」
片山隊長が辺りを見回しながら柴田医師に尋ねた。
「ここには傷の手当が出来る簡単なキットがあるだけなんですよ、病棟の方に行けば全部揃ってますけど、行くのは余りお勧めしませんね」
 柴田医師は首を振りながら答えた。
病棟は事変の発生時に大量に不死者が発生しているし、それらがまだ徘徊しているのを監視モニターで見ていたのだ。
「自衛隊の部隊では医療キットは持ち歩かないのですか?」
 松畑隆二が片山隊長に尋ねてきた、戦争映画などで衛生兵が傷の手当をしているのを思い出したのだ。
「我々が持っているのも似たり寄ったりです。 普通は簡単な手当の後、救助のヘリを呼んで後送するんですよ」
 片山隊長はため息を付いた。
「……これなら使えますよ?」
 柴田医師が手にしているのは、書類を綴じるのに使うステープラだ。
「……や、やめてぇぇぇぇ」
 友康がステープラで傷口を、パチンパチンと綴じられる様を思い起こして悲鳴を上げた。
反対に柴田医師は嬉しそうに、ニコニコしながらステープラをカチカチ言わせている。
「そんな意地悪言わないでくださいよ、どの辺に行けば良いですか? 我々が取りに行きます」
 片山隊長は苦笑しながら、病棟のどの辺に行けば良いのかを柴田医師に尋ねた。
「そうですかあ? じゃあ、看護師の冨田君を連れていくといいですよ、僕より彼女の方が詳しいですから……」
 柴田医師はちょっと残念そうに返事を返し、友康の手に包帯を巻いている冨田看護師を手で示した。
「女性を連れて行くのは……ちょっと……」
 片山隊長は言いにくそうに言った、万が一があった時に困った事になるからだ。
それに自分の身を守るので手いっぱいで、女性の面倒まで見ていられないと考えた。
「彼女は武闘派ですから、自分の面倒はある程度は見られますよ、それを皆さんがサポートしてくれれば平気です」
 柴田はニコニコしながら、事変発生時に彼女が不死者相手に活躍した様子を説明した。
そんな活躍の様子を隆二も頷いて同意した。
 確かに彼女は文句なしに強かったからだ。
「強いんですねえ……何か習い事でも?」
片山隊長は、その武勇伝を聞いて苦笑まじりに言った。
「ええ、総合格闘技を少々……昔、痴漢に会った事があって、何も出来ないのが悔しかったから、非番の時に道場に通っていたんですよ」
 冨田看護師は斧を床にドンと立てて、両手を添えてニッコリと笑いながら言った。
まるで戦いの女神『ミネルバ』のようだ。
「それに必要な物がどこに収納されているか、判らないと困りますでしょ?」
 冨田はトートバッグを肩にかけて用意している、もう出かけるつもりのようだ。
「それじゃあ、前原! 3人連れて、冨田さんをサポートしつつ医療器具の回収に向え!」
 片山隊長は1階から引き返してきた前原達也に命じた。
「はい」
 達也は出川・田中・大里の3人を連れていくことにした。
「栗橋さん? 水鉄砲借りて行っていいですか?」
 達也は水鉄砲を大事そうに抱え込んでいる友康に聞いた。
「ええ、いいですよ……でも、壊さないでくださいね?」
 友康は冨田看護師に水鉄砲を渡した。
水鉄砲を受け取った冨田看護師はニッコリと笑いながら頷いた。
「2階に連絡用通路があります、そこから行くと外科に近いですよ」
 隆二がそこまで案内すると言っている。
鋼鉄の扉が下りているので、中から開けるにはパスワード入力と指紋の認証とハンドル操作しないと開けられないとの事だ。
「じゃあ、行ってまいります」
 達也は片山隊長に敬礼して出かけて行った。
 片山隊長は答礼をして、残りの部下たちに黒ずくめの男たちが残して行った武器の回収を命じた。
「ミニガンをお願いします。面制圧出来る兵器はあるだけでも有難い、入り口を入った所に放置されているはずです」
 木村は特にミニガンは必ず持ってくるように言った。

 隆二が自分のパスワードを打ち込み、人差し指をスキャナーに押し当てる。
赤く点灯していたLEDは”ピッ!”と短い音がした後に緑になった。
「じゃあ、開けます……みなさんが行った後は閉鎖しますので、帰る時には無線で連絡くださいね」
 自動車のハンドルを一回り大きくした様なハンドルをクルクルと回し始める。
やがて鋼鉄の扉は少しづつ上に上がり始めた。
 扉についた小窓から見ると、通路には6人の不死者が居た。
扉の開閉音に気がついた彼らは扉の前に張り付いてきたのだ。
「……足を払って転ばせろ」
 更迭の扉が潜り抜けられる高さになった時に、達也は出川に端の一人の足を払うように命じた。
そして、不死者が倒れこんだ所を斧で処分するのだ。
 出川が足を払ったところ、仰向けで扉の向こう側に倒れてしまったので、田中・大里が足をひっぱってこちら側に引き込んだ。
「うがああああ!」
 転ばされた不死者は、不意に現れた達也たちを見つけて吼えてきた。
「まず、ひとり!」”ガスッ!”
 達也の斧が不死者の頭にめり込み、達也に噛みつこうとしていた不死者は静かになった。
「冨田さん、処分した不死者に赤いテープを張ってもらえますか?」
 見た目では処分済みかどうか解らないので、区別用に赤いテープを張るようにする事にしたのだ。
何しろ彼らは動けなくても噛みつこうとするやっかいな存在だ。
「さあ、次!」
 達也は出川に合図を送り、残りの5体も同じように処分していった。
「さあ、行こうか……廊下に倒れている不死者にも、頭に止めを入れてテープ張りをしながら行くよ、出発」
達也たち5人は扉を潜って出かけて行った。
 そんな後姿を見送りながら”がんばってね”と呟いて、隆二は扉を閉鎖した。

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