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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第30話 交差する思惑

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第30話 交差する思惑

『こちら救出チーム。疾病センター。 応答されたし。送れ』
『こちら疾病センター。救出チーム。 感度良好です。送れ』
『こちら救出チーム。疾病センター。 ヘリコプターは走る不死者に襲撃されて墜落した、生き残った隊員はそちらに向かっている。送れ』
『こちら疾病センター。救出チーム。 何人くらいで、こちらに向かっているのですか? こちらには物資はあまりないです。送れ』
『こちら救出チーム。疾病センター。 自衛隊員が10名、大人が4名、子供が7名だ。送れ』
『こちら疾病センター。救出チーム。……あの……ずいぶんと個性的な救出チームですね? けが人はいますか? 送れ』
『こちら救出チーム。疾病センター。 怪我人はいない。送れ』
『こちら疾病センター。救出チーム。 接近しているトラックは違うのですか? 送れ』
『こちら救出チーム。疾病センター。 トラック? 何の事だ?? こちらは知らない。終了』


 松畑隆二の立て篭もる疾病センターに向かって、1台の大型トラックが疾走していた。
向かって来たのは引越屋のトラックだ、次々と不死者を撥ね飛ばしながら近づいている。
ダチョウのマークが付いていたので直ぐに判った、猫か飛脚なら宅配トラックだろう。
 しかし、疾病センターの前には大量の不死者たちがたむろしている。
近付くにつれて不死者の密度も濃くなってきた、もう撥ね飛ばすだけでは不死者は排除出来ない。
 むしろトラックの走行音に反応して集まって来ているくらいだ。
 幹線道路から疾病センターの駐車場入り口まで来た時に、トラックはおもむろに停車した。
 トラックの荷台の上側が開き、中から携帯式のミニガンを抱えた男が出て来た。
そして荷台の上に仁王立ちしたままで、ミニガンによる掃討射撃を開始した。
”ブゥオオオオオ!”
 ミニガンには曳光弾が入っている、その赤く光る射線が蛇の舌のように不死者たちを舐めまわす。
不死者たちは雑多な肉塊となって、トラックの周りに散らばっていった。
 100体以上いたであろう不死者たちが粗方に掃討されると、トラックの荷台に付いている横の扉が開いた。
そして、扉の中から全身黒ずくめの男たちの集団が降りてきた。
 その集団は軍用のアサルトライフルを手に持った武装集団だった。
 武装集団は横一列になったかと思うと、そのまま射撃しながら不死者たちを掃討してゆく。
集団の先頭にいる体格の良い男は、携帯式のミニガンを左右に振りまわしながら、その凶暴な射線で不死者を薙ぎ払っている。
 武装集団は射撃の腕も良く、ミニガンが撃ち漏らした不死者を無駄なく一発で葬って行進してゆく。
 トラックの上にはミニガンの男の代りに、狙撃用ライフルを構えた男が武装集団の周りの不死者の頭を吹き飛ばしていた。

 そう、この武装集団は実に手際が良い、恐らく訓練を受けた軍隊だろう。
 問題なのはいったい誰なのか、皆目見当が付かない事だ。

 そんな様子を監視モニターで見ていた木村は、この全身黒ずくめの男たちに違和感を感じていた。
不死者を薙ぎ払っている携帯式のミニガンは、自衛隊には配備されていなかったからだ。
”……どう見ても自衛隊じゃあ無いなよな……コイツら”
 この事変が始まって以来、人の持つエゴを嫌と言う程に見て来た。
 そしてエゴの塊のような国家も沢山ある、”平和平和”と念仏を唱えていれば、敵対する国が無くなるなどと呑気な事を考えるのは日本ぐらいだ。
”……薬と開発者の確保と考えるのが妥当だよな”
 木村は振り返った、隆二が一緒にモニターを見ていたのに、その時初めて気が付いた。
「外国の特殊部隊ですね。恐らく僕の確保でしょう」
 木村はまたもや隆二に心の中を見透かされてしまった。
 何か言おうとした時に、横合いから鈴木温子が口を挟んできた。
「でも、国際的な救助隊かもしれないよ?」
 温子は子供たちを怯えさせたく無かったのかもしれない。
そんな希望的な憶測を言っていた。
「そうかも知れないし、違うかもしれない。悪意に対して無防備な人間には、正直同情出来ないね」
 隆二は温子に言い放った、事は大人だけでなく子供たちにも類が及ぶ可能性があるのだ。
慎重に事を運ぶべきだと考えたのだ。
「それに……ピンポイントでここに軍隊を送り付ける奴らが、友好的だとは思えないしね」
 隆二は黒ずくめの男たちから発する悪意を嗅ぎ付けているのだ。
そう、無線を傍受してるのであれば、事前に無線で連絡をしてからやってくればいいのだ。
それをやらずに自衛隊の救助チームが来る前に、慌ててやってくる軍隊など怪しさがいっぱいだ。
 そして、残念な事にそれは当たっている。
無線を傍受したのは、日本の自衛隊だけでは無かったのだ。
 この数日で抗不死者薬は世界中で大人気になった、それを世界中の施政者が欲しがらない訳が無い。
抗不死者薬供与を条件に、相手国に対していくらでも無茶な要求が出来てしまうからだ。
つまり抗不死者薬の独占は、地球そのもを支配するのに十分な意味を持っていた。
 何より自分たちが不死者にならない為には必要なアイテムなのだ。
ここで木村は考えた。
”薬を開発した人物は重要な意味を持つが、それ以外は足手まといにしかならないのではないか?”
 あの集団が特殊部隊であると考えると、自分たち一般の市民は処分される可能性が高いだろう。
そう考えた木村は疾病センターにいる全員に言った。
「……あれは拙い連中かもしれない、念の為に女性・子供は隠れた方が良い思う」
全員が黙り込んでしまった。
 木村の後ろで見ていた柴田は狼狽してしまった。
「た、助けに来てくれたんじゃないの?……」


 やがて、建物に難なく取りついた黒ずくめの男たちは、玄関を開けようとしたが鋼鉄製の隔壁に阻まれて中に入れないのかもたついているのが見えた。
 部隊指揮官らしき男が一人の男に何か指示を出している。
するとその男は隔壁の壁に何かを張り付けている。
その男が壁から離れたかと思うと壁が光った。
 爆破したらしい、疾病センターの建物が”ズーンッ”と身震いしたからだ。
 爆発の煙が薄れたかと思うと、かつて玄関だった部分は吹き飛び、そこから黒ずくめの男たちが雪崩れ込んで行った。
建物に入った黒ずくめの男たちは、銃を構えたまま廊下を歩いている。
 そしてセンター内に居た不死者に片っ端から銃撃を加えていた。

 その頃、疾病センターの駐車場入り口に止めたトラックには災厄が近づいていた。
爆発音を聞きつけたのだろう、無数の不死者たちが走って来ているのだ。
 外のトラックに居た黒ずくめの男たちは、その光景に一瞬怯んだが直ぐに銃撃を開始した。
だが、普段目にするノロノロ歩く不死者と違って、走る不死者は容易に銃撃の的には成ってくれない。
「うがああああ!」
 トラックに接近する不死者に手間取っている内に、横合いに接近された不死者に噛みつかれてしまった。
トラックの中に居た男は拳銃を取り出そうとしたが、複数の不死者に噛まれて直ぐに沈黙してしまった。
 不死者たちはトラックを沈黙させると、疾病センターに空いている穴からも射撃音がしているのに気がついた。

 その時には疾病センターに侵入した、黒ずくめの男たちは2人1組でセンター内を探し始めた。
大まかに3セットに分け、1階をAチーム、2階をBチーム、3階をCチームとした。
『こちらはC1(チャーリーワン) すべてのチームリーダー、応答せよ』
 部隊指揮官の男は各捜索チームに状況報告を求めた。

『こちらA1(アルファワン)対象見当たらず』
1階を捜索しているA1のチームは交信を終えた。
勿論、隆二が開発者だとは知らない。
それでも、彼らの国は開発者を確保し、母国に連れ帰るように命じていた。
走る不死者は黒ずくめの男たちに襲い掛かって行った。
黒ずくめの男は手にしたライフルを、走る不死者に向けるや発砲した。
”ドン! ドン!”っと、響き渡る銃声。
しかし、不死者は飛び退いて弾道をかわす!
いきなりの展開で動揺する黒服。
黒ずくめの男はライフルのセレクターレバーを、単発から連射に切り替えて銃撃した。
”ダダダダ!”
銃撃の合間を走る不死者は、右に左にと弾道をかわしてしまう。
しかし、何発か撃った時に手応えが有って、走る不死者は廊下に転がっている。
黒ずくめの男はそこを逃さず頭部に向かって、残りの銃弾を撃ち込んだ。
すると、その影から別の走る不死者が躍り出て黒ずくめの男に噛みついた。
「しまった!」
必死に抵抗する黒ずくめの男だったが、1分後には不死者の仲間入りをしていた。
相方の黒ずくめの男がやられてしまい、残った1人は他のメンバーと合流しようと走り出そうとした。
だが、すでに回り込まれてしまっている。
”ああ、ダメか……”
生存を断念した残った黒ずくめの男は、手榴弾の安全ピンを抜いて目を瞑った。
「うがああああ!」
不死者の叫び声と共に手榴弾は爆発した。
そして何体かの不死者を、道連れに黒ずくめの男は吹き飛っび、その肉片を廊下中に撒き散らした。

『こちらA3(アルファスリー)対象……なんだ?……うわっ……』
 ふいに途切れた無線交信と共に爆発音や銃撃音が1階から聞こえて来る。
 B1(ブラボーワン)のチームリーダーは戸惑ってしまった。
”……自衛隊と交戦しているのか?”
その時、階段の陰から不死者がB1のチームリーダーに目掛けて飛びかかってきた。
飛びかかられたチームリーダーは、そのまま背負い投げのように不死者を投げ飛ばした。
だが、間合いの悪い事に不死者の指が手榴弾の安全ピンに架かってしまい抜けてしまった。
安全ピンが抜けたことに気がついたチームリーダーは、その手榴弾を外そうとしたが、そこを中年の不死者に襲いかかられてしまった。
「うがああああ!」
「ひ、ひぃぃ……」
チームリーダーが悲鳴を上げるが、不死者は構わず噛み付いてくる。
結局、手榴弾を外す時間も無くなり、”ドーン”と爆発音と共にチームリーダーは吹き飛んでしまった。
残された相棒はチームリーダーの体だった部分から無線機を外して交信した。
『こちらB1不死者と交戦中! は、走ってる!!』
その交信している後ろから、走る不死者に噛みつかれてしまった。

階下からアサルトライフルの連射音が聞こえる、部隊指揮官は焦り始めた。
1階を担当したアルファも、2階を担当したブラボーも交戦しているようだ。
”……走る奴ってなんだ?”
決して弱くは無い自分の部下が苦戦しているらしい、それなのに対象の手掛かりが無い。
ふと見るとエレベーターが動いていることに気が付いた。
”……屋上に逃げているのか? ヘリか!”
部下たちに合図して屋上に向かっていった。

「自分たちが屋上に行きます、鈴木さんたちは子供たちと一緒に隔離ラボに行ってください」
 隆二は木村、柴田と共に屋上に向かう事にした、子供たちから関心を逸らせるためだ。
鈴木に監視モニターで黒ずくめの男たちの動向を、監視してもらいながら屋上に向かう。
そして彼らがどこに居るのかを教えてもらう。
 途中で黒ずくめの男たちに、目撃されるのは忘れないようにする為だ。
そして、隆二たちが引きつけている間に、鈴木たちは自衛隊の救助チームに助けを求めるのだ。
 作戦は今の所、上手く行っている、後は自衛隊に委ねるしかない。
武器と言えば木村の持っている拳銃と、柴田と隆二が持ってる斧だけ。非常に心許ない作戦だ。
 やがて、隆二たちのいる屋上に黒ずくめの男たちは雪崩れ込んで来た。
 人数は4人……もっといた筈だが不死者にやられたのであろう。
 その部隊指揮官は黒の目だし帽を引き上げて顔を晒した。
そして、おもむろに野太く響く声で言った。
「全員、そのまま手を挙げろ!」
 いきなり初対面の人間に、銃を突きつける人物が良い奴だったためしは無い。
渋々、両手を上げる3人だった。
「抗不死者薬を作成した人物は誰だ?」
 部隊指揮官は銃を突きつけたまま尋ねる。
木村、隆二、柴田の順で舐めまわすように視線をぶつけて来た。
「俺がそうだ、俺をどうしようというんだ?」
 木村がそう答えた、雰囲気的にばれそうだが、それでも構わない。
時間が少しでも稼げればそれでいいのだ。
「決まってるだろう、抗不死者薬と開発者は我が国が頂いてゆく、これもすべて世界平和の為だ」
 部隊指揮官は不遜な笑みを浮かべて言った。
もちろん、この男にとって世界平和など知った事では無い。
開発者を確保して、国に連れて帰れば報償が思いのままだからだ。
「彼が行ったら、我が国はどうなるんだ?」
 柴田が手を挙げたまま、部隊指揮官に質問した。
「気が向いたら我が国から施しを受けられるさ、我が国に有益な人民に限らせてもらうがね」
 部隊指揮官は不遜な笑みを浮かべたまま言った。
「んー……ちょっと待って下さいね」
 両手を挙げたまま隆二は、片手に持っていたスマートフォンのパネルをタッチした。
「……ん? 何をしたんだ??」
 部隊指揮官は銃でスマートフォンを指し示した。
「メールを出したのさ、世界中の研究者にね」
 隆二は淡々と答える。怒らせたかも知れないなと、ちょっとだけ後悔した。
「……え?」
「さあ、撃てばいいよ。 薬のレシピも実験データも、今頃世界中の研究者が読んでいる、レシピ通りに作れば薬は誰にでも作れる」
「……き、貴様!」
「銃で脅せば他人が従うと勘違いしてるから、あんたらの国はいつまでたっても駄目なんだよ」
「……くっ!」
 部隊指揮官は憤怒の表情を浮かべていた。
お互いに一歩も譲らない意地の張り合いで睨み合う2人。額から汗が流れ落ちる。
一陣の風が2人の髪をかき乱してゆき、他の黒ずくめの男たちも銃を構えたまま動かない。

 その時、部隊指揮官の手にあった銃に、ラバーカップが当たり叩き落された。
「そこまでだ!!」
 水鉄砲を構えた友康が屋上に躍り出て来る。
「……え?」
「……え?」
 部隊指揮官と隆二は、考えてもいなかった闖入者に呆然となってしまった。
何よりもいきなり現れた男が構える武器だ、”……水鉄砲??……玩具で重武装の自分たちに刃向うのか?”と混乱していた。
そして、黒ずくめの男たちが隙を見せた瞬間に、自衛隊員たちが屋上の縁から続々と現れた。
 部隊指揮官が我に返ったときには形勢は逆転してしまった、今や数の優位は自衛隊側にある。
 屋上の入り口から片山隊長が現れて友康の横に立った。
「もう、勝ち目は無いですよ、銃を捨てて降伏しなさい」
 すでに銃を構える隊員たちを見据えて、片山隊長が降伏するように言った。
部隊指揮官は自衛隊を見て、自分の部下を見て、しばし考え込んだようだ。
やがて”フンッ”と鼻を鳴らして、そのまま部下を引き連れて歩いて屋上を出て行った。
 破れかぶれで撃たれる可能性も有ったが、来る時は集団だったが今度は小人数で、不死者の集団を突破しなければならない。
厳しい戦いになるので、弾を節約したかったのだろう。
 呼び止める事も考えたが、彼らが引き上げるのなら無駄に戦闘するのは、今は得策では無い。
この屋上には重要人物がいる、流れ弾でも当たったら目も当てられない。
「素直に”頂戴”と言えば良いだけなのにね」
 柴田はポツリと呟いた。
「プライドだけが無駄に高い連中だから無理じゃないか? ま、どうでも好いけどさ」
 隆二はひょうひょうとしていた、この程度のトラブルには慣れているらしい。
「ありがとうございました」
 隆二は友康の方に向き直り礼を言いながら握手をした。

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