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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第29話 人形使い

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第29話 人形使い

 池から2ブロックほど走って、雑居ビルの中で一休みする救助チーム。
「助けてくれてありがとうございます。自分はこの小隊の隊長を勤めます、片山と申します」
 一息付いた所で、片山隊長は友康に丁寧に礼を言った。
「ども、栗橋友康です、職業はスーパーのバイトしてました」
 正確には”かつてバイトしていた”だが、伏せておくことにした。
引きこもりニートでは、また馬鹿にされるかもしれないと考えたのだ。
 他の隊員たちも、それぞれに自己紹介した。
「あのー、それって水鉄砲ですよね?」
 前原達也は友康の持っている、大きめの水鉄砲を指差して尋ねた。
当然、自分たちを窮地から逃げ出すきっかけを、作ってくれた水鉄砲に関心が集まる。
「ええ、コレとコレが僕のメインウェポンですよ」
 友康は誇らしげに、ラバーカップと水鉄砲を掲げて見せた。
「はぁ?」
 全員、思わず自分の小銃と見比べてしまった。
「コホン ところで中身は何ですか? 不死者が嫌がっているように見えたのですが?」
 片山隊長がボートハウスで見た、水を掛けられた不死者の行動について尋ねた。
「洗濯用漂白剤です、薄め過ぎると効果が無いですが、倍の希釈までなら大丈夫ですよ」
 友康はリュックから漂白剤を出して見せた。
「○■社の奴が一番効きが良いです、いったい何の成分が入って居るんですかねぇ」
 友康は笑いながら答えた、これまでの道中に色々とテストして来たらしい。
「恐らくは原因は塩素だと思っているんですが、何故だか嫌がるんですよ」
 友康はスーパーでの出来事を片山隊長に語って聞かせた。
「うむ 面白い。後で本部に報告しておこう」
 片山隊長は部下に無線で本部に報告しておくように指示した。
「これはきっと役に立つ」
 これまで弱点らしきものが不明で、一体づつ潰すしかなかった不死者対策が進むものと考えられた。
 詳しい調査は学者たちに任せよう。
難しい理屈抜きに実用に耐えれそれで良し、片山隊長の評価は単純明快だ。
「じゃあ、水分を補給したら出発する、前畑と前田は前衛を行ってくれ
栗林さんは前衛で追い払う手伝いをお願い出来ますか?」
 片山隊長は友康の方を向いて尋ねた。
「え? 俺は此処で別れる積もりですが……」
 友康は無事に助け出したし怪我人もいない、もう手伝える事は無いので、別行動を取ろうと考えていた。
「自分たちは疾病センターに、重要人物を迎えに行く途中なんです」
 片山隊長が行き先を教えた。
「そこに対不死者薬を作った、医者が居るんですよ」
 達也が対抗薬の開発者の事を話した。
「途中、無駄に闘って消耗したくは無いので、その水鉄砲で追い払ってしまえるものなら有り難いのですが?」
 今は猫の手も借りたい状況だ。
友康が参加してくれれば、それだけ早く疾病センターに到着出来る。
 それでも無理強いは出来ないので、片山隊長は頼んでいるのだ。
「対不死者薬……判りました、お手伝いします。でも戦闘は苦手なので、その辺はお願いしますね」
 友康は達也に右手を差し出した。
「そっち方面はお任せを……」
 達也はニッコリと微笑んで手を握り替えした。
友康は達也たちと一緒に行くことになった。
「その水鉄砲はどの位飛ぶんですか?」
前田が友康に尋ねた。
「エア満タンで、5メートルくらいかな?」
道路に広がった不死者相手にしか、使ったことがなかったが、これまでの印象から答えた。
「君、済まないが前衛に入ってくれ、前方の不死者を追い払ってくれればいい」
 片山隊長が友康に前衛に入ってくれるよう、改めてお願いした。
「あいあい……あ? あれ?」
 頼られてちょっと嬉しくなった友康は、ふと目にした町の一角を指差した。
不死者たちが群がっている。
「生存者が……いそうですね……」
 達也がそちらを見ながら呟いた。
だいぶ離れているのに不死者たちのうめき声が聞こえる。
「自分たちの任務は重要人物の救出にある。寄り道はしない」
 片山隊長は重要人物の救出に、任務を絞ろうとしたが反対意見が続出した。
「ヘリが落ちた時点で任務の遂行は困難で、放棄されたと考えるのが妥当です」
「……要救助者を見捨てるのは我々の主義に反します」
 全員、口々に彼らを救おうと意見を具申した。
「分かった、分かった……そんなに一遍に言わないでくれ。それでは、これより要救助者の救出任務に切り替えだ」
 片山隊長は要救助者の救出任務に同意した、本来なら許されないのだが、自分だって市民を見捨てるのは嫌だったのだ。
「助けるのはいいですけど、どうやります? その小銃でバリバリ撃ったら、ここいら一帯の不死者を集めてしまいますよ?」
 友康はちょっとした不安を口にした。
銃の発砲音はデカイ。これまでも発砲したばかりに逆にやられてしまった人たちを何度も見て来た。
「そうだな入口の不死者を水鉄砲の塩素で追い払って、しつこく残っている奴を斧で退治する……銃はいざという時まで発砲しない……訳にはいかないよなあ……」
しばし唸っていた片山隊長は、破壊しつくされていたゲーセンにある物に気がついた。
「ああ、あれを使おう……」
 片山隊長はゲーセンの一角にあった物を指差しながら言った。


 ここは街の一角にある保育所、不死者たちに襲撃を受けている最中だ。
「うがあああああ!」”バキッ”
「ぐぅあああああ!」”ドン!”
不死者たちが入口にある簡易バリケードを、その両腕で飽きる事無く叩いている。
 能代由美はそんな喧噪の中を、背中でバリケードを支えていた。
 ここには7人の子供と3人の保母がいて、由美は保母の一人だった。
 食料は無くなってから3日たつ、水はまだ少しあるが今日一日持つかどうかだ。
 保育園の園長は食料を調達すると、外に出て行ってから5日たっていた。
戻ってこない所を見ると、恐らく園長は駄目だったのだろう。
 子供たちは昨日から動いていない、生きてはいるがお腹が空きすぎて動けないらしい。
 3人の保母たちは交替で、入口のバリケード代わりのロッカーを抑え込んでいた、こうしないと突破されてしまうからだ。
 いつ終わるともしれない攻防が続いていた。
 今は由美が当番なので、朝から抑え込んでいたのだが眠気が襲い、一瞬気が緩んでまった……
「……ハッ いけない!」
バリケードを慌てて抑えようとすると、ふと外が静な事に気がついた。
 休む事無くバリケードを叩き続けていた音が止んでいるのだ。
「……どうしたのかしら」
 バリケードの隙間から外を伺うと、不死者たちがいなくなっている。
 彼らは20人くらい居たはずだ。
「……え? どうして??」
由美は不審に思い外の道路を見つめ続ける。
 すると目の前の道路を、緑色した迷彩服を着た男たちが闊歩していた。
そして斧や小さいツルハシで、不死者たちを次々と屠っていった。
中には水鉄砲で不死者に挑んでいる者もいる。
後、なぜか可愛らしい人形を、銃口に付けた拳銃を構えて居る者もいた。
「……じ!」
それが何か気が付くと、由美が思わず叫びそうになった。
 すると、迷彩服を着た男が由美のほうを向いて、口に人差し指をあてる仕草をした。
 ”静かに”って事だろうと理解した由美は慌てて両手を口に充てた。
そして、休憩している他の保母たちを呼び寄せた。
「……自衛隊よ、助かったぁ」「助かるのね、みんな」「良かった……」
 涙を流しながらお互いに喜び合う3人、子供達もそんな保母たちの異変に気がついたのか集まってきた。
「……どうしたの?」
保育園児の男の子が由美に尋ねてきた。
 その時、バリケードの外から男の声が聞こえた。
「……ここ、開けますよ……むん!」
 長い事、不使者たちから守ってくれたバリケードは、屈強な男たちの手でいとも簡単に開いてしまった。
「初めまして、自衛隊です。こちらには何人いますか?」
 片山隊長は簡単な挨拶をして、由美たちに状況を尋ねてきた。
「子供が7人で、わたしたち大人は3人です」
 由美が答える、他の保母たちは声が上手く出ないようだ。
子供たちも訳も分からずに喜んでいる、保母たちが喜んでいるのが嬉しいらしい。
「保母さんと子供たちに携行食とキャンディバーを与えるんだ、10分たったら直ぐに出発します」
片山隊長は部下に指示を出し、2人を通りの監視に残して部屋の中に入って来た。
「取り敢えず糖分を取って動けるようにしてください、このまま疾病センターに向かいます」
これからの行動を簡単に説明する。
「疾病センターですか?」
由美は訝しく思った、避難所に連れて行ってもらえると思ったからだ。
「我々は疾病センターに行く途中だったんですよ、ヘリを要請しますので、皆さんもそれに載せるつもりです」
 片山隊長が説明した、すると男の子が片山隊長に近づいてきた。
その男の子は片山隊長の拳銃にそっと手を伸ばそうとしている。
「ん?」
 片山隊長が目を向けると、男の子は慌てて由美の後ろに隠れた。
それでも片山隊長の拳銃をじっと見ている。
「ああ、これか……」
 片山隊長は、拳銃の銃口に縛り付けた人形を外して、その男の子に手渡した。
”あー、いいなあ”それを見た他の子供たちが、口々に不満を言いだした。
 他の隊員たちは微笑んで、自分の銃に付けた人形をはずし、それぞれ子供たちに手渡した。
「その人形は何なんですか?」
由美は恐る恐る聞いてみた。
「銃の発射音を軽減させるために付けていたんですよ、音を立てるとヤツラが近づいて来ますからね」
片山隊長が照れくさそうに言い訳をしていた。
「……そうなんですか」
 由美は微笑んでしまった。
水鉄砲と人形を抱いた男の集団に”可愛い人達”との印象を持ってしまったらしい。
緊張感から解放されたのか子供たちからも笑顔がこぼれている。
「じゃあ、具合の悪い子供たちは我々がおぶります、元気な子供たちは歩かせてください、逃げるときは隊員たちがおぶりますので安心してください」
 隊員2名が子供をおぶさり、他の子供たちは保母たちと手を繋いだ。
その前後左右を他の隊員が囲み、友康は達也と共に一番先頭で進むことになった。
「……それでは出発」
 全員の準備が整ったのを確認した片山隊長は、出発を言い達也・友康の順で道に出た。
 人数の増えた一行は、疾病センターに静かに向かった。

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