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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第2話 悪夢の拡散

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第2話 悪夢の拡散

 ”ぬは!”、栗橋友康はベッドの蒲団から、勢いよく起きた。
ぼーっとした頭で”あれ?今日はババア来てないのかよ”来たら来たでウザイと言う癖に来ないと寂しがる、息子という生き物は困った習性を持っている。
 枕元の時計見てみると、夜9時を少し過ぎている所。
 どうやら18時間程寝ていたらしい。
”……腹へった”部屋から出ようと、ドアを少し開けてみると”ガチャン”と食器が鳴る音がした。
目線を下に向けると、母親が用意してくれていた朝食が目に入った。
”ん? まだ病院から帰ってないのか??”
 すっかりと冷め、おまけに少し乾いている朝食を、食器トレイごと手に取り、自分のパソコン机に載せて食べ始めた。
そしてパソコンの電源を入れて、ブラウザを起動し馴染みのサイトへ接続した。
最初に目に飛び込んで来たのは
『日本終了! 謎の伝染病が急速な勢いで蔓延している。』
という書き込みだった。
 なんでも潜伏期間が短く、急速に激症化して死んでしまう、謎の伝染病が流行っているらしい。
インフルエンザに似ているが抗体反応では違うらしく、その為にウィルスが見つからず治療法が不明だそうだ。
”ふふふふ、自宅警備員の俺は勝ち組ってか?”
 この時、友康は少しワクワクしてしまった。
今までの、つまらなかった日常生活に対して、この事件が刺激的な出来事に見えたのだ。
”こんなつまんない世界なんか壊れちゃえよ”
とりあえず、もっと詳しい情報を、ネットで収集しようかと、友康はマウスを操作しはじめた。


 重篤な病気になれば最後の頼みの綱は病院だ。
しかし患者が増えているに拘わらず医者の手が圧倒的に不足している。
すでに廊下にも患者を寝かしつけている。
 医者が一人患者を診察する間に、来院する患者は10人増えてゆくのだ。
間に合う訳が無い。
既に病院の外には診察待ちの長蛇の列になっている。
 そんな患者でごった返す病院の待合い室の大型テレビがニュースを読み上げていた。
『ニュースをお伝えします。
国内で先日から発生している猛毒性インフルエンザによる死者数が100名を越える事態となり政府は緊急閣議を開き、 対策本部を立ち上げる事を決定しました。
事態の収拾に向けて関係機関との連携を強化に乗り出しました。
次のニュースです。
中国国内において、発生している猛毒性インフルエンザは、その爆発的な感染が防げず、中国当局が、各国に異例の緊急支援を要請しております。
EU(ヨーロッパ連合)では、交通機関による移動を、禁止する処置を実施するとの発表がありました。
また政府機能が消失して、暴動が頻発しているアフリカ各国では、AU(アフリカ連合)が、諸外国の支援を求める緊急声明を出しました。……』
日本以外の国々でも、感染爆発が起きており、ニュース番組ではそのニュースだけで、放送時間枠を使いきってしまった。
 不安そうに、テレビを見ている患者やその身内、罹患した子供を抱えている親たち、。
また日本国内にも、医療関係者に感染者が出始めていた。
 政府は連日対策会議を行っているが、もちろん議論百出で何も決まらない。
国民の間に広がる不安に対して、具体策を発表できず、食料品・燃料などが買い占められる事態になって、このままでは暴動に発展するのではと危惧されている。
取り敢えず警察が対応しているが、警察官にも感染者が発生している為、各地で人手不足に成りつつある。
 そこで自衛隊に、災害出動を命じるべきか議論しているのだが、九条がどうたら軍靴がどうたらと話しが、一向に進まない。
たとえ国家的危機だろうと、自分達の偏屈な理屈を優先させる人達だ。
政府の不手際を責めて倒閣させ、総選挙へと持って行こうという腹積もりなのだろう。
こうして貴重な時間がただ浪費されていく……


「ふう……やっと到着っと……」
 松畑隆二は、患者でごった返す正門と避けて、静寂な職員通用門に来た。
 通勤だけで貴重な研究時間を使ってしまっていたので、急いで研究室に向かおうとしていた隆二なのだが。
ロッカールームに行く途中で救急処置室担当医の大場に捕まってしまった。
「ああ、松畑。急いで呼吸器科に行ってくれ。」
隆二の顔を見るなり、医局に行けと言ってきたのだ。
「え? ちょっと研究用サンプルの進捗具合を確認したいんですが……」
昨日、試験機に掛けておいた、サンプルの培養の進捗を確認したかった。
学会の発表で使用するサンプルだ。
綺麗に出来上がってないと、人の上げ足を取ることに命をかけている、うさるさい教授陣を説得できない。
それが成功しないと、研究所に戻れないので必死だ。
「患者が続々と詰めかけて来てるんだ、医者の手が足りない。」
大場は隆二の都合を聞く気はないようだった。
「いえ、もうすぐ疾病学会があってですね……」
隆二は患者に関わりあってる、暇は無いとばかりに抗議しようとしたが、話半ばで大場に遮られてしまった
「とにかく早く着替えて、応援に行ってくれ、じゃあ頼んだよ。」
大場は片手をあげ、隆二の話を一方的に無視して立ち去ってしまった。
「血……苦手なんだけどなあ……」
隆二はブツブツと、怨嗟を呟きながらロッカールームに向かった。
 ロッカールームに到着すると、そこには同僚の遠藤の姿があった。
「おはようございます。」
隆二が挨拶をすると、遠藤も気がついたようだ。
「おお、おはよう。」
ひどく眠そうにしている、恐らく仮眠の時間も無かったのだろう。
「当直勤務明けですか?」
 この医局勤めの勤務は32時間が基本だ、患者の継続的な治療のために必要とされている。
勿論、仮眠や食事時間も含まれているが、普段でも満足に時間が取れない。
「ああ、やっと家に帰って風呂に入れるよ。ところでさ……」
遠藤が声を潜めて、隆二に顔を近付けてきた。
「……ここの病院だけじゃなく、あちこちの医療機関で看護師や医師に感染者が出始めてるらしいよ。」
医学生時代の同僚が電話連絡してきたと言う。
「じゃあ、飛沫感染ですね。こんな簡易マスクじゃ役にたたないなあ……」
自分の安売りドラッグで購入した、一山いくらの簡易マスクを手に持って見つめた。
「……いや、そんなのんびりしたもんじゃない……発症すると出血して間違いなく死ぬそうだ。」
遠藤は自分の口に手を当ててひそひそと話す。
「え!? それはインフルエンザじゃなくて、出血熱じゃないですか??」
ウィルスを研究する隆二は、即座に可能性の高い出血熱を疑った。
出血熱なら法定伝染病だ、ちゃんとした防護服なしでは、患者に接触できない。
しかし、遠藤から帰ってきた答えは意外なものだった。
「抗体反応では、違うと判断されてる……でも、かなり凶悪なウィルスだ。」
自分の携帯電話をチェックしながら、遠藤は医局のミーティグで聞いた検査結果を言った。
「とにかく、お互いに気をつけよう」
そう言うと、着替えを済ませた遠藤は、足早に部屋を出て行った。
 部屋に一人取り残された隆二は、唖然として佇んでいた。


 その会議は首相官邸の地下で行われていた。
閣僚達を、円形テーブルに座らせて、内閣総理大臣の大泉純一郎は各担当者の報告を受けている。
 若い担当官は、薄暗い室内で、状況を示しているパネルの前で報告を行っている。
未感染なら白、地域内の人口に対する感染者の割合に応じて、オレンジから赤色に分けている。
 この病気の感染割合が示してあった
 大泉が尋ねる。
「状況はどうなのかね?」
若い担当官は額から流れる汗を拭いながら答える。
「芳しくありません。日を追う事に悪くなります。罹患した患者はおよそ一週間で発病し死に至ります。
現在治療する方法を模索している状態で、熱を下げる為に抗生物質を与える程度の事しかできません。
それに各地の病院は患者でいっぱいで、また病院関係者にいも罹患が広がりつつあります。
取り敢えず人の移動を禁止して、感染者を封じ込めこれ以上感染者を増やさないようにしないとなりません。」
 その若い担当官の発言に内閣官房長官の菅原は勢い込んで声を挙げた。
「戒厳令でも出せというのかね?」
菅原を宥めるように厚生労働大臣の大山は言った。
「最悪を想定しておくべきでしょう。今のところ後手に回っている。」
法務大臣の鳩川は嘆くように呟く。
「マスコミが何というか」
だがマスコミ嫌いで知られる防衛大臣の岩破は笑うように言う。
「僕らは別にマスコミの雇われているんじゃないよ、国民に選ばれたんじゃないのかね? マスコミ如きの御機嫌を伺う必要など無いね。」
そこで大泉は肝心な事を聞き出そうとした。
「厚生労働大臣……ワクチンの作成の進捗具合は?」
厚生労働大臣の大山は答える
「まずウィルスを特定しないと出来ません。それにワクチンの作成には半年以上かかります、今のままだと例えウィルスが特定出来ても間に合いません。」
大山は宿題をやって来るのを、忘れた小学生のように小さく答えた。
「あれだけ、大先生ばかり集めて何やってたんだ!?」
「厚生労働省の職務怠慢だろ、こんなの!」
「事前情報が入ってたんじゃないのかね!」
要するに何も出来ていないのだ、出席した閣僚達から非難が続出した。
喧々諤々の議論を制するかのように毅然と大泉は言った。
「よし! 決めた! 戒厳令を布告し、自衛隊に治安出動を命じる」
これにはタカ派で知られる経済産業大臣の宮川もびっくりして言った。
「災害……では無く、治安出動ですか?」
 災害出動と違って治安出動だと、自衛隊は武器を持って市街地に出ることになる。
国会が紛糾どころでは無い騒ぎになるのは目に見えている。
だが大山は泰然と答える。
「ああ、この病気を封じ込めないと制圧できない、人目を気にして取り返しのつかない事になったら本末転倒だよ。全ての誹謗はこの私が引き受けよう。」
だが、会議テーブルにグッと身を乗り出して言った。
「未曾有の国家的危機なんだから全員一致が必要だ。……逃げ得は許さないよ」
 ジロリと会議室にいる面々を見回した。
沈黙する会議室。
 結局、治安出動は時期尚早という事で、災害出動という事に決定し、各県の知事たちに要請を早く出すように促すことになった。
そして、まだ感染の無い地域を物理的に隔離する事、政府機能を海上に移す事を決定した。


 前原達也はまだ土を掘り返していた。
こういう単純作業は嫌いじゃない、何も考えずに無心になれるからだ。
やがて自分の腰程の深さに掘り進めた時、唐突に分隊集合がかかった。
”ん? 急だな災害でも起きたのか?”
 自衛隊の行動は事前に、分単位で決められている、予定外の行動はとても珍しい。
汗を拭いつつ分隊長の前田健一の処に駆け足で駆けつけると、
「災害出動の準備命令が予想されるので宿舎に戻ることになった、各員は急いで穴を埋め戻し帰舎する準備をするように、以上!」
自衛隊はいきなり出動がかかっても、すぐには動くことは出来ない。
何しろ人数が多い上、自己完結の組織であるので、実働部隊の他に色々な支援部隊の準備をしないといけないからだ。
そこで事前に出動準備が命令され、実際の出動がかかると直ぐに対応出来るようにするのだ。
 今度は某国で発生した感染症予防のため、警察の防疫作業を手伝うことになるらしい。
達也は今日一日かけて掘った穴の前にいき、スコップで穴を埋め戻しながら思った。
”……ニュースで言っていた奴かあ……感染しないといいなあ……母さん達は大丈夫だろうか?”
達也は帰舎した時に、自宅に電話を入れようと心に決めた。

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