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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第23話 群狼狩り

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第23話 群狼狩り

食糧を略奪された栗橋友康は、避難所に行こうとして、裏通りを歩いていた。
 役所の開設している所なら、食糧の配給があるかも知れないと思えた。
少なくても、先のアーケードの連中のような目には合わないだろう。
 そして、食糧を手に入れたのなら、籠城出来る場所を探そうと考えていた。
今、歩いている通りを抜ければ、自分が通っていた中学校に辿り着く。
 本当は表通りを行った方が早いのだが、表の大通りの路上には不死者たちが、あちらこちらと無目的に歩いているので、安全の為に一本裏側の通りにしたのだ。
しかし、裏通りと言っても、やはり不死者たちは彷徨いている。
 生活圏が違っているのか、表の通りには成人の男女が多く、裏通りには親子と思える者や、年寄りの不死者が多かった。
特に小さい不死者たちが多いのが困る。
いくら不死者と言えども、子どもを手に掛けるのには、多大な抵抗感があるのだ。
 そこで友康はスーパーなどの袋を、被せるようにしている。
これなら視線や嗅覚を遮る事が出来るし、噛みつき防止にもなる。
 なにより、その小さな頭をかち割らなくて済む。
さすがに目覚めが悪いのは、まっぴらゴメンだと友康は思っている。
 年寄りの不死者は、そもそも歯が無い事が多かったし、力も大して強くはない。
ラバーカップを被せて、転ばせておいて逃げるという方法を取っている。
 何しろ持っている武器が、ラバーカップと包丁なので、この程度しか出来ないのだ。
 路上には車やトラックが放置され、友康はその間を縫うように、こっそりと移動していた。
どうしても回避出来ないときには、民家の塀を伝ってゆき避けるようにしていた。
それで回避出来るのなら、塀の上を歩けばいいと思うが、そこはそれ友康である、運動神経を求めてはいけない。
 そして、広い道路に出ようかと言うとき、友康は大きめの工場の横に出た。
此処は、何処にでもある、ごく普通の電機部品工場だった。
 何故、解るのかと言うと、駐車場の入り口に看板が有るからだ。
 フェンスで囲まれた駐車場には、入り口が二つ設けられていたが、現在は入り口を塞ぐように、バリケード替わりの車が置かれていた。
このフェンスだが、平時であれば気にもしないが、改めて見ると少しの過重で簡単に、破れてしまいそうな奴だった。
 だが今のところ、バリケードの役割は果たしているらしく、駐車場の中に徘徊する不死者たちは見かけなかった。
そこで友康は、その工場の中に侵入する事にしたのだった。
 工場だったら、工員用の大きめの食堂が在るはずで、そこには多めの食糧などが、備蓄されていると踏んでいる。
何しろ、なけなしの缶詰めを、強奪されたばかりなので、手元に食料品が無いのだ。
 巧くすれば、食料品やその他が手に入るかもしれない。
 問題は、そのバリケードやフェンスに群がって、溢れている不死者たちだ。
呻き声を上げながら、ただ単調にバリケードやフェンスに両手を叩きつけている。
 フェンスを叩くと、バシャーンと大きい音を立ててしまい、その音で不死者たちが興奮するという、悪循環になっているらしい。
 そのバリケードに群がっていた、不死者たちにこっそりと近付き、後ろから漂白剤をかけた。
最初に掛けられた不死者は、何か呻きながら、通りの反対側に逃げていく。
 しかし、残った不死者が友康に気がつき、向かってきた。
漂白剤の残りを顔にかけると、彼らも呻きながら逃げていった。
 よほど漂白剤が苦手と見える。
しかし、漂白剤はもう残りが少ない、ここの食堂にある事を期待していた。
 そして、バリケード替わりの、自動車を踏み越えて、すんなりと工場に侵入出来た。
 最初、声をかけてみようかと考えたが、アーケードの事を思い出し踏みとどまった。
先ずは良く観察して、見極めないといけないのだと、学習した友康であった。
 工場の中は静まり返っている。
 人の気配など、まるで感じられない。
 時折、風に吹かれた何かが、僅かな摩擦音がするだけで、他は友康の息する音だけだった。
恐らく2度と稼働することの無いベルトコンベアーや、様々な部品を載せた代車などが、無人のまま佇んでいる。
 どこかに工場内の地図とか、食堂への案内表示とか、有りそうなもんだがな
 そんな工場の建物をのぞき込んでいると、目の端を何かが通り過ぎた。
”んっ?”
友康がそちらに顔を向けて見ると何も無い。
 広い工場の中の、誰もいない舗装道路が有るだけだ。
風に吹かれた紙ゴミが、舞い上がっているんだろう。
 そう考える事にしておいた、友康はオカルトなどの怖い話が苦手なのだ。
友康は他の建物を見ようと、視線を前に向けた時、今度は後ろを何かが、通り過ぎたように感じた。
”んんっ?”
 友康の警戒心はマックス状態になった。
 明らかに、こちらを威力偵察している風に、思えて来たのだ。
そう、これは狼などが行う、群れでの狩りを行う時のやり方だ。
対象となる獲物の注意力を分散させ、隙を伺っているのだ。
大自然物の映画で見た時に関心したのを覚えている。
”……不味いかもしれないな”
 友康はラバーカップを手に持ち、何も気がついていない風を装いながら、いま来た道を戻り始めようとしていた。
さっきまでは何も感じなかったが、今では悪意に満ちているように感じる。
 しかし、彼らは折角やってきた獲物を、逃がそうとはしなかった。
友康の進行を妨げるように、バラバラと黒い影が現れた。
 目の前に出て来たのは、数頭の大型犬たち。
 全部、やせ衰えてはいるが、その目に宿るのは、獲物をしとめようと言う決意だ。
この事変が始まってから、碌な餌にありついて居ないのが、手に取るように解る。
 なぜ、この工場が無人なのかの訳も、分かったような気がした。
武器も餌も持たない人間など、襲いやすい捕獲対象にしか過ぎない。
 友康は自分が餌の立場に有る事が解った。
”見た目のみならず、実力的においても確かに自分は弱い、でも、諦めの悪さなら、じじぃの小便にも負けねぇぞ!”
 そんな訳の分からない事を考えながら、首に巻いたタオルを外して、右手に巻き直した。
噛みつかれても、被害を少なくするためだ。
 左手にも巻き付けようと、ポケットから布を出した瞬間に、道に展開していた犬の一匹が襲いかかってきた。
友康は思わず、取り出した布を振り回した。
 すると偶然に、その長い鼻に被さってしまった。
犬は情けない声を出して、鼻にかかっている、布を外そうと前脚で掻いている。
 他の犬たちは、この人物の意外な強さに、戸惑っているらしく、すぐに襲っては来なかった。
そして、犬に被せた布をよく見ると、それは友康の昨日履いていた靴下だった。
”ああ、そりゃ心底すまんかった、酷く臭いわな……”
 敵ながら気の毒になったが、でも相手方が怯んでいる隙を見逃さない。
逃げるのなら今だろう。
 友康は、ラバーカップを構えたまま、工場の出口に向かった。
”トイレの掃除道具だとバレたら怒るだろうな”
 友康はそんな事を考えていたのだが、犬たちはラバーカップが、何なのか分からないらしく、警戒して向かってこない。
しかし、諦める訳でも無く、遠巻きにしてついて来る。
 友康も目を離す訳にもいかず、ラバーカップを持った手を、ゆっくりと威嚇するように揺らす。
工場と駐車場の境目に着いたとき、犬たちはピタリと止まった。
縄張りから出るのを躊躇しているのだろうか、しかしうなり声を上げて友康を睨んでいる。
 友康は目を離さないように、後ずさりながらラバーカップを犬たちに向けていた。
『ドスン』
 何かが背中がぶつかった。
”え?”
友康が後ろを振り向くと不死者が居た。
脆そうに見えていたフェンスは、やはり破れてしまったのだ。
「うがああああ!」
「うわぁぁぁぁ!」
お互いに顔を合わせて一緒に絶叫した。
 友康はビックリして思わずラバーカップで殴りつけたが、身体のバランスを崩してしまった。
 犬たちは、そのタイミングを見逃さない。
一斉に飛びかかってきた。
”……助けてくれるんじゃないよな”
 友康は直感的にそう思ったのだ。
 友康は転がって不死者たちの中に入り、急いで立ち上がって、不死者たちが入ってきたフェンスの裂け目に頭から飛び込んだ。
だがズボンの裾が引っかかってしまい、足が旨く抜けない。
 そこに近くに居た不死者が噛みついてくる。
咄嗟にラバーカップを、不死者の顔に被せて噛みつきを阻止したが、犬が隙をついて噛みついてきた。
”ああ、間に合わない!”
 だが、噛まれる寸前に犬は不死者に噛みつかれてた。
友康はその犬と不死者を、足で蹴って引き離した。
 噛みつかれた犬は悲鳴を挙げているが、夢中になった不死者は口を離さない。
他の犬たちも不死者たちに噛まれるか、不死者たちを噛むかしている。
友康はそんな不死者たちの間を、巧みに避けながら走り抜ける。
 不死者も犬も両方ともに興奮の余り混戦模様で友康を見落としているようだ。
 友康はそんな両者をほったらかしにして走って逃げ出した。
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