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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第22話 3点セットの掟

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第22話 3点セットの掟

 雨が降っていた、シオシオといった感じの弱々しい雨だ。
前原達也は支給された雨合羽を羽織って、軽装甲車に乗り警戒任務に付いていた。
 前回の戦闘で橋の周辺の不死者は掃討したが、まだ多数の不死者がうごめいているとの、偵察機からの報告で警戒の手を緩める事が出来ないでいる。
 府前基地では、この防衛線を守るために、新しい爆弾を作成して、配置している最中だ。
ガソリンに工業用アルコールを混ぜて、その燃料の中でC4爆薬と粉末状アルミニウムを起爆させる。
粉末状アルミニウムは、テルミット爆薬(燃焼させると三千度にもなる)にも使用される、超高温で燃焼する材料だ。
密閉化した容器の中で、中の燃料は沸騰させられ、ある程度の圧力なったタイミングで、容器の圧力弁を開かれると、中の燃料は霧状になって周りの空間に広がる。
空中に散布された燃料に火をつけると、強烈な爆圧を生み出す事が出来る。
 軍事関係者での正式名称はサーモバリック爆弾、日本では燃料気化爆弾の通称で呼ばれている。
通常の爆薬は中に入っている火薬で、破片を撒き散らせて対象を粉砕するが、この爆弾は引火した燃料が生み出す圧力で粉砕する。
 その強烈な爆圧で不死者たちを、まとめて潰してしまおうという作戦だ。
 こうでもしないと、無限に湧き出て来る不死者相手だと、基地にある備蓄の弾薬が枯渇してしまうからだ。
すでに幾つかの基地とも、連絡が取れなくなり、弾薬の補給が望めないので、倹約しなければならない。
 どんな状況になろうと、弾不足に悩まされるのは、自衛隊のもって生まれたサガなのだろう。
作成された燃料気化爆弾は、ドラム缶を再利用して作成されたらしく、全体的にずんぐりとしている。
 見てくれが不格好だろうと、機能すれば問題無しという意思が見て取れて、その姿に達也は頼もしく思った。
燃料を撒いて火をつけてしまえとの意見もあったが、鎮火させる人手が無いので却下されていた。

「まったくもって厄介な不死者どもだ」
 達也はそう呟いて、こめかみをさすった。
先ほどまで振っていた小雨は上がり、不愉快な湿度だけを残していった。
低い陰鬱な雲と、いつまでも止む事の無い緊張感が、達也をいっそういらだたせていた。
 文明の破片じみて横転しているトラックや、燃えカスのような自動車の間を抜けて、一台のトラックがやってくる。
 都市部に僅かに残った生存者を探しに行った威力偵察部隊だ。
『不死者に追われている!』
との無線連絡があり、基地に向かっていたのだ。
全力をだしているのであろう、濛々とした土ぼこりを上げながらやってくる。
 その後ろから廃墟ビル地帯を抜けて広めの道路に、やっかいな不死者が次々とやってきていた。
多数の生存者を乗せている都合上、どうしても不死者を引き付けてしまう。
生存者の救助が主任務なので、降りて戦闘を行う事も出来ない。
彼らを戦闘に巻き込むわけにはいかないからだ。
仕方の無いことであろう。
 今回は攻撃ヘリの支援は望めない、朝霧の基地が不死者に囲まれてしまっているために、そちらへの応援に借り出されているのだ。
なけなしの航空兵力は、より効果的に制圧できる場所で、使用しようとの合意が基地同士で取られている。
 上部組織が壊滅状態なので、横の繋がりで指揮を保っているのに過ぎない。
国会は不死者になだれ込まれた所まではテレビ中継されていたが、その後の続報が無い所を見ると壊滅したのであろう。
 そこでサーモバリック爆弾を使ってみましょうという話になっている。
ビルとビルの間に鉄入りのロープを渡し、そこに爆弾をぶら下げ、起爆は整備担当官が目視で行うのだ。
 偵察隊の車両が通り過ぎると、その巻き上げた土ぼこりの中から、ふらふらと不死者の群れが現れた。
まだ、距離があるので小銃は構えたままだ。
なるべく銃弾ではなく、槍や斧で処理をするようにしている、これも弾薬の節約のためだ。
だが、今回はサーモバリック爆弾を使うので、その威力を観察することになっている。
 担当官の話では”戦術核なみの威力がありますよ”との事だが、生憎と通常爆弾の威力すら判らないので、比較しようが無かった。
「CB弾(サーモバリック爆弾)を起爆させます、万が一があるといけないので関係者以外は、バリケードの影に隠れるなりしてください」
 整備担当官が拡声器を使って、バリケードに取り付いている自衛官・警察官らに注意を促す。
だが達也は監視の任務があるので、車両内に隠れるわけに行かない。
「5、4、3、……」
整備担当官がカウントダウンをおこなっている、彼が起爆スイッチを押すのだ。
 一瞬、達也は宮前橋の爆破を思い出した。
”そういえば、あの爆破処理でエライ目にあったな……”
カウントダウンを聞きながら、そんなことを思い出していると、いよいよ起爆の時間になった。
「……2、よぉーい、てぇっ!」
今度はちゃんと起爆したようだった。

”どぉぉぉぉぉん!”

 ドラム缶……じゃなくて、爆弾は一瞬光ったかと思ったが、それが煙状のモノに包まれたのもつかの間、一帯が禍々しい炎へと変換された。
そして強烈な力は白い壁となったように、ショックウェーブ形成して放射状に広がっていった。
その広がってゆく爆風は、僅かに輪郭を保っていた構造物を、なぎ倒しながら完全なガレキへと変えてゆく。
 ふらふらと頼りなげに歩いていた、不死者たちは一瞬のうちに地面に叩き付けられるか、木の葉のように舞い上がっていった。
 その力は周りの空気を巻き込み、やがて毒々しいキノコ状の雲へと変貌し、空へとかけ登っていく。
 素人目には戦術核爆弾の爆発と、見間違えてしまうかもしれない。

 だが、威力がでか過ぎた。

 バリケードまで吹き飛んでしまったのだ。
強烈な爆風がバリケードを襲ってきて、車も土嚢も人も一緒に吹き飛ばされた。
「ぶうぉわああああぁぁぁ」
 軽装甲車の上で監視についていた達也は、車両と一緒に吹き飛ばされて、また川の中に落ちてしまった。
 バリケードに隠れていた、自衛官・警察官らも一緒になって飛ばされてゆく。
「あ゛っ……」
 是政橋の基地寄りに陣取っていた、爆弾を開発した整備担当官たちは、全員『やっちまった』顔になっている。
 ここまで威力がすごいとは思ってもいなかったらしい。
試験する暇が無く、ぶっつけ本番で起爆させたのだから仕方が無いとは言え、橋向こうの数ブロックを吹き飛ばしたのだ。
もちろん不死者たちも吹き飛んだ、というか文字通り消滅した。
 とりあえず、爆発して結果を出したのだから大したものだ。
 雑多なゴミやら木材やら小石やらが川に降り注いでいた。
「……ぷはっ!」
 そんな中、達也は川面に浮き上がってきた。
「……橋、爆弾、川の3点セットは俺の鬼門なのか?」
 川に浮きながら、ショックでくらくらする頭を振りながらブツブツ言っている。
「……俺、水泳が嫌いになりそうだ」
 今度は間違えないように、味方のいる川岸へと泳いでいった。

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