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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第24話 抗不死者薬

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第24話 抗不死者薬

 松畑隆二と柴田医師は抗不死者薬作りの為、薬品の調合に没頭している。
というか周りを気にする余裕が無いのだ。
 暇な時間に監視モニターを見ていた木村和彦。
だが、モニターで見る外の様子に違和感を覚えた。
「ちょっと、これ見てもらえませんか?」
 研究棟の敷地内に対して、侵入を図ろうとする犬を発見して、隆二たちを呼び寄せる。
「普通に犬ですよね? それが何か?」
 柴田が”それがどうしたのだ?”と言いたそうに木村に尋ねた。
「いえ、何か変なんですよ」
 何頭かの犬は、放置されている死体を食べているのだ。
普通ならとんでもない事なのだが、日常が崩壊している現在では、どうという事はない。
止めさせようにも、外に出るのは危険過ぎるからだ。
「たぶん、餌が不足しているせいでしょう、飼い主も見かけ無いという事は、飼い主も不死者はなったか、犬を置いて逃げ出したかしたんですよ」
 モニターに写る犬は何頭かいて、お互いに警戒しあいながら、倒れている死体を食べている。
食べている最中も不死者が近付くと、威嚇するように刃を剥き出していた。
もはや犬たちにとって、人は良き友ではなくなっているらしい。
「彼らも生き残りたいでしょうから、仕方の無い事ですよ」
 柴田はサンプルの合成に水を差されたので、急に眠気が襲ってきたようだ。
盛んに欠伸をしながら、椅子に保たれたまま背伸びをしている。
 木村はそうなのかなと思ったが、やはりモニターから違和感を感じていた。
その犬の横を不死者たちは、関心なさそうに歩いているのだ。
「……人間にしか興味を持たないみたいですね」
柴田に替わってモニターを覗き込んだ隆二は、木村の感じていた僅かな疑問に応えた。
「ああ、違和感はそれだったのか……」
隆二の関心はそこでは無く、そばを通り過ぎている不死者にあった。
 隆二は、”なぜ人間だけを識別まで出来るのか?”そのことに興味を持った。
「見た目なのか匂いかな、人間独自のホルモンの匂いかもしれないね」
そう隆二が呟くと、柴田は自分の白衣の匂いを嗅いでいる。
着替えていないので当然のように臭い。
「彼らの目は白濁してますから、匂いの可能性が強いですね」
柴田は匂いを嗅ぐ行為に勢いに付いてしまったのか、自分の靴の匂いを嗅いで顔をしかめながら言った。
 やがて遺体には犬の他にカラスもやってきて、ついばみ始めるようになった。
「うぇ……」
眉をひそめた木村は、監視モニターを他の場所に切り替えた。

「今度は旨く行きそうですね」
 隆二は試験サンプルをトレーに載せて、電子顕微鏡での撮影準備をしている。
抗不死者薬が機能しているのなら、コドクウィルスが壊れている筈だ。
 じっとパソコンのモニターを、見つめる隆二たち
するとぐちゃぐちゃに崩れた、コドクウィルスが表れた。
「……よしっ!」
隆二が珍しくガッツポーズをした。
「これで抗不死者薬が出来上がりだ」
柴田が満面の笑みをたたえて同じくガッツポーズをした。
 研究棟にいた生存者全員が歓喜した。
柴田が冨田とハグしようとしたが、華麗にスルーされてしょげてしまっている。
子供たちも訳も解らずにハイタッチに応じて喜んでくれている。
 しかし、問題があった。
本当に有効なのか確かめる方法が無いのだ。
 普通の臨床では動物を使うのだが、ここには居ないし不死者は人間以外に興味を示さない。
「……実験動物はこの棟にいなかったんでしたっけ?」
隆二は実験動物を使うことはあまり無い。
せいぜいマウスを使って症例を確認する時ぐらいだ。
「……居たとしても、騒動から結構日数が立っているから生きてるとは思えないですよ、誰も世話してないでしょうからね」
柴田は外科医なので、人間相手に切った貼ったしかやらない、実験動物がいるかどうかは普段気にしていない。
隆二はどうしようかと柴田と相談していると『自分がやりますよ』事も無げに木村が接種を受けると言い出した。
「だって、この中で可能なのは俺だけですよ?」
 確かに薬の改良と増産の為には隆二と柴田は対象外だし、看護婦の冨田と宮沢は医療関係者なので今後も必要だ。
子供たちは最初から対象外で、鈴木は子供たちの面倒を見るのに必要……
余ってるのは自分だけではないかと木村は言った。
「確実に効くという事が、保証できないんですよ」
 隆二は被験を行ってない危険性を説明した、最初の被験者は自分が成るつもりだったのだ。
「でも、誰かがやらなければダメですよね? それに、この薬の事を関係機関に連絡を入れないとならないでしょう」
木村は、家族の安否を確認したいとの理由を言った、万が一の事があるのなら後始末に行きたいのだと。
 そして、政府機関がまだどこかにあれば、この事を知らせたいとも言った。
自分一人なら不死者の間を、突破して行く自信はあるのだとも言った。
 元々、木村は警察出身の格闘家で、試合で痛めた箇所のシップ薬を取りに来ただけで、この騒動に巻き込まれたのだ。
「判りました、それでは注射の用意を……宮沢さんお願いします。」
注射器の用意を宮沢に頼んだ、隆二は医者だが注射が下手なのだ。
「鈴木さん。子供たちは別室に連れて行ってくださいね」
 もし、薬が効かない時には、木村が不死者化する可能性がある。
その時には木村を始末しなければならない、そんな行為を子供たちには見せたくなかった。
それで鈴木に別室に連れて行ってもらったのだ。
 やがて注射の用意が出来て、隆二は更に木村に最後の確認を取った。
「……いいですね?」
木村はニッコリと微笑んで返答した。
「ちゃっちゃといきましょうよ、ヤツラみたいになったら、躊躇しないで始末してくださいね?」
柴田が斧を構えて、ニッコリと笑いながら言った。
「大丈夫、僕。 上手ですから」
冨田と宮沢がげんなりした表情でお互いに見合った。
 そして、木村の腕に注射の抗不死者薬が静かに注入されていく。
……しばし、沈黙する一同であった。
注射針を木村の腕から抜いて1分経ち、それが5分経った頃に隆二が木村の顔を覗き込んだ。
「気分はどうですか?」
木村の様子を観察し、腕を取って脈拍を図ってみる。
 そして木村の目に白濁の様子は無い、心拍も普段通り変化がない事を確認した。
「何ともなさそうです……隣の研究室の不死者で試してみますか?」
 木村は念のを入れるために提案した、どちらにしてもやらなければならない事だ。
本当に不死者に噛まれても大丈夫なのかを、実際に実験してみない事には話にならない。
隆二や柴田の性格を考えると、言い出しにくそうだから木村から提案したのだ。
「……はい、お願いします」
 隆二は自分の考えが見透かされていたのを感じていた。
 もちろん、対不死者でのテストは、実際に噛ませてみるのだ。
薬が失敗していれば”死”だけでなく、不死者になってしまうリスクがある。
それを非常になってでも頼めない所に、学者としての隆二の弱さがあった。
 一同は隣の研究室に移動した。
ここにはサンプルを採取する為に捕獲した不死者を拘禁してある。
中に入ると木村はシャツの右手の袖を捲りあげた。
「いえ、そちらではなく左手でお願いします、利き腕が使えなくなると困りますからね」
隆二は足と腕を体に固定するためにロープを持ちながら木村に言った。
「ああ、そういえばそうですね」
木村はテレ笑いしながら左手の袖を捲りあげた。
足と右手を体に密着するように縛り、左手だけを自由にしておいた。
 不死者の拘禁室に縛られたまま転がしてある。
隆二に体を支えてもらって、木村はその不死者の口に腕だけを当てがってみた。
「がぁああああ!」
不死者は唸り声を上げながら木村の腕に噛みついた。
「うっ!」
腕からは血があふれ始めてる、苦痛に木村は顔をしかめた。
深く噛まないように、木片を入れているのだが、それでも噛み千切りそうな勢いだった。
木片がバキバキと音を立ててる、そして木片に邪魔をされた歯が音を立てて折れ始めた。
「い、今、引きはがすから……」
 隆二と柴田で不死者の口を無理やりこじ開け、噛まれていた木村の腕を解放した。
口を無理やりこじ開けたので、不死者の歯がほとんど折れてしまったし、顎も外れてしまったようだ。
「肉が千切れた様子は無いですね、ちょっと強く押さえていてください」
 隆二が傷口を見た後に止血用の布をあてがい、富田が包帯と消毒薬を持ってきて治療の準備を始めた。
消毒薬はウィルスには効かないが、雑菌の感染を防ぐためである。
 何しろ不死者の口は汚い、見た目だけでなく異臭がするほど臭いのだ。
人間の口臭は、唾液が潤滑に流れる事によって防げるのだが、不死者の場合は唾液が円滑には流れないので口臭が酷くなるのだ。
 木村は黙って床に座って居る、そこを冨田が腕に包帯を巻いてやっている。
 柴田は斧を頭上に構えて、いつでも対処できるように待機していた。
 宮沢は顔を伏せている、緊張に耐えられず泣いているようだ。
 そして隆二は腕時計と木村の顔を交互に見ながら、木村の脈拍を図っていた。
隆二の今までの観察だと、最初の変化が現れるのなら1分後だ。
突然苦しみだして、全身がけいれんを起こした後に不死者となるのだ。
……1分経った、しかし木村の様子に変化は現れない。
「成功したと考えられます、このまま15分経過を観察させてください」
隆二は大丈夫だと確信しているが、念の為に観察を長くすることにした。
「……ええ、構いません。 これでヤツラに噛みつかれても平気ですね」
 木村がニヤリと笑いながら返事した。
 隆二は歯が折れてしまった不死者に抗不死者薬を注射してみた、不死者にどの程度有効なのか知りたかったのだ。
不死者は注射してから、暫く痙攣した後に静かになった。
 隆二は不死者に2度目の死を与える事が出来たのだ。
「反応が何もありません、活動停止状態になりましたね」
柴田が不死者の体を斧で突きながら言った。
 隆二としては人間に戻る事を期待していたが、一度死んでいるので無理なようだった。
「これで不死者たちに直接打ち込めば、何とか彼らを駆除出来る事が判りましたね」
 だが、不死者たちには致命的な薬のなのは解ったので、何らかの方法で不死者に施術出来れば殲滅が可能であろう。
不死者たちは呼吸などはしないので、ガス化して振り撒く方法は使えないが、液化して氷結させ打ち込む方法も使える。
 今のように物理的に破壊するのでは、手間がかかってしまってしょうがない。
 その辺の事は武器を作成する人たちが、考えてくれるのを期待しよう。
隆二にできる事は、この薬の量産体制を整える事だ。
「じゃあ、もっと薬を沢山作る方法を考えましょうか」
隆二と柴田は薬の増産方法について話を始めた。

 翌日、血が止まっただけの木村は、柴田愛用の斧を譲り受けて、自宅に向かって出発して行った。

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