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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第14話 最後の友情

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第14話 最後の友情

 国民が不死者たちと、死闘を繰り広げていた時、この国の国会議員たちは、臨時国会で不死者の扱いで揉めていた。
「不死者たちも国民の一部だ、例え死んでいても権利を認めるべきだ!」
 なんと、不死者を保護しろと言うのだ。
治るかどうか判らないのなら、判るまで保護して監督下に置くべきとの理屈なのだ。
一見すると最もらしいが、誰が保護して、どこに保護し、いつまで保護するのかの話が、どこにもない。
 恐らく天下り先を、確保するチャンス到来とでも考えたのだろう。
「治安出動は軍国化の始まりだ!」
 今は済し崩し的に、自衛隊が銃器を使って、 不死者を制圧しているのが、気に入らないらしい。
自衛隊を自分たちのコントロール下に置きたい警察官僚の入れ知恵だろうか。
 まず、不死者を制圧し、国民の保護を優先すべきなのだが、この国の官僚は、自分たちの既得権益保護が、余程大事なのだ。
「発砲する時には、事前に裁判所の許可と、警察との打ち合わせをするべきだ」
現場でそんな悠長な事は、やってられない。
躊躇すると、命の危険に晒されるのは、現場の人間だ。
 官僚という生き物は、なぜか自分が一般人よりも偉いと勘違いしている。
自分の断りなく動かれるのを嫌う性質があるらしい。
「ここは国民の信を問うべきだ!」
 野党はこれをダシにして解散総選挙を迫ろうとしていた。
今なら与党に対しる不信感は絶頂のはず、自分たちに有利だと考えたのだろう。
国民の安全より党利党略の方が優先らしい。
 的外れな議論ばかりで、国会の論争は紛糾して、必要な事を決められることが出来なくなった。
 そして、時間だけが虚しく過ぎていく。


 栗橋友康は、隣家の屋根の上で、頭を抱えて嘆いていた。
「……ぅあああああ」
 のそりと屋根の上に、力無く立ち上がって、荷物が消えていった地上を、眺めながら考え込んでいた。
 地上の不死者たちは、友康の荷物を、踏みつけながら、うごめいている。
下に降りて、荷物を回収するには、自分だけでは不可能だ。
10人以上いる不死者をやっつけるには、格闘技のセンスが無い友康には無理な注文だ。
”そういえば……”
 この家には自分と同い年の、幼なじみがいるはず。
気にしてなかったが、無事何だろうか?
親同士は交流があったが、本人同士は高校を卒業して以来、顔を合わせる機会が無かった。
 何しろ幼なじみは、スポーツも勉強も出来るし、友人も多数いたらしい。
大学を出て、ちゃんと社会人をしている。
 自宅警備の友康とは、真逆のリア充な人生を送っていると、母親から小言交じりに聞いていた。
”そんな事言っても、しょうがないじゃん。俊彰と違って、俺は何事にも要領悪いし……”
母親の小言が始まったら、不貞腐れて俯いて黙るしか無かった日々を思い出した。
 取り敢えず、様子を見てみようかと、家の中に入ることにした。
友康は隣家の屋根から、ベランダに降り立ち、部屋の中の様子を、窓越しに窺って見た。
 最初は薄暗くて、良く判らなかったが、奥の方に誰かが居る。
 友康は窓をコンコンと叩き、幼なじみの名前を呼んで見た。
「俊彰?」
 そして、奥の方に居た誰かは、此方に気がつき、近付いてきた。
しかし、それは目が白濁し、口から涎を垂らしながら、全速力でやってくる。
「ああ、やっぱりお前も、やられていたのか……」
 そこには変わり果てて、不死者となってしまった、幼なじみの俊彰だった。
幼なじみの不死者は、こちらに向かって、一直線にやってくる。
唸り声を上げているので、懐かしがっている訳で無いのは明らかだ。
 その不死者は、勢いが付きすぎたのか、窓のガラスを突き破って、友康に迫ってくる。
その迫力に、一瞬たじろいでしまった。
 友康はラバーカップを振りかぶって、ラバー部分を顔に密着させた。
 こうすると、噛まれないのは学習済みだ。
そのまま横殴りに振りまわして、幼なじみをベランダから、家の外に放り出した。
 体格差から戦うのには、ちょっと無理があったが、不死者が勢いよく、向かってきたのが幸いしたようだ。
 本当なら、幼なじみに留めを、刺してやるところなのだろうが、友康にそんな覚悟が在るわけが無い。
 誰もがそう簡単には、ヒーローになれない、映画や漫画とは違うのだ。
”もう、まともに生きている人間は、居ないのではないか?”
 友康は少し悲しい気持ちになり、逡巡していたが、取り敢えず家捜しする事にした。
何しろ、生存に必要な、荷物は落としてしまったので、今日食べる物すら無い。
 硝子の割れた窓から室内に入ると、かなり激しく争った跡が、そこかしこに見受けられる。
穴の開いた壁や、血と思われる跡が続く廊下を、進み家の中を調べた。
 2階の別の部屋には妹と見られる遺体、 1階の和室には両親と見られる遺体が有った。
何れも頭を割られている、きっと幼なじみがトドメを刺したのだろう。
”そうか、お前は家族は送ってやれたんだね。お前は偉かったんだね”
 それぞれの遺体に、手を合わせながら、友康は思った。
家族は送ってやれたが、自分のトドメを刺してくれる者が居なかったので、幼なじみはとうとう不死者になってしまったのであろう。
 友康は、彼の胸の内を考えた時に、無性に悲しくなり、目から泪が溢れ出てきた。
自分もいつか決断を、迫られるのだろう。
 果たして、自分にそれだけの覚悟を、決める事が出来るのだろうか。
友康には解らなかった、自分で考えて、自分で決断する事が、無かったからだ。
いつも、他人の後に付いて、回っていることが多かったし、大概の事は親が決めていた。
 その結果、楽な方ばかり選ぶ、優柔不断な自分が居る。
”何だか、情け無いな……”
友康は溜め息混じりに呟いた。
 気を取り直して、隣家の中の食糧を探してみたが意外と少ない。
と言うか、見事に何もない。
 そう言えば普段は、外食が多いと言ってた事を、友康は思い出した。
冷蔵庫の中はガラガラで、戸棚の中に酒のおつまみセットぐらいしかなかった。
 そのおつまみセットも、腐って乾いていた。
高級そうな酒は有ったが、友康は酒を嗜まない、一口で悪酔いして戻してしまう。
 牛乳もあったので、手にとって匂いを嗅いで見ると、やはり腐臭がする。
乾麺のパスタや蕎麦は有ったが、お湯を沸かす手段が無い。
小麦粉が有ったが、どうしたら食えるようになるのか、手順が全く判らない。
「うへぇ、参ったな……」
友康は、溜息交じり首を振って呟いた。
”仕方ない、少し歩いた所に有る、スーパーに行くか……”
 台所の棚にあった砂糖を、砂糖入れから舐めながら、次に移動する場所を考え始めた。
 ここは自分の家と違い、勝手が解らない、どこに何があるのか不明だ。
武器を工作する為の、工具が欲しいと考えていたのだ。
 手に持っているラバーカップだけでは、この先を考えると心許なさすぎる。
 家の中を見て回っている時に、厚手のコートがあったので、噛まれるのを防止する為に着用した。
これなら噛みつかれても、容易く食い千切られないだろう。
ヤツらは第一に首を、それが駄目だったら手足に噛みついているのを、自宅から観察していた。
 それと、台所にゴム手袋があったので、有難く使わせていただくことにする。
ラバーカップの滑べり防止用だ、手が汗をかいて、いざという時に落とさないようにする為だ。
手足には、ガムテープを巻いてある、これで多少噛まれても平気だろう。
 目に付いた物は手に入れた、もっと時間をかけて家探しすれば、収穫はあるのだろうが、小心者の友康には無理だった。
”土足でウロつくのは、ちょっと……”
知り合いの家というだけで気が引けてしまう。
取り敢えず移動の準備は整った、パッと見は不審な浮浪者だが、何も対策しないよりはマシだろう。
 だが1つ問題がある。
今現在、この家は不死者たちに、ぐるりと囲まれているのだ。
”どうやって、この家から逃げようか……”
しかも脱出用の、武器も道具も無い。
”そうだ……”
友康は、幼なじみには、年の離れた小学生の妹が、居たことを思い出した。
”もう可愛くて仕方ないですね、メロメロですよ”と幼なじみは照れて語っていたのを思い出す。
 そして、小学生なら必ず持っている物。
防犯ブザーだ。
 あの大音量で、奴らの気を逸らしてしまえば良い。
友康は幼なじみの妹の部屋に向かい、その学習机に掛けられていたランドセルから、黄色い防犯ブザーを外して、手にもって玄関に戻る。
 そして玄関の上にある、明かり取りの小窓を、玄関にあった花瓶で壊すと、防犯ブザーのスイッチを入れて、小窓から外に放り投げた。
ビーっと、大きな音で鳴り出す防犯ブザー。
 家の裏にいた不死者たちも、玄関前に向かい始めるのが解った。
覚束ない足どりで、庭を通って行くのが、カーテン越しに見えている。
 友康は、家の奥の台所の窓から、そっと抜け出し、 塀を乗り越えようと、塀に手をかけた。

その時。

 不死者となった幼なじみが、此方に向かって、歩いて来ているのに気がついた。
かつては最愛の家族だった不死者を、始末する時にどんな思いだったのだろうか。
 呻き声を上げながら、近付いてくる幼なじみを見たとき、友康は決断した。
自分の家族を、ちゃんと後始末した幼なじみに敬意を祓う為、最期に奴を送ってやろう。
 そう決めた友康は、庭の隅側にあった、園芸用スコップを手に持った。
”そういえば、第一次大戦では、敵を一番殺したのは、ライフルじゃなくて、スコップの方が多いんだっけか……”
すでに、不死者と化した幼なじみは、友康に向かって来ている。
目の前まで来た時に、幼なじみは大きく口を開けて、友康に噛みついてきた。
 友康は、園芸用スコップを目の高さに構え、不死者に全力で一気に突き立てた。
だが、顔をかすっただけだ。
顔の皮膚が削がれて、骨が剥きだしになった。
 友康は肩で不死者を壁に押し付け、自分の体を回転させて、勢いを付けてスコップを足に打ち降ろした。
”ボキッ”
鈍い音がする。
 足が折れて不死者は、その場に崩れ落ちた。
横倒しになった、不死者は尚も手を伸ばし、友康に襲い掛かって来ようとする。
「……うぐっ」
 友康は、吐き出しそうになるのを堪えて、スコップを振りかぶって、一気に打ち下ろす。
園芸用スコップは、幼なじみの口を貫通し、その延髄を切断した。
 こうして幼なじみは、2度目の死を迎えた。
「うげぇぇぇぇ」
 友康は堪え切れずに、胃の中の物を吐き出した。
前日から対して食べてないので、出てきたのは消化液ぐらいだった。
 友康は肩で息をして、かつて幼なじみだったモノを見ていた。
 やがて、幼なじみに両手を合わせて、塀を乗り越えスーパーを目指したのだった。





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