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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第13話 勇気を称えよ

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第13話 勇気を称えよ

 前原達也は、道の真ん中あたりを歩いていた。
 橋を爆破した時に、爆風で川の中に吹き飛ばされてしまい、必死に川岸までお泳いだのだ。
だが、間の悪いことに、気がついたら反対の川岸だったのだ。
「ありゃ……こっちじゃないや、参ったな……」
 もう一度、水に入って向こう岸を目指そうかと思ったが、川は先日降った雨の影響で、増水していて、再び泳ぐのは困難に思えた。
渡るべき橋を自らの手で爆破したし、それに橋の袂には多数の不死者たちがいる。
「仕方ない、迂回して自力で辿り着くか」
 達也は、上流にある是政大橋を目指す事にした。
車の影に隠れたり、アパートの垣根に隠れたりして、巧みに不死者と出会うのを避けている。
 途中、大きな豪邸の庭先を横切ろうとした時、ふと車庫が気になった。
車庫に有った高級車が、銃で撃たれたように、穴だらけだったのだ。
注意して周りを見ると、塀や家の壁にも弾痕がある。
 この家で銃器を持った人間が、闘って居たようだ。
声を掛けようか迷っていると、家の中からゴトリと音がした。
 壊れた窓から、そっと中を覗くと、1人の不死者が身体を前後に揺らせていた。
肩からは猟銃がぶら下がっている、きっと生前に使っていたのであろう。
例え猟銃があっても、数で来られたら保ちこたえられない。
 その不死者の周りに、頭を撃ち抜かれた残骸が散らばっているのが、その証拠だろう。
ついに弾の補給が間に合わなくて、彼は不死者に襲われてしまったとのだと、達也は考えた。
”猟銃を確保しておくか……”
 達也はそっと邸内に入り、薪ストーブに立て掛けてあった斧を手にした。
「頑張ったな……今、楽にしてやるぞ」
そして、最後まで諦める事無く、闘った勇者に敬意を払って、斧を頭に振り下ろした。
 かつての勇者は部屋の中に崩れ落ち、今度こそ平穏な眠りを手に入れた。
「……お疲れさま」
達也は勇者に敬礼し、その勇気を称えた。
 改めて室内を見回すと、部屋の中には猟銃が3丁と、弾が50発ほど有った。
猟銃を全部持って行けば、取り敢えず6発は連射出来る。
 達也はそう考えて、銃を肩に掛けながら、部屋に落ちていたトートバックに、弾や詰め込んだ。
少し家の中を、探し回って菓子・キッチンタイマー・ライターなどを詰め、豪邸を後にした。
 食料が無かったのが残念だ、昨日から何も食べて無い。
腹を空かせている上に、3丁の猟銃と斧はズシリと来る。
 普段使っている、89式小銃のような、連射は出来ないが、丸腰で居るよりマシだ。
 豪邸を後にして、再び通りを恐る恐る歩いていると、雑居ビルの一つに目が止まった。
 見上げると、2階から誰かが、白い布を振っている。
達也は手を振り返えし、そのビルに入って行った。
 そこには10人位の老若男女がいた。
「自衛隊だ! 助かった!」
人々は口々に言い合って、お互いの肩を叩き合うなどして歓喜していた。
今までの彼らの不安が手に取るように判る。
「あ、すいません、自分一人です……」
達也は申し訳無さそうに告げた。
「……」
 その言葉の意味する事に、気がつき全員の顔から表情が消えた。
やがてがっくりと肩を落として、落胆の表情へと変わって行った。
 達也は焦ってしまった、自分の登場でこんなにも、ガッカリされるとは、思っていなかったのだ。
「いえいえ皆さん、この先にある是政大橋を渡って、基地まで辿り着ければ安全ですよ」
慌てて言い訳を取り繕うように説明する達也。
「そ、そうですよ。皆さん、あと少し頑張りましょう」
リーダーらしき老人が、全員に向かって声を掛けている。
「失礼しました、私は園田と申します」
老人は達也に向かってぺこりと頭を下げた。
「自分は前田宏です」
警官が敬礼する。
「僕は鏑木幸男です、大学生です」
手にしたボウガンを掲げながら挨拶する。
「私達は清水です」
 御主人らしき人物が頭を下げた。
清水家は5人いる、両親と中学生の女の子と小学生位の男の子2人だ。
「……ところで、その銃はどちらで?」
前田が不思議そうに訊ねてきた、そりゃそうだろう。
 自衛隊が正規に使う小銃では無い事は一目瞭然だからだ。
そこで達也は、さっきの邸宅で見た光景を、皆に話した。
「……それは田中さんですね。そうですか、彼は最期まで諦めなかったんですね」
聞けば、ここに移動して来るまで、田中家に逗留していたそうだ。
 食糧も無くなって来たので、移動しようとした矢先に、不死者たちに襲われ、自分が時間稼ぎをするからと、田中氏は残ったらしい。
 時間稼ぎは出来たが、彼は脱出が適わなかったのだろう。
「……田中のおじさんはどうなったの?」
小学生の男の子が訪ねて来た。
「ちゃんと、静かに眠れるようにして挙げたよ」
達也は小学生相手に”頭をかち割った”とは、説明できないので優しい言い回しを使った。
「……そうなんですか……ありがとうございます」
大人たちは、達也の言葉の意味を汲み取り、みな口々に礼を述べた。
 全員がしんみりとしてしまった。
 達也は話題を変えようかと、園田に聞いてみた。
「ところで園田さん、猟銃の使い方は解りますか?」
達也は自分の猟銃を指差しながら聞いた。
「え、知らないのですか?」
園田はびっくりしたかのように訊ねる。
 自衛隊と見ると、映画やテレビの屈強な特殊部隊を、イメージしているらしく、全ての銃器の扱いにも長けている、と勘違いしているようだった。
「自衛隊の官給品なら、毎日訓練で使っているので判るんですが、猟銃は触った事が無いんですよ」
達也は苦笑しながらも、素直に答えた。
「そうですよね、ちょっと貸してください」
園田は達也から、猟銃を受け取ると、説明を始めた。
「お持ちになったのは、上下2連銃と水平2連銃、それにポンプ式ですね、2連銃はここのスイッチを押すと、折れますから、弾を込めて元に戻してください」
園田は実際に操作して見せた。
「ポンプ式はポンプを手前に引いて、此処から弾を込めるんです、薬室に1発、リロード部に2発、合計3発入ります」
園田はこちらの猟銃も手慣れたように操作する。
「ほう、随分と詳しいんですね」
達也は関心したように、園田に告げる。
「田中さんに、狩猟の趣味を教えたのは、僕なんですよ」
園田はニコニコしながら答える、褒めてもらったのが、嬉しかったのだろう。
そこで達也は提案した。
「それではポンプ式は園田さんが持っていて下さい、残りは僕と前田君とで持ちましょう」
全員頷く、銃器を触った事の無い人が、いきなり持っても、扱いきれないからだ。
「大きい音を出すと、不死者たちが集結して来ますので、万が一発砲する時は、全力で走る様に心掛けてください」
達也は全員に忠告する。
「それで、これからどうしますか?」
園田が達也に尋ねた。
「是政大橋を通って府前基地を目指します」
取り敢えず、自分の大ざっぱな目標を話してみた。
「宮前橋は駄目なんですか? 私達はそこを目指そうとして来たんですが」
清水家の旦那さんが聞いてきた。
「ああ、あの橋は通れません。先程、爆破されました」
事も無げに達也は話した。
「ええ! あのでかい音は、そのせいだったのですか!」
清水家の奥さんが、驚いたように言った。
「こちらは、不死者たちに囲まれて、どうしようかと、途方に暮れていたんですが、急にヤツらが居なくなったので、変に思っていたんですよ」
園田が、急に居なくなった不死者に、疑問を持っていたようだった。
「彼らは音に反応するんですよ、それでより大きい音に惹かれたんでしょう」
これまでに解っている、不死者たちの様々な、特性を全員に説明した。
「あの橋は、不死者たちの大群に襲われて、バリケードが持たないと、判断したんです」
達也が、大型バスに突入された経緯を説明した。
「……そうですか、じゃあ仕方ないですね」
失意の中に居る彼等に、まさか自分が爆破したとは言えなかった。
 達也は、先程の家から拝借した、お菓子を全員に配り、小休止を取った後に出発すると告げた。
それから、鏑木に弓矢に細工するように頼んだ。
「それを装着すると重いから、飛距離が出なくなりますよ?」
達也は、田中家から持ってきたキッチンタイマーを、鏑矢替わりにしようとしている。
「不死者たちを、遠くに誘導する時に、使いたいんですよ、ずっと倒しながらだと、体力が持たないですからね」
達也は、音に反応する、不死者たちを思い出しながら、鏑木に説明した。
「うん。確かに」
鏑木は納得したらしく、ガムテープでキッチンタイマーを、矢に取り付け始めた。
「どなたか地図持ってませんか?」
達也は是政大橋まで行く、ルートを選定したかった。
「ここにあります」
園田が、自分のリュックサックから、地図を取り出した。
「大丈夫。そんなに離れてないから、楽勝でしょ」
 前田は地図を広げ、指で辿りながら、のんびりとしゃべる。
きっと、全員を元気づけたいのだろう、このグループの中では、ムードメーカーの役割も担っているらしい。
 地図上では大体約三キロぐらいだが、 今の状況を考えると、三キロという長さは、気が遠くなる長さに思えた。
車でも使えれば、あっという間の距離なのだが、道路は絶望的な状況だ。
事故を起こして壊れた車両が、道路に溢れてかえっているし、不死者たちも無数に、彷徨いているからだ。
「大丈夫、不死者たちの動きは遅いですから」
 前田は事も無げにそう言った。
確かに殆どの、不死者たちの動きは緩慢で、群れでじりじりと、歩きながら迫ってくるだけだ。
 だが、時々全力疾走で迫ってくる、不死者が紛れていることがある。
達也はそのことを前田に告げたが、それでも”大丈夫だ”と言い張った。
「ここいらでは、見たことが無いしな、速い奴は数が少ないんじゃないかな?」
前田がそう疑問を投げかけた。
「会いたくない奴に限って、最悪のタイミングで、会ったりするんだよな……」
達也はぽつりと言った。
「マーフィーの法則?」
鏑木が口を挟む。
「何ですか? それ?」
前田がキョトンとした顔で尋ねる。
「トーストを落とすと、バターを塗った面が、下になる確率が高いように、感じるって法則さ」
清水家の旦那さんが答えた。
「なるほど……確かにそうだな……あはははは」
全員が屈託なく笑った。
 思わぬところで笑ったせいか、少し緊張がほぐれたようだ、”じゃあ、行こうか”と男達は頷きあった。
 達也と鏑木が先頭、前田がしんがり、中程を清水一家と園田の行軍になった。
鏑木のボウガンで撃ち抜き、しくじったら達也がとどめを刺すのだ。
 これなら静かに対処しながら、是政大橋まで行けると、達也と園田の意見だ。
先頭を行く達也は、じっと目を凝らして通りを見つめ、手にした猟銃の銃口で、周囲をなぞるように見渡す。
 街は少し肌寒いというのに、辺りは異様な熱気に、包まれている 。
街の至る所で、火災が起きているが、それを消火する人が、いないせいなのかもしれない。
 しかも、そこには目に見えない、呻き声が充満していて、邪悪な気を放たれているように、感じるのだ。
達也が安全を確認し、園田たちが周りを警戒しつつ、通りを慎重に歩を進めていく。
 その通りには、立ち往生している車が、列を成して放置されている。
車の影に隠れながら、移動するには丁度良い。
 交差点に着いた時、その奥に群れをなして蠢く、不死者たちの大群が見えていた。
達也達に気がついていないのか、全員がおのおの好き勝手な方向に、顔向けている。
 一体どれほどの数なのだろうか。
それでも、ここを横断しないと、是政大橋に行けない。
 そこで達也は、ボウガンを持った蕪木に命じた。
「通りの向こうに、鏑矢を撃ちこんで下さい」
矢の中程に、キッチンタイマーを、括り付けた矢が放たれる。
 矢は木に突き刺さると同時に、ビーーッと一際高い警戒音が辺りに響き渡り、不死者たちを惹き付けてくれる。
そして、不死者たちは其方に、ノロノロと向かって行った。
「さあ、今のうちに渡りましょう」
 達也達は通りを渡っていった、道のりはまだまだ遠い。

 

**********

鏑矢(かぶらや)は矢の先端付近の鏃(やじり)の根元に位置するように鏑(かぶら)が取り付けられた矢のこと。
射放つと音響が生じることから戦場における合図として用いられた。
キッチンタイマーは重すぎて飛ばないだろうなあ

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