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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第15話 この世の真理

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第15話 この世の真理

 いつもなら検体を操る機械音や、エアコンの作動音などで、満たされているのに、今は静寂を通り越して無音の世界。
そんな中を”コツコツ”という自分の足音が、静かな廊下に大きく響き渡る。
 昨日まで信じられていた儚い秩序は崩壊してしまった。
「人の夢と書いて儚いか……昔の人は巧い事を言うねぇ」
松畑隆二は、そう呟いた。
「何を履かないの? 靴下?」
ゆりあはおんぶされたまま、隆二の背中から尋ねて来た。
「その履かないじゃなくて、んー、儚いと言うのはね、むなしく消えていく様子の事を言うんだよ」
まるで、学生に講義するように説明する隆二。
「んー、ゆりあ、難しくてわかんないです」
頭の上にデカイ『?』マークを浮かべたように、ゆりあは返事した。
「もう、ちょっと大きくなると判るようになるさ」
 隆二は、困惑顔のゆりあに優しく言った。
”そんな未来があればいいんだけどね”
そんな身も蓋もないことを、隆二は密かに思うに留める。
 その時、手を繋いでいた浩一が、隆二の手を引いた。
「ん、何?」
少ししゃがんで、浩一に聞いた。
浩一は前方を指差してポツリと言った。
「……あいつらが居るよ」
 見ると目指している部屋の前に、何人かの不死者が群がっていた。
”どうしようか……”
背中にゆりあ、片手に浩一では闘いようが無い。
 そこで隆二は、すぐ近くの研究室に、2人を避難させることにした。
中を覗くと研究室には、幸い不死者はおらず、背の高い本棚がある。
 研究資料のバインダーなどを、仕舞っておく書架だ。
一番高い所に上がっていれば、不死者も手が届かないだろう。
「あいつらが居る部屋に人がいるんだ、僕は助けに行ってくる、君らはここで隠れているんだ、いいね?」
隆二は2人に言い聞かせて、書架を登るように言った。
「必ず、迎えに来てね?」
ゆりあは隆二に聞いてきた。
「大丈夫、必ず迎えに来るから、だからお兄ちゃんの言うことを聞いてね」
「浩一君、ゆりあちゃんの事を頼むね」
2人の頭を交互に撫で、頷きながらそう言い聞かせた。
「うん、おじさんも頑張ってね」
”おじさん”の一言でガクッとなったが、気を取り直して、部屋の片隅にある掃除用具入れを開けた。
 そして、掃除用モップを手に持って、笑顔で手を振って、廊下に出て行った。
子供たちは指をいっぱいに広げて、隆二に手を振ってくれている。
死ぬつもりも犠牲になるつもりも無い、必ず帰ってくると隆二は思った。
 廊下に出た時、隆二はどうやって闘うかを考えた。
まず掃除用モップで抑えつけて、斧で頭をかち割る。
このシンプルな作戦で行こうと、隆二は決めていた。
 問題はドアの前に3体もいる事だ。
いくら何でも、3体同時に相手する事は出来ない。
 そこで、隆二は良いことを思い付いた。
各自が机に置いている、プラスチックの丸いゴミ箱を、頭に被せるのだ。
 これで噛まれる心配が無くなる。
 不死者の知能は、とても低くなっていると推測出来るので、ごみ箱を外せないだろうと、踏んでいたのだ。
隆二は事務室から、ゴミ箱を持ってきて、後ろからそっと近付き、まず端の1人に被せてみた。
 隣の不死者は気にもしないでドアを叩き続けている。
被せた奴も、気にしてないようだ。
 彼もドアを叩いていた。
透明なプラスチックの奴だから、気がついていないのかもしれない。
残りの2体にも、ゴミ箱を被せ、落ち着いて、斧を頭に突き立てていった。
 最初は、かなり気が滅入ってしまったが、数をコナす内に慣れてしまったようだ。


 部屋の中には宮沢夏帆と木村和彦がいた。
夏帆を2段重ねにした机の上に避難させ、和彦は次々とやってくる不死者を、右に左にとなぎ払っていた。
夏帆は武器のつもりなのか、掃除で使うコロコロを手に持ち、机の上で震えていた。
「くっそ、なんで死なないんだ! こいつら」
 首が曲がって居るもの、腕が肩から外れかかっているもの、足が片方違う方向を向いているもの。
すべて木村がやったが、どれも致命傷にならず、しばらくすると木村に立ち向かって来るのだった。
筋肉に脳みそが付いている風の、屈強な木村であったが、さすがに疲れてきている。
 肩で息をしながら、流れる汗を拭っていた。
腕に噛みつき防止用に、週刊誌を巻いてあるが、何度もの攻防でもうボロボロになっていた。
 そこに足の向きが違う不死者が噛みついてきた。
「くそっ」
咄嗟に防いだが、今度は噛みついた不死者を振りほどけない。
ぎりぎりと週刊誌の紙を、噛む音が耳に届いてくる。
空いた片方の手で、何か無いかと空間をまさぐるが、何も掴めず空を切るばかりだ。
 その時に、噛みついている不死者が、ふいに横に飛んで行った。
「頭をつぶすんですよ」
隆二がモップで薙ぎ払いながらいったのだ。
 横に飛んで行った不死者の頭を、斧の棒の部分で突き刺す。
その隆二に、首が曲がった不死者が取りついた。
 それを木村が回し蹴りで蹴り飛ばした。
首の曲がった不死者は、机の向こうに飛んで行き、壁にぶつかり動かなくなった。
頚椎が折れたのであろう。
 腕が肩から外れかかっている不死者は、隆二が斧で頭を叩き潰した。
とりあえず、室内にいた不死者は始末できたようだ。
 ほっとしたのか、部屋にいた2人は隆二に気がついた。
「どうも、ありがとう。木村と申します、そちらの人が宮沢さんです」
木村が隆二に、片手を差し出し、挨拶してきた。
「いえいえ、こちらこそ。僕は松畑です」
隆二は少し照れたように言い、宮沢が机から降りるのを手伝いつつ、空いたほうの手で握手した。
「おひとりですか?」
木村は助けにきてくれた、隆二に問いかけた。
「いいえ、警備室に1人と、この先の研究室に子供が2人います」
隆二は子供たちの事を2人に話す。
「あと、3階に2人いますので、ちょっと迎えに行ってきます、お二人は警備室に行って休んで下さい」
取り敢えず、ずっと戦い続けて、ヘトヘトになってる2人に、先に行って休憩するように、促してみた。
「じゃあ、僕も行きましょう、1人より2人の方が闘い安いですから」
木村は手助けを申し出た、正直有難いと隆二は思った。
「研究室の子供2人は、私が迎えに行きますから、安心してください」
宮沢が武器のコロコロを、胸に掲げたまま言った。
「お願いします、それと研究室から動かないで貰えますか? ウロウロするより、鍵がかかる研究室のほうが安全ですからね」
隆二は、そう宮沢に忠告すると、木村に頷き先を促した。
「はい、木村さんも松畑さんも気をつけてね」
宮沢は2人の背中に声をかけ、子供たちの居る研究室にむかったのだった。
隆二は、木村と共に3階に向かう途中の階段で嘆いていた。
「しかし、死ぬことすら叶わないとは、神の慈悲とやらはどこにいったんだか……」
隆二は、ため息交じりに呟いた。
「あははは、何を勘違いしてるんですか、元々神は人間なんか気にしてないんですよ」
木村は、にこやかに白い歯を見せながら答える。
「え? それって、どういう事ですか?」
困惑した隆二は、思わず木村に聞いた。
「松畑さんは、道を歩いてる時に、足元の蟻を気にしますか?」
 木村は事も無げに、この世の真理を語ったのだ。


 そのちょっと前の3階では、看護師の冨田奈菜緒が、無双状態になって、不死者たちと闘っていた。
鉄パイプのような物で、不死者たちを殴りつけて、寄せ付けないようにしている。
柴田秀幸医師は、机の上で所在なげ、体育座りにしている。
 最初は手伝おうとしてたのだが、物を投げれば富田に当たり、棒で足をひっかけようとしたら、富田を転ばせてしまう。
色々と邪魔をしてしまい、しまいには『机の上に座ってなさい!』と怒られてしまったのだ。
 しょぼんと座ってると、プルルルッと机上の電話が鳴った。
柴田が出てみると『警備室から架けています』と女性の声がした。
女性と話し込む柴田、電話が終わり冨田の方を向き怒鳴った。
「頭を叩き潰すんだそうです」
 柴田は電話で聞いた話を富田に伝えた。
 冨田は頷き、此方に向かってくる、不死者の頭に鉄パイプを振り下ろした。
”グチャ”
鈍い音がして、鉄パイプがめり込み、不死者の頭蓋骨は砕けた。
さっきまで、何度倒しても復活していた、不死者はあっけなく崩れ落ちた。
不死者たちの弱点が解れば、後は単純だ。
 冨田は、頭を中心に攻撃を加えている。
しかし、なかなかクリーンヒットしない、いくら武術の心得があると言っても難しいのだろう。
 柴田は机を降りて、消火設備の中から、斧を取り出した。
ここに窓から脱出用に斧が備わっていると、電話で教えてもらったのだ。
斧を持った柴田は、まず目の前にいる、不死者の頭に斧を突き立てた。
そして、冨田に噛みつこうとしている、不死者の頭を跳ね飛ばし、返す刀で横にいた不死者の頭を割った。
「そいつを、椅子で抑えつけてください」
冨田がパイプ椅子で、不死者を抑えつけて、柴田が頭に一撃を加えとどめを刺す。
「うおぉぉぉ」
柴田が雄叫びを上げながら、斧を振り回して、次々と不死者を葬っている。
 先程までの柴田とは違う様子に、”この人のスイッチは、斧だったのか……”と冨田は思った。
2人で連携し、室内にいた不死者たちは、瞬く間に駆逐されていった。
「ハァハァ……さっきの電話だと、此方に迎えが来てるそうですよ」
柴田は暴れすぎて、肩で息をしている。
そして疲れた体を壁にもたれながら、電話の内容を掻い摘んで話した。
「それじゃあ、此方から出向きましょう、またアイツらが来たら面倒です」
冨田は息を整えながら言った。
「……そうしますか」
柴田が起き上がろうとする、冨田に手を貸しながら言った。
2人は廊下に出て、階段に差し掛かると、階段から話し声が聞こえてきた。
神がどうのこうのと、なにやら難しい話しをしている。
「あなたわぁ、かみをぉしんじますかぁ?」
血塗れの顔に笑顔を浮かべ、血糊でギトギトの斧をかかげながら、いきなり尋ねてきた柴田に、隆二たちは腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「あわわわ、すいません。なんかのスイッチが入ったみたいで……」
慌てた冨田が深く頭を下げ、怯えた2人に言い訳する。
「い、いえ……」
隆二が答えた、でもやっぱり怯えている。
「先程、警備室の女性から、お2人がこちらに向かってると、伺っていたので出向いてきました」
冨田が手短に伝える、柴田は自分のギャグが受けたと思い、傍らでニコニコしている。
「ああ、それは鈴木さんですね。……じゃあ、これで判っている生存者は全員なので、警備室に向かいましょうか」
隆二は登りかけた階段を、今度は降りだした。
 まだ、棟内に残っている不死者とか、食料などをどうするとか、問題は山ほどあるが、無事な生存者に会えたので”良し”とするかと隆二は思った

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