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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第11話 不注意な訪問者

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第11話 不注意な訪問者

栗橋友康は今日も、カーテンの隙間から外を監視していた。
すでに人の往来が無くなって、人で無い者の往来しか伺えない。
 ガラスが割れる音が聞こえた、はす向かいの家にいる不死者だろう。
しかし、窓全てを割る事が出来なかったのか、上半身のみ窓からはみ出て手をバタつかせて、足掻いてるのが見える。
 自宅の前の通りには2人の不死者が彷徨いてる、障害物の車や標識などにぶつかって倒れているやつもいる。
頼みの電気は遂に朝方から来なくなった、社会インフラはもう少しで、全てが駄目になるだろう。
水は節約すれば2週間は持つが、食料がそんなに多く無い……
 ネットはプロバイダーのサーバーがダウンしてしまったのか、繋がらなくなってしまった。
最後に見た時には、自分の救援を求める書き込みで一杯で、日本全体がどうなってるのかは不明であった。
 先日のロープーウェーの失敗以来、外に出かけるのが億劫になってしまい、備蓄をただ浪費するだけの毎日だ。
近い内に調達しないといけないだろうが、きっとギリギリまで行かないだろう。
 友康は、夏休みの宿題は登校前日に、親に叱られて泣きながらやるタイプだ。
 監視に飽きた友康はトイレに行こうとした時、ふと外を見たら家の中を窺う人間を発見した。
”アイツらじゃない普通の人間!”
 しかしながら掲示板では、生き残った人間同士の軋轢を、目にしているのを考えると、お友達になれる可能性は限りなく低い。
 しかも社交性スキルが異様に低い友康は、例え初対面でも嫌われる自信はある。
恐らくは訪問者は、自分の食料品を喰い尽くして、近所の家を漁っているのだろう。
 そして、厳重に戸締まりをしているこの家に目を付け、生存者がいるかどうか確かめようとしてるのだろう。
迂闊に生きている事を示すと、自分用の食糧が強奪されるのは目に見えている。
たとえ良い人でも、分け与えてしまえば、今度は自分用が不足してしまう。
 それに友康は自分の食い扶持を、与えるほどお人好しではない。
”くそっ! どっか行け!”
 友康は心で強く念じてみたが、訪問者は無情にも玄関前に来てしまった。
暫くは家の中を伺う素振りだったのだが、あろう事か玄関のチャイムを鳴らそうとしている。
”ちょ? おま! やめぃ!!”
 声にならず口をパクパク動かす友康、チャイムの電源を落としておけば良かったのだが、それはもう遅すぎた。
無情にも家中に響き渡るチャイム音。
”ピンポーン”
 その甲高い音は静寂が支配している、家の外にも漏れ出し響き渡る。
 そして音に対して敏感に反応する不死者たちが、たちまち塀の外に集合してくる。
外を見なくとも、ざわざわとした嫌悪感が、不死者たちが来るのを知らせている。
 ここに至ってこの不注意な訪問者は、自分の重大なミスに気がついた。
音に関して奴らが反応する事に、気がついていなかったみたいだし、何よりも塀の門を閉めていなかったのだ。
呻き声を上げながら、不死者は訪問者に迫って来る。
 訪問者は酷く慌てて、玄関のドアをガチャガチャと鳴らし、チャイムを激しく鳴らした。
「おーいっ! 居るんだろう! 開けろぉぉぉぉ!」
そしてドアを力いっぱいドンドンと叩く。
その激しい騒音は、益々不死者たちを集めてしまう。
「は、早く開けろ! 開けてくれぇぇぇぇ!」
訪問者の声は絶叫に変わった、余程焦っているのだろう。
 友康は訪問者を無視する事にした、粗暴な感じがするし、第一コイツは馬鹿だ。
状況を何一つ把握してないし、不死者の特性も理解してないようだ、一緒にいると足を引っ張られるだろう。
 友康は階段に座りながら、身動き一つせずに固まって、早く他の家に行くように祈っていた。
訪問者は自分の背後に、不死者たちが迫って来るに至って、この家に入るのを諦め、隣りの家の塀を乗り越えて去っていった。
 その様子を、玄関脇のくもりガラス越しに見ていた友康は呆れてしまった。
 後に残されたのは、ご近所中の不死者たちと、心許なさすぎなドアと、引きこもりニートの友康。
「……あ、あいつは何しに来たンゴ」
 状況を散々こじらた上、さっさと逃げ出した訪問者に涙目になりながら呟いた。
「ぐぁああああ!」
 ドアのすぐ外には、20人以上の不死者たちが蠢いてる。
中に友康がいるのを知っているかのように、ドアをバンバンと叩いているのだ。
 ドアには空き巣防止用に鈴が付いている、それが振動に呼応して”ちりんちりん”と鳴り、益々不死者たちを焚き付けてしまっている。
築ン十年の安普請のドアでは、破られて雪崩れ込まれるのは時間の問題であろう。
「マズイな……逃げ出す準備をしておくか……」
 しょうがないので、今のうちにもっと食料を確保して、脱出の用意をしようと、階段を降りたとたん、玄関ドアは重さに耐えかねて、家の中に倒れ込んできてしまった。
開いた玄関口から、不死者たちが呻き声を上げながら、雪崩れ込んでくる。
 友康はたまたま手許にあった、先日買ったラバーカップを手に掴んだ。
トイレが詰まった時に、便器の中に突っ込んでキュポキュポ使うアレだ。
 不死者たちの先頭にいた、大口を開けて迫り来る不死者の顔に、ラバーカップのラバー部分をすっぽりと嵌め込んで、そのまま押し込んで横倒しにする。
すると後続の不死者たちが、それに躓いて次々と倒れて行く。
 不死者が倒れた拍子にラバー部分が外れたので、自分を掴もうとする、不死者たちの手を凪払うように、ラバーカップを目茶苦茶に振りまわした。
 それでも掴もうとする不死者たちを、そのまま横殴りにしながら、何とか振り解いて階段を登る。
そして階段を登った所にあった、雑多な荷物を次々と投げ落としながら、古くなって捨てようと思っていたスニーカーを履き、自分の部屋へ駆け込んだ。
 まず逃走用リュックを担いで、自作のスリングショットを手に持ち、隣家への逃走用梯子をかけてあるベランダに向かう。
階段からは、登って来る不死者たちの、足音と呻き声が聞こえてる。
 友康は一瞬携帯電話をどうするか考えた、しかし電気が来てない状況では、携帯もダメかもしれないけど念の為にと、携帯をポケットにねじ込み、窓を開けてベランダに出た。
 そして、かねてより備えてあった、隣家の屋根に渡して置いた梯子に、足を懸けて振り向いた。
家の中に侵入した不死者たちは、もう部屋の入り口に来ている。
そして梯子の下を見ると、そこにも不死者たちが詰め掛けている、さっきの訪問者を追いかけていたのだろう。
 友康は、下を見ないように、そして落下しないように、四つん這いになって慎重に梯子を渡り始めた。
少し動くたびに”ミシッ”っと梯子がきしむ音を立ててしまう、落ちてしまうのではないかと身がすくむ思いだが、それでも歯を食いしばって進む。
渡りながら後ろを振り向くと不死者たちは、部屋を抜け出してベランダに出て来ている。
「ひ…ひぃ……」
友康は震えながらも梯子を這い進み、なんとか隣家の屋根に辿り着いた。
 そして不死者たちが、追いかけて来ないよう、梯子を蹴り落とした。
不死者たちは、続々と自宅のベランダに詰めかけている。
 だが、こちらに渡る手段が無い為、虚しくベランダから手を伸ばし、唸るばかりだ。
 友康は自分の考えた脱出経路が、旨く機能して嬉しくなった。
「へいへーい! ここまで来れるもんなら来てみやがれ!」
 上手く逃げられた友康は、はしゃぎながら屋根の上でぴょんぴょん跳ねて、不死者たちを挑発している。
だが、トタンで滑りやすくなっている屋根で、足を取られてしまった。
「んをわっ!」
友康はバランスを崩して、後ろ向きに倒れ込んでしまった。
「ぬをああああっ!」
 ずざーっと、屋根を滑り落ちていく友康。
とっさにラバーカップを屋根に貼り付け、その吸着力を頼りに自身の落下を食い止めた。
 しかし、肩に担いでいた荷物は、屋根の下に滑り落ちてしまっていた。
残ったのはラバーカップのみ、なけなしの食糧とスリングショットは、不死者たちの足元に落としてしまったのだ。
 慌てて屋根の縁まで行って下を覗き込んでみたが、不死者たちの数が多すぎる。
友康単独で不死者たちを殲滅して、荷物を確保することは難しそうだ。
「あぁぁ……、なんでいつもこうなるの……」
 いきなりの窮地に追い込まれた友康は、ラバーカップを腕に抱えて、屋根の上で途方に暮れて佇んでいた。
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