忍者ブログ

終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第44話 諦めの悪さ

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

第44話 諦めの悪さ

 ここは疾病センターから離れたところにある避難場所。

「うがああああ!」
 その避難場所は不死者たちに襲われていた。
 今までにも何度か襲われていたし、中に居る男たちも慣れたもののはずだった。
 これまでは斧やつるはし・スコップなどで撃退出来ていたのだが今夜は何かが違っていた。
「キシャァァァァッ!」
 強化不死者が混じっていたのだ。
 その強化不死者は異様な風体をしていた。
 元は女性だったのはスカートらしきものを履いているので何となく判るが、顔や身体の皮膚は焼け焦げているか、筋肉が剥き出しで人体標本のような状態だ。
 瞼は無く眼球が飛び出てきているような異様な顔と、髪の毛が激しく脱落しておりまるで落ち武者だ。
 避難所に居た男たちは何度か走る不死者を見たことはあったが強化不死者は初めてだった。
「なんだ? あれ??」
 異様な風体にさすがの男たちも、その見るからに不気味な強化不死者の様子に慌てふためいている。
 見張りに詰めていた男がボウガンで撃ってみた。
”カキン!”
 胸の辺りに命中したはずの弓矢は金属音だけを残して弾かれてしまった。
 そして、強化不死者は意にも介さず佇んでいる。
「「「 え!? 」」」
 驚愕する見張り所の男たち。
「誰か! 猟銃持って来い!」
 さすがに尋常な攻撃手段では駄目だと悟ったのか、彼らはなけなしの猟銃で射殺を試みる事にした。
 男の一人がバリケードに登り、上から猟銃で狙い定めた。
”ズドン!” ”カキンッ!”
 頭部に命中したはずの猟銃の散弾はあっけなく弾かれてしまった。
 今までは撃たれた不死者は銃弾で頭を吹き飛ばされていたのにコイツは違った。
 命中したはずの頭を1回ぶるんと振るっただけなのだ。
「な、なんだ! あいつは!!」
 男たちの驚愕を気にも留めないかのように、強化不死者の女は全身を振るわせ始めた。
 やがてニタリと笑うかのように崩れかかっている口を開いた。
 大きく、大きく開いた。
 まるで地獄の讃美歌を詠おうとするかのようだ。
 先程の猟銃を撃った男が慌てて再度発射しようと射撃の構えを見せた。
”キ、キキキ、キュィーーンッ パゥンンッ!”
 そのニヤケタ口から衝撃波の様な物が飛び出してくる。
 その衝撃波に、これまで不死者の襲撃を何度も跳ね除けていたバリケードがあっけなく崩れて穴が開いてしまった。
 強化不死者が超音波砲でバリケードを粉砕してしまったのだ。
 衝撃波はバリケードだけでなく、正面に有った乗用車を空高く巻き上げる様に吹き飛ばし傍に居た人間も粉砕した。
 猟銃を構えていた男は下半身を文字通り霧散されてしまった。
「ぐわっ! な、何が起こったんだ」
 その衝撃波に周りの男たちは弾き飛ばされてしまった。
 そして、土煙が漂う中にフラフラになりながら起き上って来た。
 男たちは耳を押さえ何事か毒づいているが、その体が思うように動かせないらしい。
 見ると耳からはだらりと血が流れ出ている、衝撃波というより音波にやられたようだ。
「うがああああ!」
 破壊されたバリケードを潜り抜けて不死者たちが内部に侵入してくる。
 バリケードの中に居た人々は逃げ惑うが、戦えるものは超音波の影響で満足に動けなくなっている。
 そこを後からやって来た不死者に噛み付かれていた。
「ひ、ひぃぃぃぃ」
 中には覚束ない手で斧などを振り回して抵抗を試みる者がいたが如何せん力が入らないらしい。
 あっという間に囲まれて不死者の群れの中に埋没して行った。
 そして非戦闘員の女性や子供は、不死者たちに成す術もなく捕まり噛み付かれていく。
「逃げろー!」
 大声で避難を呼びかける者も居たが、逃げようにも回りは不死者の群れに囲まれてしまっている。
「きゃあああ」
 バリケード内に居た避難民たちは右に左にと逃げ惑うが、どちらに逃げ惑っても不死者だらけだ。
 次々と捕まり喉や腕に噛みつかれ、中には首を引き千切られている者も居る。
 そして誰も逃げ出せないままに、その避難所は壊滅してしまった。
 やがて、噛みつかれた避難民たちの内から何人かが再び動き出して来ていた。
 勿論、生きてなどいない、もはや死を望めない人外となってしまったのだ。
「うがああああ!」
 中には破壊されつくして全く用を為さない死体もあった。
「キシャァァァァッ!」
 そんな犠牲者たちの屍の上に立ち上がり、強化不死者の女は一際高く吼え声を上げた。

 


ざわり。


 疾病センターを包み込もうとしている闇がそう告げている。
人口の光が無くなった街で、夜の訪れは殊の外早いのだ。
 どこか遠くの方で物が壊れる音が聞こえていたが、それすらも漆黒の闇に吸い込まれていった。
 小山隊員は疾病センターの入り口ホールに陣取っていた。
もちろん襲撃が予想される不死者たちを迎え撃つ為だ。
 疾病センターに併設されている病院棟の前にある駐車場に一陣の風が吹き抜けていく。
木々が風に吹かれて揺らめいていた。
事変が始まってから既に久しい、無人となった駐車場に置いてある車たちは、決して迎える事の出来ない主を無言で待ち続けていた。
急にあたりの夕闇が濃くなったような気がした、奇妙な静けさが痛いほど耳に迫ってくる。
 小山隊員は暗闇に何となく違和感を感じていた。
 まるで獣が獲物を狙うような気配を感じるのだ。
「……これは駄目かもしれんな」
 小山隊員はポツリと呟いた、横にいる佐藤隊員も頷いていた。
気配に押しつぶされそうな気がして、小山隊員の背中を一筋の汗が流れていった。
 ホール内には椅子を逆さまにして歩きずらくしているし、廊下の要所には隙間なく机を並べたりしてある。
栗橋友康が不死者は屈んだり跨いだりが出来ないと進言していたので、不死者の行動を遅延させるのに役にたつからだ。
走る不死者対策には針金をあちらこちらに張り巡らしている。
取り敢えず出来る対策は全てやったつもりだ。
 やがて、ザワザワと沢山の人がいるような気配に変わってきた。
 闇夜の中に蠢いている影がある。
 奴らが来たのだ、ズリッズリッと足を引きずるような音が響いて来る。
 普通の不死者だ。
 その中をスタスタと音を響かせて足早に動き回る者が居るのが見える。
 走る不死者だ。
 その禍々しい集団は少しづつ距離を縮めて来ていた。

 片山隊長は疾病センターに残った人員を3つのチームに分かれさせた。
 警備センターで全体を見張るA(アルファ)チーム。
柴田医師と冨田看護師、松畑隆二、片山隊長の4人だ。
 奥のほうには老人ホームからの避難民を収納している、戦闘が始まれば病院棟への渡り廊下に向かって貰う。
本当は救援ヘリで基地に送りたかったのだが、政府のお偉いさんが視察をしたいとかの理由でヘリを使うとの事で、後廻しにされてしまったのだ。
それで昼間の輸送計画が潰れてしまった。
『……今は大丈夫なんでしょ? 老人たちの輸送の為にヘリ使用は優先出来ませんよ』
「市民の保護が最優先でしょう!」
 片山隊長は憤って抗議したのだが受け入れて貰えなかった。
 しょうがないので病院棟の屋上のヘリポートに、夜明けと共に迎えに来て貰う事にしてある。
 疾病センターにも臨時のヘリポートはあるが正式なものは病院棟にある奴だ。
 それに病院棟は7階建てなので3階建ての疾病センターより高い、病院棟を縦に逃げる事によって朝までの時間が稼げるのではないかと片山隊長は考えた。
 つまり疾病センターの2階連絡通路から病院棟に移り、病院棟の1階に通じる階段を爆破してしまえば不死者は病院棟を上がって来られない。
 連絡通路を破壊すれば完全に孤立化させる事が可能だと考えた。
普通なら最初から病院棟に籠るべきなのだが、生憎と病院棟内の不死者を掃討する暇が無く、安全の確認が取れていないのだ。
木村が疾病センターに留守番で残っていた時に、暇を見つけては駆除して回っていたが、それでも完全とは言えなかった。
だから、いざという時まで病院棟には行かない方が良いと話し合ってある。
 入口付近を防衛するB(ブラボー)チーム。
佐藤隊員、小山隊員、三池隊員、木村和彦の4人だ。
阻害を小山が引き受け撃破を三池が担う、佐藤は小銃を使っての狙撃だ。
 木村はミニガンを整備している、まだ弾倉に銃弾が200発ぐらいある。
撤退する時の時間稼ぎぐらいには使えると思っているのだ。
それに木村が作ったクレイモア地雷もある、これで相当数の不死者を屠れるはず。
建物入口から簡易な防衛線を張り巡らし、なるべく遅延戦闘を行いながら時間を稼ぎつつ朝を待ちうける作戦だ。
 屋上から個別に狙撃するC(チャーリー)チーム。
栗橋友康、前原達也、東雲隊員の3人。
友康が爆弾を作り、達也が護衛と狙撃、東雲はライフルを使って狙撃を担当する。
友康は出来上がった爆弾を1階に配達したり銃弾の補給などを担当するのだ。
 これで布陣は完成した、いつもの様に人手がまるで足りないが、そこは創意と工夫で何とかしてみる、後は奴らと闘うだけだ。
”……諦めの悪さなら誰にも負けない”
 片山隊長は警備室のモニターを見ながら独り言を呟いた。

 外の風景を写していた監視モニターに映る影たち。
 最初、三々五々バラバラに動いていた影が一点を目指し始めた。
 やがて影は密集しはじめ、疾病センターの周辺を隙間なく埋め尽くそうとしていた。

 

PR

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

プロフィール

HN:
もすげん
性別:
非公開
自己紹介:
メールアドレスを教えて貰えれば次話投稿の時にお知らせします。

mosgen4989@gmail.com


登録しているSNSです、更新の告知などしています
フェイスブック
@DIARY
もすげんツィッター

ランキングバナー

クリックして貰えると助かります。


小説・詩

http://ept.s17.xrea.com/WanNe/rank.cgi?mode=r_link&id=11150

リンク

P R

コガネモチ

忍者カウンター