自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ただいまコメントを受けつけておりません。
かつては明るく道路を照らしていた街灯は最早機能しておらず、真っ暗な中を暗視装置を頼りに男たちが駆け抜けていく。
佐藤優子に書いて貰った簡単な地図を片手に持ち、片山隊長は時々休憩を挟みながら前進を続けていた。
勿論、前進する際に先頭に立って、不死者たちに漂白剤をかけているのは栗橋友康だ。
手の怪我を縫ったばかりなので、片山隊長は嫌がったが、手数は多い方がいいと友康に説得されたのだ。
友康は人の役に立ってる事に充実感を覚えていた。
途中で事故を起こした引っ越し屋のトラックを見かけた。あの疾病センターを襲った一味のトラックだ。
中を見るとリーダーだった男らしき不死者が、シートベルトに固定されて蠢いていた。
座席の周りには空薬きょうが散らばっている、拳銃のスライド(遊底被)は開いたままだった。
きっと、最後の一発まで闘っていたのであろう。
トラックの荷台には部下だった遺体が、頭を打ち抜かれていた。恐らく自害したと思われる。
前原達也はかつてのリーダーの頭を斧で潰してやった。
老人ホームに到着すると、夜の為なのか見張りは2人だった。
屋上に1人、老人ホーム入り口に1人。今夜は月明かりが弱い夜で、強襲には持って来いだ。
「……汚い身なりだな」
片山隊長が双眼鏡を覗きながらつぶやいた。
「……ええ、そうですね」
「……あれなら不死者と勘違いされてもしょうがないな」
「……ええ、しょうがないですよ、……今は暗い夜ですからね」
「事故ですよ事故、一々気にしていられないでしょう」
隊員たちがそれを見て口々に呟いた。
「突入班の準備を待って一斉に撃て、割り振りは以下の通りだ……」
片山隊長が突入班と支援班にチームを分けた。
最初に屋上の見張りを狙撃した。
”バスッ!”くぐもった射撃音の後に見張りの頭部が砕けるのが見えた。
”バスッ!”続く射撃音の後に、老人ホームの入り口に居た、見張りの首をがっくりと下げて、そのまま倒れ込むのが見えた。
それを見た突入班が素早く入り口に歩み寄る。
小山が扉を開け、入り口から中にそっと侵入すると、もう一人、ホール内用の見張りの男が居た。
見張りの男は椅子に腰かけ、腕にはツルハシを抱えたまま居眠りしていた。
小山が胸からナイフをはずして、男にそっと近付く。
そして片手で口を塞いでナイフを深々と男の胸に沈めた。
男の体はビクンと反応して、小山の手を外そうとしたが、それ以上のたいした抵抗も見せずに静かになった。
小山は室内に素早く視線を巡らせ、何も動きがないことを確認すると手で合図を送った。
隊長たちは、音を立てずに屋内に入ると直ぐに散らばって警戒した。
入り口から入るとそこは玄関ホールになっていて、奥に受付のカウンターが有った。
カウンターの横にレクレーションルームと書かれた部屋があり、そこを覗くと何人かの老人たちが車椅子に座って居た。
老人たちは皆俯いていたが、自衛隊員に気が付くと奥の方を指差した。
「ああ、あの娘らを助けてやってくれ……頼みます……」
そういうのが精一杯のようだった、中には手を合わせて拝んでいる老人もいる。
片山隊長は頷き廊下を奥に進んで行った。
レクレーションルームの奥に診察室と書かれた部屋があり、そこから不穏な音が聞こえている。
廊下に面した窓から覗くと、中では5人の男たちがそれぞれに女性を組み伏せて楽しんでる最中だった。
”……く、接近しすぎてるな、ならば一旦無力化するか”
片山隊長はスタングレネードを手に持つと全員に合図を送った。
”対光、対音の防御” 達也たちは診察室に背を向けて耳を塞いだ。
片山隊長はそれを見届けると、安全ピンを外したスタングレネードを部屋の中に放り投げる。
部屋の中をスタングレネードがカランコロンと、音を立てて部屋の中央付近に転がった。
”なんだ? あれ??”と室内に居た男たちが注視した時に、それは本来の機能を発揮した。
”バキーーーーーン!”
スタングレネードは殺傷能力はまるで無いが、光と音で相手を無力化する兵器だ。
これを喰らった敵は目と耳をやられて、しばらくは動く事さえ困難になる。
「!」
男たちは目をやられたらしく、目頭を押さえたままフラフラと立ち上がった。
そして、スタングレネードの爆発と同時に、隊員たちは室内に飛び込んだ。
「め、目が見えねぇ!」
すだれ禿の男が猟銃を構え、天井に一発射撃した。
小山が自動小銃で一撃で、そのすだれを吹き飛ばした。
「うが……なんなんだよ!」
ギョロ目の男がボウガンに手を伸ばしたので、達也が胸板に拳銃弾を撃ち込んだ。
「ち、ちきしょう!」
腹が出ていた中年男も、猟銃を構えようとしていたので原田が拳銃で始末した。
もうひとりの中年男は頭を抱えてブルブル震えている。
武装解除など端から考えてはいない、無法者を処分し状況を制圧するだけだ。
小山たちがシーツらしき布やカーテンを外して、それを渡して裸の体を覆ってやろろうとしていると、部屋の奥に立ち上がる影がいた。
「動くんじゃねぇ!」
赤いバンダナを巻いた男が怒鳴った。
その手には拳銃を持ち、さっきまで自分が蹂躙していた少女の頭に突きつけていた。
「てめえら何もんだ!」
赤いバンダナは目から涙を流している、普通はこんなに早くは回復はしないものだが、きっと無駄に頑丈な男なのだろう。
「自分たちは自衛隊だ」
片山隊長が銃を構えたまま答えた。
「自衛隊がいきなり何しやがる! ああっ、仲間を殺したな!!」
少しづつ視界が回復しているのだろう、頭や身体から血を流して横たわっている仲間を見て赤いバンダナが怒鳴っている。
「ここいる避難民を保護しに来たのさ、その為には君らが邪魔なもんでね」
片山隊長がゴミ掃除のついでだと言わんばかりに言った。
「君らの方こそ、一体なんだ? なぜ、一緒に助け合って乗り切ろうとしなかったんだね?」
片山隊長の耳に付けた無線機に、狙撃手の東雲が狙撃位置に移動中との連絡が入っている。
銃撃戦では此方に被害が出る可能性があるし、人質を傷つけるのは本意ではない。
時間稼ぎをして狙撃で始末してしまおうと考えたのだ。
「警察の留置所に居て、なんとか脱出してきてみたらこの通りさ、きっと神様が好きに生きろと俺に言ってるに違いないんだぜ」
赤いバンダナの男はとうとうとしゃべっている。
「ここを見つけたのは俺たちさ、後からノコノコやってきて、妙な正義を振り回すんじゃねぇよ」
スタングレネードの音を聞きつけたのか、奥のほうから不精ひげのガリガリの男が駆けつけていた。
「残り少なくなった食料を効率的に再配置してやったのは俺だ!」
赤いバンダナは、元からあった食料を配布しただけなのに、なぜか偉そうに演説を始めた。
「ここは不死者に襲われても、俺たちが守ってきてやったんだぞ。その対価を要求するのは当然だろうが!」
赤いバンダナが勝ち誇ったように言い放った。
だが言葉とは裏腹に彼らの一物は小さく縮こまっていた。
すがすがしいくらいの屑っぷりだ、達也は言い返そうとしたが、片山隊長がそれを遮った。
「人間は本来暴力的な生き物なのだ、それを克服する為に心が有り、それを育てるために知恵が有るのだ」
片山隊長が静かに話を始めた、狙撃手が配置に着くまで時間稼ぎをする為だ。
『……ザッ……狙撃可能です、不死者たちが集まってきています』
東雲から連絡が入った。
「道徳の定義こそが、人が他の生物と違う事を証明する唯一無二の真実だ。その可能性を摘むモノには、我々は容赦しない……それだけだ」
赤いバンダナが汗でぐっしょりと湿っている、色々と愚にもつかない持論をしゃべるが正論には弱いらしい。
片山隊長が合図を送ろうとしたその時、ふいにホール全体が”ズーーーン”と揺れた。
「なんだ?」
診察室にいた全員が天井を見たり、足元を見たりとキョロキョロと見回していた。
すると、道路に面した壁が一斉に崩れ始め、濛々と煙る埃の中から不死者が現れた。
「ギシャアアアア!」
室内にいた多数の獲物を見つけた喜びで咆哮する不死者。
「「「 ! 」」」
とっさに全員の武器が不死者に向けられた。
「撃て!」
そう、片山隊長が合図をするよりも早く、不死者は飛び出してきた。
壁の開いた穴からわらわらと湧き出て、こちら目掛けて走り出している。
「走る奴だ!」
2連の猟銃を構える発砲する大里、達也は89式小銃を連射にして引き金を引く。
”ドンッ! ドンッ!””ブブブブッ!”
すさまじい射撃音がセンターホールに響き、金属の空薬きょうが足もとに落ちていく。
何体かの不死者たちは、放たれる銃弾に身体引き裂かれてゆく。だが……
”キンッ! キンッ!”
銃弾が命中しているのだが、次々と跳ね返しているの不死者がいるのだ。
「銃弾を跳ね返している奴がいます!」
達也が驚愕しながら怒鳴る。
他の隊員たちも戸惑ってしまっている。
「くそっ! 手りゅう弾を使う! レクレーションルームに避難しろ!!」
片山隊長が小山に手りゅう弾の用意を指示して、奥に逃げるように全員に合図している。
自衛隊員たちが不死者の集団に気を取られて、油断したすきに赤いバンダナと不精ひげは廊下を走って逃げていた。
そして、ひとり逃げ遅れた、びくびくしていた中年の男は不死者に食われていた。
もちろん、足手まといの人質は放り出して行った。
まだ、スタングレネードの影響で、ふらふらになっている彼女たちを抱え込んで逃げ出す突入チーム。
手榴弾を診察室に投げ込み、レクレーションルームに飛び込んだ小山は、女の子のひとりに覆いかぶさった。
ほかの隊員たちも、爆発から彼女たちを守るために覆いかぶさった。
”ドドドン!”複数の爆音が聞こえ、黒い煙が立ち込める。
ミニミを抱えた前田が制圧射撃を黒い煙の空間に放っている。
「軍用銃の5.56弾を弾く? 鋼鉄製の骨なのか?」
何人かでレクレーションルームにあったイスや机でバリケードを作る。
「アーマー? 元は人間だろう? 何体かは銃弾で粉砕できたぞ?」
手の空いているものは闇雲に銃撃を加えた、時間稼ぎになるか怪しかったがやらないよりはマシだ。
「ったく、なんなんだ! あれは!!」
隊員たちが興奮して口々に話しをしている。
「ギシャアアアア!」
まだ、咆哮を発して動いている不死者がいるらしい。
傷ついた少女たちと、歩くこともままならない老人たち。
そして、銃弾の通じない不死者。
片山隊長は自分たちが、八方ふさがりになっている事に唖然とした。
「また、新種……かもしれませんね……」
達也が終りが見えない不気味さに呟いた。
ただいまコメントを受けつけておりません。