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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第26話 進化する者

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第26話 進化する者

 栗橋友康はコンビニの前で迷っていた。
工場で犬に襲われかけてから、不用意に建物に入るのを躊躇してしまっているのだ。
 でも、水と食糧を調達しないといけない。
長い事食事を取っていないので眩暈がしてきているのだ。
 目の前にあるコンビニは、中からブラインドが降ろされていて、覗き込んで様子を伺う事が出来無い。
人の気配はなかったが、念の為に石をドアのガラスに向かって投げつけた。
 しかし、加減を忘れた友康はこぶし大のレンガを投げつけてしまった。
”ガッシャーン”と派手な音がして、ガラスは砕けて店の中に散らばっていく。
 そのまま、 車の影から様子を見ていたが、少し待って何も動きがないのを確認した。
友康はちょっと安心して店内に入った。
 ここも既に荒らされた後らしく、商品棚には余り品物が、残っていなかった。
そんな店の中を歩いて、通路にさしかかった所で、すぐに硬直してしまった。
 虎が店の通路の真ん中に座り込んでいたのだ。
”どうする?”
虎はじっとしていて動かない、友康も硬直したまま動かない。
”ど、ど、どうする??”
 友康の額から汗が一筋流れ落ちていく……だが、ここで友康はある事に気がついた。
ガラスが割れる派手な音がしたにもかかわらず、何も反応をしないと言うことは、この虎は生きていないのではないか?
 友康はラバーカップで、虎の頭をつついてみた。
首がぐにゃりと動いて、変な角度に傾いたが虎は少しも動かない。
”……なんだ。やっぱし、死んでるじゃん”
 友康は大きくため息をして肩を落とした。
恐らく腹を空かせた虎は、最後の気力を振り絞って、侵入したが直ぐに食べられる物が無く、そのまま潰えたのであろう。
友康は自分がその食料に、成らなくて良かったと安堵した。
 それから友康は、自分が入ってきた入り口を、商品棚で塞いでから店内を物色し始めた。
まず、欲しかった物。
それはおねぇちゃんが載ってる成人向け雑誌……じゃなくて、漂白剤だ。
 もちろん、直ぐに見つかった。
きっと、この事変が始まってからは、誰も洗濯するどころでは無いのだろう。
ありとあらゆるものが略奪された店内で、ほぼ手付かずで大量に残っていたのだ。
「ウヒョヒョ、大量、大量っと」
友康はホクホク顔で漂白剤を、自分のリュックに詰め込んだ。
 事情を知らない人が見たら、ニコニコ顔で漂白剤を漁っている姿は奇異に見えたであろう。
”おや? あれって……”
 その時、商品棚の端っこにある水鉄砲に気がついた。
それも5メートル位飛ぶデカイヤツだ。
 これに漂白剤を入れれば、かなり頼もしい武器になるに違いない。
不死者たちをやっつける事は出来ないが、追い払ってしまえるのは有り難い。
ラバーカップだけでは1体躱すのがやっとだからだ。
 早速、水鉄砲に漂白剤を詰め込んでみようとした。
しかし、粘性が強いので水で少しだけ薄めようとした、こうしないとちゃんと飛んでくれないのだ。
 だが店内にはミネラルウォーターの類も、炭酸飲料も無い。
 どうしたもんだろうかと考えていた友康は”そうだ”とある事を思い付いた。
 コンビニのトイレにある貯水タンクだ。
使われていない可能性が高いと思ったのだ。
店内の商品を強奪に来たのなら、のんびり用を足さないでさっさと逃げ出しているに違いないからだ。
 友康は店内に散らばっている、空のペットボトルを拾ってトイレに向かった。
 トイレは店の奥にある。
そっとドアを開けると中は当然無人だった。
 そのままトイレの中に入り、タンクの中を覗くと水が入ったままだった。
日にちが立っているせいか少し異臭がしていたが、漂白剤が薄まってくれればいいので、そのまま汲み上げて水鉄砲に入れた。
「よっしゃ、これである意味無敵だな」
 店内の鏡に向かって、水鉄砲の大きい奴を背中に背負い、小さい奴2つを両手にして構えて見せた。
「……よし!」
店内の食料を探してみたが碌な物が無い、それでも店の隅に転がっていた缶詰めを見つけて早速食べる。
いつもの「ぬこまっしぐら」だ、今回はコンビニなので調味料の醤油があったので、それを掛けると少しだけマシだった。
 その缶詰を食べながらめぼしい物を集めて回り、そして店を出ようとしたら入り口の辺りにはもう不死者たちが居た。
 だが、友康は慌てなかった。
「ふふふ、俺にはコレがあるのだよ……」
両手に持った水鉄砲を構えて不敵に笑う友康。
 まず、店の前に居た不死者を漂白剤で追い払い、バリケード替わりの商品棚をどけて表に出た。
 そして、近づいてくる不死者に次々と漂白剤を浴びせ続ける。
そんな使い方をしているものだから、直ぐに両手の漂白剤が切れてしまった。
「まだ、コレがあるのだよ……」
今度はデカイ水鉄砲を構える、そしておもむろに引き金を引いた。
”チョロッ……”
噴射口からは僅かな液体しか出て来なかった。
「……え?……あれれ!?」
噴射ポンプにちゃんと空気が貯まっていなかったらしい。
「うがああああ!」
不死者たちは、そんな事情にお構いなく友康に近づいて来る。
 そこで友康はコンビニに戻ろうとしたが、すでに道は他の不死者に塞がれていた。
「あああああ、まずいぃぃぃぃ」
取り敢えず不死者の少ない方角へと友康は走り出した。
 生存者が残り少なくなってようで、アチコチの路地から不死者たちが湧いて出てくる。
 どこかのビルに逃げ込もうにも、直ぐに不死者が出て来てしまう。
「ちょ、逃げ道が無くなっていく……」
 後ろを振り返ってみると不死者たちも走ってくる。
「くそっ!なかなか引き離せ……え?……えぇっ!?」
もう一度振り返ると、やはり不死者たちは走っている。
「う!嘘だろう……! どーして走ることが出来んだよぉぉぉぉ!!」
 足を引き摺るようにしか移動が出来なく、しかも遅いと思っていた不死者が走っている、全ての個体ではないが何体かは走って追い掛けて来ているのだ。
友康は走りながら絶叫し、人生何度目かの絶望感を覚えた。
何しろ彼等には感覚が無いから疲れを知らない、先に体力の無い友康の方がバテてしまうに違いないからだ。
 やがて橋に差し掛かった。
橋の上には護送車やバスなどで作ったバリケードが見える。
「をを、バリケードが見える、誰かいるかも知れない」
しかし、期待したバリケードは無人だった。
「じゃあ、橋を渡れば……ああ! 穴が開いていて通れない!」
 遠目には判らなかった橋の状態に友康が嘆いた。
橋は穴だらけになっている、舗装があってもヒビが入っていていかにも崩れそうだ、これでは走ろうが歩こうが渡れない。
 誰も渡れないのなら、不死者も渡れない、だからバリケードは無人だったのだ。
そう、ここは”宮前橋”……前原達也が路面を吹き飛ばした橋だ。
 しかし、他に道らしきものは無い、後ろからは走る不死者が迫ってきている。
”あわわわ……バス……あれに逃げ込んでしまおう!”
橋に残されていた壊れたバスを目指し走りだす。
 友康は時間稼ぎをしようとポケットからパチンコ玉を取り出そうとした。
スリングショットで使う為だ。
 しかし取り出すタイミングで、追い付いて来た不死者に腕を捕まえられてしまった。
「ええい! 離せっ!」
 腕を振り払った拍子にポケットが破れ、パチンコ玉を落としてしまう。
するとズルッと不死者が落ちたパチンコ玉で転んでしまった。
後続の不死者たちも次々と足を取られて転んでいく、まるでコントのような光景に友康は笑いながら言った。
「うはは……次はバナナでやってやんよぉぉぉぉ」
それを横目で見ながらバスの開閉部から中に飛び込んだ。
 そして、扉を閉め……閉め……おや?

 扉が無かった。

「ええ!? なんでぇぇぇぇ!!」
入り口付近をベタベタと触りながら驚愕し絶叫する友康、しかし不死者たちは待ってはくれない直ぐそこまで来ていた。
「……んなアホな!」
 外に出る余裕が無いと考えた友康は、そのままバスの奥の方まで移動する。
 そして時間稼ぎになるように、バスの通路を挟んだ座席同士を針金で結びながらだ。
不死者は針金を解くことが出来ないし、しゃがんで回避する事も出来ない。
 そしてバスの後部の非常口にたどり着いた時には、不死者たちは続々とバスの中に入って来ていた。
「うがああああ!」
友康の傍に来たので叫びだす不死者たち。
「ひぃぃぃぃぃ」
 友康は震える手で非常口のカバーを外して、迷わず中の赤いレバーを引いた。
”ビーーーーッ!”
 ひときわ大音量で鳴り出す非常口のブザー音。
不死者たちは益々興奮して、此方に向かって来ようとする。
そして針金にひっかかって身動き出来ない不死者を、後ろから来た他の不死者たちがぎゅうぎゅうと押し込んでいる。
 やがて針金にかかっている最前の不死者の体が”ぶちぶち”と音を立てながら切り刻まれ始め、その内臓が床にぼとぼとと落ちていく。
「うへぁぁぁ」
 自分で仕掛けたにも係わらず、そのグロテスクな光景にたまらず非常口から飛び出してしまった。
 しかし、そこには期待した道路は無く、目の前に有るのは川面だった。
「……おわっ? ……橋が無い!?」
 バスは川に向かって脱輪していて車体の3分の1程はみ出ていた、慌てていた友康は其処まで見ていなかったのだ。
そして川に派手に”タッパーン!”と、如何にも痛そうな音で落下した友康は、更に慌てて手足をバタバタした。
「ぶお……お、泳げない……んご……おろ?」
 しかし、友康は川にプカリと浮かんでいた。
水を保管しようと集めておいた、空のペットボトルが浮き輪の代わりになっていたのだ。
「をを……助かった……もったいない精神の勝利だね」
 友康は川に浮かびつつ対岸にたどり着いた。
 川の土手に寝転がり飛んでゆくヘリを見ながら、取り敢えずどこかに籠城しようかと友康は考えた。

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