忍者ブログ

終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第18話 操る構造体

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

第18話 操る構造体

松畑隆二が子供たちを、無事に連れて帰ってくると、鈴木温子が歓喜しながら出迎えてくれた。
「先生って強いんですね、監視モニターで見ながら応援してました」
隆二の意外な一面を、知ってはしゃぐ温子。
「えぇ、通信教育で空手を習ってましたからね」
隆二は得意げに、前髪をかき揚げながら言った。
「おぉ、それは凄い!」
全員が揃って褒めてきた。
どうやら隆二の渾身のギャグは滑ったようだ。
「……え? ……コホン」
 軽く咳払いをして、隆二はこれからの事を、話し始めた。
「とりあず食糧とか飲料水の確保とかあるのですが、木村さんお願い出来ますか? 僕は柴田先生と病原ウイルスの特定に専念したいんです」
隆二は、一番生活力の有りそうな、木村にグループのリーダー役を求めた。
「ああ、任せてくれ。先生方はヤツらを、やっつける方法を考える事に、専念してくださいよ」
木村は快く引き受けてくれた、子供たちの事は主に温子が見るそうだ。
 そして、木村は現状を把握すると言って、研究棟の設計図を調べ始めた。
 この研究棟はソーラーパネルを持っていて、例え隔離されていても自前で電源を配給できるようになっている。
そうしないと、病原体の漏洩(バイオハザード)が起きた時に、停電にでもなったらシャレにならない事態になるからだ。
水も地下水を汲み上げているし、中水(トイレの洗浄などに使われる)は循環水を使っているようだ。
電源は当分問題ない、食料さえ手に入れば、ここは理想的な籠城場所だなと木村は思った。
 隆二は、柴田や看護師の冨田奈菜緒・宮沢夏帆らに、今後のウィルス採取について意見を求めた。
「私は不死者の発生は、ウィルスの変異体だと考えています」
隆二はウィルスに関する観察経過を説明した。
「ウィルスだと考えると、感染は体液による感染でしょう、だからこそ彼等は噛みつきたがる」
柴田は先の戦闘中に感じていた事を話し始めた。
「奴らの血を多少なら浴びても平気なようですし、唾液以外では感染力はなさそうですね」
冨田は戦闘中に、何度も返り血を浴びていた。
しかし、時間が経っても発症しないので、不思議に思っていたのだ。
「ただし、噛まれて即座に発病することから、 血中に入ってからの、増殖速度がかなり強いものかと思います」
隆二は、ここに逃げ込んだときに見た、不死者に噛まれた中年男性の事を話した。
「ふむふむ、という事は、ウィルスは患者の唾液中に、多く存在するんですね」
柴田はこれまで見て来た、不死者たちに噛まれた者たちが、不死者になる様子を思い浮かべた。
「確か人間の心臓が送り出す血液は、1分ぐらいでまた心臓に帰ってくると、言われていますね」
横から温子が、人間の血液循環の説明した。
「その半分の速度として、最速30秒で脳に到達するのか……それで不死化するのに、個人差があるのか」
隆二は観察していた時の違和感を思い出して言った。
「それでも驚異的な速度で、体を乗っ取られてます、恐らく脳幹や海馬あたりに、潜んでいると考えられますね」
柴田が隆二の観察から得た結果の所感を言っている。
ただ、どうやって人間を操っているのかは不明だった。
「まるでデタラメなウィルスですね」
宮沢夏帆が溜め息混じりに呟いた。
「……これは自然のものではないのかも知れないね」
柴田が言った。
「バイオ兵器の流出事故、とも考えられますが、推定している発生場所が、壊滅状態なので、原因を特定できません」
隆二が何処とも連絡が取れて無いことに言及する。
「生存に適していて、尚且つ能動的に、場所を移動出来、しかも虚弱な生物……彼らにとって、人間は非常に優秀な培養場所なのですよ」
柴田は、このウィルスの小賢しさに舌を巻いたのだった。
「つまり、自分を複製し続ける……それのみに特化したウィルスです、その為に宿主の意識を乗っ取り、複製させるための行為=噛みつきを、やらせているのです」
これまでに、判明している事を、隆二は纏めてみせた。
「勿論、今のところ、観察した結果での推論にしか、過ぎません」
隆二の話は核心になりつつある、もし皆に嫌だと言われたら一人でやらなければならなくなる。
「そこで、確かめる方法は只一つ」
隆二が捕獲の事を話そうとした時。
「ヤツらを捕まえるんですか?」
木村が事も無げに言った。
「はい、是非とも協力を御願いします、我々は不死者ウィルスを特定し、対不死者ワクチンを作りだし、ヤツらを無力化しなくてはなりません」
隆二はグループ全員を見回しながら言った。
 恐らくまともな研究室で、この不死者ウィルスの探究を出来るのは、自分たちだけであろうと考えていたのだ。
「どうやって捕まえるんですか?」
温子が、あの恐ろしい不死者相手に、どう立ち向かうのかを聞いてきた。
「ゴミ箱を被せるんです、噛まれなくなるから、色々と応用が利いて便利ですよ」
隆二はゴミ箱作戦を説明した。
「ああ、2階でやってた方法ですね、不謹慎でしたが笑ってしまいました」
隆二が木村たちを助ける様子を語って聞かせた。
「その方法は良いですね、それでいきましょうよ」
木村はゴミ箱作戦が気に入ったようだった。
 警備室を出て、1階へ通じる階段の所に、不死者が居るので、そいつを捕まえる事にした。
温子が研究棟に逃げて来た時に、一緒になって逃げていたが、捕まってしまった女性の不死者だ。
 その女性はOLだったのだろう、薄いクリーム色のスーツ姿で、階段に差し掛かるホールに居た。
首と肩に噛まれた形跡があり、スーツには血の飛沫が見て取れる。
 木村はパイプ椅子を手に持って、隆二の合図を待っている。
そして隆二は柴田の合図を待っていた。
その廊下にはクリーム色スーツの不死者以外もいる可能性があるので、柴田に探って貰っているのだ。
”ヒャッハー ガスッ!”
 何度か聞こえてくる音に、柴田が無双状態に成っているのが、手に取るように解る。
そういえば冨田さんが言っていた、”柴田医師に斧を渡すと変なスイッチが入る”ってのは、このことだったのか……と、隆二は納得した。
 暫くすると廊下の奥から、柴田がニコニコしながら現れて、『もう大丈夫』と言ってきた。
 そこで隆二は、捕獲チームに開始を告げた。
木村がパイプ椅子で押さえつけ、隆二がゴミ箱を被せて、冨田がガムテープで拘束する手筈だ。
柴田には万が一に備えて、周りの見張りを頼んでおいた。
 隆二が手許にあったプラスチックのコップを、不死者の斜め前に投げつける。
カラカラと音を立てて転がったコップに反応して、不死者はそちらに行こうとした時、木村がパイプ椅子で押さえつけた。
そのタイミングで、隆二がゴミ箱を被せて、冨田がテープで手足をぐるぐる巻きにした。
「これでひとまず安心です、警備室の隣の研究室に入れておきましょうか」
隆二たちは不死者を台車に載せて、研究室に運んだ。
 その研究室にはクリーンルームがあり、閉じこめておくには都合が良かったのだ。
 取り敢えず、柴田医師と手分けして、体温を計ったり心音を計ったりしたが、全て無かった。
不死者は、医学的には死亡しているのが確認できたのだ。
 そして、不死者の唾液から、ウィルスの分離を試みる。
「そいつを押さえつけてください」
隆二は暴れる不死者の口に、長いスポイトを差し込み、その唾液を採取した。
サンプルを採取した不死者は、一時的に使用しない研究室に閉じ込める事にしてある。
勿論、ゴミ箱は被せたままだ、これなら万が一逃げ出しても害はない。
それに後で、ワクチンの効果を確かめるのに、不死者は必要になるからだ。
「この顕微鏡で見つけるの?」
柴田は研究室に置いてあった、光学顕微鏡を指差した。
「先生! ほとんどウイルスは 300nm以下と非常に小さくて、電子顕微鏡でないと見ることは出来ません」
冨田は柴田を諭し、その向かい側にある、馬鹿でかい装置を指差した。
導入されたばかりらしく、ピカピカで操作パネルには、様々なボタンとスライダーが並んでいた。
「さぁな。使い方がわからん、私は外科医なもんでね」
柴田はボタンが3つ以上付いた装置は苦手なのだ。
「大丈夫、時間ならいくらでも有りますから、ゆっくり覚えてください」
隆二は操作する順番を、紙に書いて冨田に渡した。
 冨田は仕事が出来た事を、嬉々として操作に専念している。
隆二が操作すれば何倍も早いのだが、電子顕微鏡で撮影された画像の検証に専念したいのだ。
 そして、柴田と作業を始めてから、何時間かたった頃に柴田がぽつりと呟いた。
「うーん。これは本当に珍しいですね。と言うより、これまで見た事がない」
と、柴田は1枚の画像見ながら、頭をぽりぽりと掻いた。
 そう見つける事は簡単だった。
 そのウィルスは、常識的な形状も大きさもしていなかったのだ。
これでは、常識に縛り付けられている、学者たちには無理だったろう。
「これだな……しかし、大きさがデカいな」
ピラミッド構造を2つ張り合わせたような、不死者ウィルスを眺めながら隆二は呟いた。
”どうして人間だけなんだろう?”
 隆二は構造体を見た時、不思議に思った。
”もし、猿などを宿主にしていたら、人間なんか敵わなかったろうに……”
猿の戦闘能力は非常に高い、素手だと1対1では敵わないだろう。
 しかし、この構造体が選んだ相手は人間だった。
その不可解な感染方法に疑問を抱いた。
そして、他の哺乳類に感染するか、確かめる必要に気がついた隆二であった。
PR

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

プロフィール

HN:
もすげん
性別:
非公開
自己紹介:
メールアドレスを教えて貰えれば次話投稿の時にお知らせします。

mosgen4989@gmail.com


登録しているSNSです、更新の告知などしています
フェイスブック
@DIARY
もすげんツィッター

ランキングバナー

クリックして貰えると助かります。


小説・詩

http://ept.s17.xrea.com/WanNe/rank.cgi?mode=r_link&id=11150

リンク

P R

コガネモチ

忍者カウンター