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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第17話 人生は平均値

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第17話 人生は平均値

期待して、たどり着いたスーパーだったのだが、中には何もない空間が、広がっているだけだった。
恐らく近隣の生存者たちが、漁って行った後あろう。
 栗橋友康は、まだ残っている物がないかと、中に入って物色しようと、ガラスの割れた入り口から入った。
スーパーの中は静まりかえり、友康が歩く都度、バスケットシューズのゴムが、キュッキュッと音を出しているのみだった。
自分の出す靴音に、友康はビクビクしながら、商品棚からそっと首を出して、様子を窺って見ると、通路に不死者が1体見える。
 その不死者は下半身を、倒された棚に挟まれて、足掻いていた。
こちらを見つけてる様子は無いし、彷徨って来る事もなさそう、取り敢えず危険は無さそうだ。
 大抵のスーパーでは、天井付近に何を置いているコーナーなのか書いてある。
それで陳列している場所が、分かるものだが、ここでは中央の方の棚は、全て倒されている。
 恐らくは不死者除けの、障害物として使ったのだろう。
不死者たちは跨ぐとか、潜り抜けるといった動作が出来ない。
目標に対して、直線的にしか行動しないのだ。
 棚の中身は取り除かれており、全て端っこに積み上げられて、段ボールに入っていた。
ガサゴソと中を漁って見てみたが、直ぐに食べられる物は、残されてはいなかった。
 それでも懐中電灯・ライター・猫用缶詰などを、見つけ出して、入り口に落ちていた、子供用リュックに詰め込んだ。
そこを、あとにして奥に進むと、少しだけ広い空間に出た。
開いている空間には、奥から引き摺り出してきたのか、 事務机などが数段積まれていた。
ここに籠城していた人は最後まで、諦めなかったのだろう。
 最後の砦(机)の周りには、破壊された不死者たちの、残骸が散らばっていた。
友康は砦の奥まで行くことにした、ここまでロクな収穫物が無いのだ。
どう見ても籠城の後だ、何がしか残っている可能性はある。
 奥の方に行くと暗いので、タオルでほっかむりをして、頭の部分に懐中電灯を括り付けた。
これなら両手が使えるし、 顔の向きに従って回転して、前方を照らしてくれる、頼もしい光源だ。
これが特殊部隊だったら、手に自動小銃とフラッシュライトを持って、蒼然と偵察するのだろう。
友康の場合は、ラバーカップとやっすい懐中電灯とタオルのほっかむりだ。
まあ、見てくれは格好悪いがしょうがない。
明かりがあると、視界が開けるのは、言うまでも無いが、同時に見たくない物まで、はっきりと見えてしまう。
 その部屋には、子供と思われる遺体と、成人女性と思われる遺体が有った。
子供の遺体には、何れも頭付近に、損傷が有るので、母親がトドメを刺して、自分も自害したのだろう。
友康は、これが本当に現実なのか、俄には信じられなかった。
「ぐぅ……酷すぎる」
青白い顔で思わず手を合わせて、彼等の為に冥福を祈った。
 その後、籠城の後を見て回ったが、見事に何も無かった。
食料や物資などが無くなり、外に行こうとして、バリケードを解いたタイミングで、襲われたって所だろうか。
もうスーパー内で、生きている人間は、居なくなっているのだろう。
 ほとんどの人間は、死んだか逃げたかで、ここからは消えている。
 友康は立ち上がって、スーパーのバックヤードの方へと移動した。
商品や惣菜などを、店先に陳列する前に、ここで下処理をする場所だ。
高校に入ったばかりの時に、アルバイトで来た事がある。
表の商品は略奪されているが、普通の客には馴染みの薄いバックヤードなら、まだ残っていると、友康は考えていた。
 入り口近くから入っても良かったのだが、唸り声が聞こえていたので、奥の出入り口から入った。
出入り口から入って、先程の光景で受けた動揺を、必死に抑えながら周囲を見回す。
生鮮食品が山積みされていたが、全て腐って異臭がしていた。
 するとあるものが目についた。
まるで鉈のようなデカい包丁だ。
他にも色々とある、さすが商売で、食いものを作っている調理場だ、包丁の品揃えも良い。
友康は、そのうちの二本を、そばに有った布で包み、それごと腰のベルトに挟み込んだ。
 一番大きい一本を右手に持ち、 床に落ちているモップに、縛り付けようと考えた。
そして槍にしようとして、モップを足で蹴って折ろうとした。
「ぁうっ! 痛ててて……チクショウ」
友康は足を押さえて、片足で跳ね回り、のたうち回った。
やはり、カッコ良く折れないものだ。
仕方ないので、先っぽに包丁を、縛り付けて槍のようなモノにした。
 すると、いきなり調理場の扉に、大きな音が響いた。
一瞬びくっ、となる友康。
「うぐぅああああ!!」
野生の獣のような声が、奥のヤードから響いてくる。
「不死者だ! 奥にいやがったのか!」
取り敢えずラバーカップで、扉が開かないように、扉の取っ手に挟み込んだ。
 その刹那に不死者が扉に、体当たりして来た。
間一髪間に合ったが、このままでは持ちそうにない。
友康は恐怖に押しつぶされそうになったが、 必死に気持ちを抑え、何か利用出来るものをと、自分の周りを見渡した。
調理台の処に、食材を運ぶストレッチャーがある、これでバリケードを、作る事にしてストレッチャーを動かし、扉の前に置いた。
タイヤにストッパーが付いているので、ある程度は役に立つだろう。
次に友康は重い調理台を動かした。
金属同士が、ぶつかる衝撃音が鳴り響き、扉の揺れが激しくなっていく。
調理台が、扉の前に置かれた瞬間に、扉の鍵が壊れ、隙間から不死者の白く濁った、大きな目が覗いた。
「うぐぁああああ!」
友康に向かって、吠えて来る。
まるで、『悪魔』だ。
どう見ても、調理台だけでは、押さえきれないだろう。
不死者は何が何でも、友康に噛み付きたくて、堪らないのだ。
力任せに扉を開けようと、グイグイと押している。
そして、頑丈に作られていない、扉の隙間は段々と大きくなっていく。
 そこで友康は先ほど、自作した槍で不死者を突こうとした。
”ガンッ”
が……モップの形状が邪魔して刺さらない!
「ああ、役に立たない!」
だが、気がついた、向きを横じゃなくて、縦にすれば良いじゃないか。
「こっちか!」
モップを持ち替え向きを縦にして、扉の隙間から見える、不死者に向かって力一杯に突いた。
”ゴトッ”
……”グサッ”でも”グチュッ”でも無く、聞こえた音は”ゴトッ”だ。
「へ?」
モップを隙間から抜くと、包丁が無くなっている、縛りが甘くて取れてしまっていた。
「な、無い! そんなああ」
さっき聞こえた”ゴトッ”は包丁が落ちた音だったのだ。
「ぐぁああああ!」
不死者が、扉に体当たりしながら吠えている。
「……くそ、どうすればいいんだ!?」
 取っ手に挟み込んだ、ラバーカップが折れそうに、なっているのを見た友康は焦った。
ふと床を見ると、調理用のガスバーナーが落ちている。
食材に焦げ目を付けるときに使う奴だ。
すぐに手に取り、ガスバーナーに火をつけ、隙間から覗く、灰色の顔へ火炎を放射した。
 しかし、高温の火炎をもろに、顔で受け止めた不死者は、まるで意に介さないで吠えている。
痛みの感覚が無いのだから当然だろう。
 炎で焼けていく、不死者の顔は、益々恐ろしくなっていく。
「ぬあああ、それって反則だろう! 」
 そこで友康は、調理台の上に有った、漂白剤を不死者に浴びせた。
これは効いたらしい。
不死者は、首を絞められた鶏のような声を上げ、一目散に逃げていく。
「うひょ? やったぜ! 火には強いが、塩素系の、薬品には弱いのか!」
去ってゆく不死者の後ろ姿を見ながら、友康は勝ち誇った顔でそう言った。
恐らくは、嗅覚を失うのが嫌なのだろう。
 取り敢えず、弱点らしきものが、解ったのは収穫だ。
食べ物が無かったのは痛いが、猫用の奴は手に入った、目を瞑って食べれば問題ない(はず)。
次は避難所を目指そうかと、漠然と考えていた時、”この辺の避難所って、どこだっけ?”と思案した。
災害時にはどーたらこーたらと、市の広報誌に載っていた気がするが、生憎と覚えてない。
 アバウトに小学校を、目指そうと決める事にした。
どちらにしろ、ここから出るのなら、今しかない。
あれだけ大騒ぎしたのなら、外にも響いていたはずだ。
他の不死者たちが、集まってくるのは、時間の問題だろう。
 扉の取っ手から、ラバーカップを外し、漂白剤をリュックに入れ、背負い直した。
バックヤードから顔だけだして、出入り口の様子を見てみた。
スーパーの出入り口には、先ほどの騒ぎで不死者たちが、かなり集まって来ていた。
 友康は、そのままバックヤードから、トイレにそっと移動した。
そのまま、従業員用の出入り口から、外に逃げようと考えたのだ。
しかい、ちょっと落ち着いた所で、少々催してきたのを覚えた。
例え世界が、終焉になりつつあろうと、人間の生理現象は無くならない訳で、人生を平均値で過ごす事を、人生の基本としている友康も、例外では無い。
 どうせ気にする人など、いないのだから適当な場所で済ませば良いのに、トイレで用を済ませようとしている。
しかし、例え急いでいようと、警戒を怠らない、何しろ油断が自分の死と、直結しているのだ。
廊下を観察して、不死者たちが居ないことを確認して、トイレのドアを静かに開ける。
薄暗いトイレ内は、静まりかえっていた、友康は個室の一つ一つを、端から覗いて行った。
そして不死者たちが、居ないことを確認すると、安心して個室の一つに入った。
 ロクに食べられないのに、出るもんは出るんだなと、妙に感心していた。
友康が最近食べたのは、袋詰めのドッグフードだ、乾燥しているので、口の中の水分が全部持っていかれて、困ったのを思い出した。
今度は調味料を手に入れよう。
 ペットフードは、元々人間用ではないし、塩分が控えめで、あまり美味くない。
後、温める手段も、考えないといけないかも知れないな、などと回収した猫缶の事を考えていた。
次の行動計画を決め、出すものは出したので、トイレの個室を出ようとドアを開けた。
「おが!?」
目の前には、不死者が2体もいる。
「うがああああ」
こちらに、気がついているのだろう、唸り声を上げながら近付いてくる。
 しかし、ここは逃げ道が無い、窓はないし行き止まりになってる。
いきなりの絶体絶命に、友康の額から脂汗が出てくる。
いつもこうだ、もう安全だと安心すると、直ぐに次の厄介事がかかってくる。
しかし、嘆いても状況は良くならないのは、経験上判っている。
「くぅ」
 友康は覚悟を決めた。
「うおぉぉぉぉ!」
唸り声を上げ、ラバーカップを振りかぶり突撃した。
一番近くにいた不死者は、こちらに手を伸ばし近寄ってきたが、ラバーカップで手を振り払い、スーパーの買い物袋を被せた。
「くそったれがぁぁぁぁ!」
買い物袋を掴んだまま、不死者の頭を壁に叩きつける。
 二体目は横から噛み付こうとしてきたので、その顔にラバー部分を被せて、顎目掛けて下から包丁を一突きした。
”グヂュ!”っと音がして包丁がめり込む。
「俺は腹が減ってるんだぁぁぁぁ!」
そのまま下から上へと、不死者の顎に更に包丁を突き出す。
顎から頭の内部に、包丁が突き刺さって、やっと不死者は活動を止め崩れ落ちた。
肩で息をする友康の耳に、廊下の奥の方から、続々と不死者たちが、集まって来る音が聞こえ始めた。
かなりの数に聞こえる、ここで囲まれると不味い事になるので、さっさと移動しようと、リュックを肩にかけた。
男子トイレを出た所に、駐車場に面した小窓がある。
友康は、その小窓からそっと抜け出し、スーパーを後にして、無人の街へと歩き出した。
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