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終焉のコドク

自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。

第42話 ニートブラザーカクテル

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第42話 ニートブラザーカクテル

 栗林友康は銃弾が通じない強化不死者対策にある物を作ろうと考えていた。
 まず、屋上に行って風車を自作し、その軸にアルミ缶をくくりつける。
そうしておいてアルミ缶の下にヤスリを置いた。
こうしておくと風の力で風車が回転して、その力でアルミ缶を削る事が出来るのだ。
 すると友康が作ろうとする物の原料の一つ、粉末状のアルミが手に入る。
”キーキー、シャッシャッ” と煩いのが難点だ。
 次に用意したのが下剤の一種である”カマグ”。
 冨田看護師に聞いて薬品室の棚から調達してきた、主成分は酸化と燃焼の実験でおなじみの酸化マグネシウムだ。
 友康は粉末アルミ単独では爆発的に燃焼してくれないので、酸化剤を添付して燃焼を促進させようと考えた。
 本当はフェノールフタレインが欲しかったのだが、発がん性が明らかになったため現在は使われていないので手に入らない。
 次にオムツをバラして、中身の吸湿剤を取り出してガソリンに浸した。
 そのガソリンを吸い込んで膨らんだ吸湿剤に、酸化マグネシウムとアルミ粉末を混ぜ合わせて、ガチャガチャのプラスチックのカプセルに詰め込んだ。
 粘着材を付加したのは、対象に張り付いて確実に燃焼させる為だ。
 そう友康が作っていたのは簡易型粘着性テルミット反応爆弾。
 自己燃焼するので水でも消火剤でも消せない凶悪な焼夷爆弾だ。
 そういえばベトナム戦争の時に、アメリカ軍はナパーム弾の事を”ヌー夫人のカクテル”と呼んだそうだ。
”これはさしずめニートブラザーカクテルと呼ばれるんかね?”
 友康はそんな事を考えながらひとりニヤリと笑った。
 本当は小銃から発射できると便利だが、工作機械の無いここではちょっと無理だった。


 そんな事を考えながらニヤニヤしていると、前原達也が屋上に上がって来た。
「なに怪しげな物を手に持ってニヤついてるんすか?」
 前原達也がお握りを差し出しながら言ってきた。
「あ、ありがと……これはテルミット反応爆弾ですよ」
 友康は達也が差し出したお握りを貰って、代わりに出来上がったばかりのテルミット反応爆弾を達也に手渡した。
「火が付いたら三千度くらいで燃え上がりますから、強化不死者と言えども燃やす尽くす事が出来るはずですよ」
 友康は”はぐはぐ”とお握りを食べながら達也に説明した。
「……お前、すげぇな」
 達也は手にしたカプセルを見ながら呟いた。
そして、お手玉のように右手に左手にと持ってみた。
「ああ、火がつくと消しようが無いですから気を付けてくださいね」
 友康はそんな様子を見て一言つぶやいた。
 燃焼系が自己完結してるので、水だろうと消火剤だろうと消せない、燃え尽きるまで待つしかないのだ。
「むぉ!……」
 達也はビクッとして、慌ててテルミット反応爆弾を友康に返した。
「後で、試験に付き合ってくださいよ。 強化不死者に効くか確かめないとイケナイのですよ」
 友康は達也の様子を見て笑いながら試験の手伝いを頼んだ。
 自分一人だと万が一これが効かなかった時に対処に困ってしまうからだ。
「お、おぅ……後で片山隊長に聞いてみる」
 達也は友康の隣にしゃがみ込んでテルミット反応弾の数を数えていた。
「これはどうやって使うの? ぶん投げれば良いの?」
 さっき持った感じでは軽めな印象を受けたので、投げても割れるのだろうかと達也は考えた。
「いや、このスリングショットを使おうと思っているんですよ」
 以前に自転車のタイヤのチューブで作ったスリングショットを持ち出して来た。
「安全策用のリボンを引き抜いてぶつければ良いだけですよ」
 カプセルからぶら下がってる小さい赤い布きれを指差しながら解説する。
「着火用のピンをリボンに付いているプラスチックの板が防護してるんですよ」
 友康は着火させる仕組みを説明し始めた。
「ぶつかってカプセルが壊れれば、中の溶剤が混ざって発火する仕組みになってるんですよ」
 溶剤の入った袋が破けて発火する仕組みを説明した。
「……なんでそんなに詳しいんだよ」
 達也はラバーカップスタンガンを、簡単に手作りしてしまう友康に聞いてみた。
「大昔にあった安保闘争の時に流行った、火炎瓶の作り方を真似してるだけですよ」
 実際には、そんなには作成されなかったらしいが、作り方のヒントみたいな物をネットで見て記憶していたのだ。
「だから、強化不死者の足元を撃って行き足を止めて欲しいんですよ」
 友康は強化不死者の走りの速さを知っているので、それの阻害を頼みたいらしい。
「そのスリングショットで狙いは付けられんの?」
 達也は友康の持っているスリングショットを指差しながら聞いた。
「そんなに上手じゃないんでね、止まってないと当てられる自信が無いですよ」
 運動系が壊滅的に苦手な友康は照れながら言った。
「ははは、了解……ちょっと待って連絡する」
 達也は片山隊長に友康から試験の支援要請があると報告し許可を求めた。
 片山隊長は自分も立ち合うと言って、東雲隊員と小山隊員も連れて来た。
「また、面白そうな事を企んでるそうですね」
 東雲が笑いながら友康に語りかけていた。
「旨く行けば、あの厄介な強化不死者をやっつけることが容易になりますよ」
 友康はテルミット反応弾の説明を、集まった隊員たちに最初から説明した。
 片山隊長は強化不死者を選ぶ役を東雲に命じた。
先日の老人ホームでの戦闘で、ある程度は選ぶ目安を付けられるようになったからだ。
 友康は選んだ強化不死者を誘導する役だ、彼は強化不死者の人気者だ。
 そして達也には何が何でも友康を守れといった。
「それじゃあ、疾病センターの裏通りに行ってみましょうか?」
 疾病センターの表通りには、雑多な不死者が彷徨いている。
 数が多すぎて一辺に来られると厄介な事になるので、裏通りに人ひとりが通れるような区画を作って試験しようという事にした。
 打ち捨てられていた車をバリケードの様にして、その陰に隊員たちは陣取った。
「あれにしましょうか?」
 東雲は茶色いサマーセーターを羽織った、女性らしき不死者に目星を付けた。
走る不死者特有の行動をしているし、何よりも女性であるからだ。
 何故なのかは解らないが、男性の走る不死者を見たことが無い。
 強化不死者は走る不死者の上位バージョンだと思われるから、男性の強化不死者はいないのかもしれない。
”そう言えば男性の走る不死者って見たことが無いな……”
 友康はそんな事を漠然と考え、後で隆二に質問してみようと決めた。
 片山隊長が頷き試験の開始だ、東雲がヘッドショットを決めてみる
”バスッ!” 篭もった音がして、サマーセータの不死者は頭が吹き飛んだ。
「あれ? 違ったか じゃあ次はあれだな」
 次々とそれらしい不死者を射撃していく、しかし、強化不死者に当たらない。
”望んでいないときには現れる癖に……”
 東雲がそんなことを考えながら、次に落ち武者のようになった金髪の女子高生風の不死者に狙いを定めた。
”バスッ!” ”キンッ!” その落ち武者女子高生は小銃弾を弾いた。
 強化不死者だ。
「キシャァァァァッ!」
 不意な銃撃にひどくご立腹のようだ、周りを威嚇するように咆哮している。
 生前は短気な女子高生だったに違いない。
「うわあ、僕が一番苦手なタイプですよ……」
 友康がその強化不死者を見ながら言った。
「んー、あの手のタイプが得意な奴ってあんましいないと思うけど……」
 東雲がぶるっとしながら言った、きっと何か思い出したに違いない。
”うむ、これは後で問い詰めねば” と友康は心に刻んだ。
 東雲がもう一度、落ち武者女子高生を銃撃する。
”バスッ!” ”キンッ!”
「キシャァァァァッ!」
 どうやらこちらに気がついたようだ。
静まりかえった空虚な街の空間に、強化不死者の甲高い吠え声が響いた。
ガラスの表面を針で引っかいたような、神経を逆なでする奇声だ。
 友康が車の陰から身を乗り出して手を振ってみる。
「ィギャッハハハハ!」
 強化不死者はすぐに友康に気が付いて、例の笑い声のような咆哮を始めた。
そして、友康を目指して走り出してきた。
「やはり、強化不死者のアイドルは違うな」
 達也は笑いながら落ち武者女子高生の胴体を銃撃した。
行脚を遅くしてほしいとの友康のリクエストだからだ。
強化不死者は着弾の衝撃で体がクルリと回転したが、すぐに向き直って此方に向かって来る。
「じゃあ、片足を集中して狙うか」
 達也は片方の足だけを集中して狙ってみた。
今度は旨く行ったらしく、ギクシャクとした歩き方に変わった。
 恐らく関節にダメージいったのだろう。
「ィギャッハハハハ!」
 それでも強化不死者は友康目指して歩いてくる。
 友康はスリングショットにテルミット反応弾をセットして慎重に狙いを付けて放った。
”パン!” カプセルが弾けてテルミット反応弾が眩しい光を発しながら燃焼を始めた。
 強化不死者はそんな事は意にも介さずに歩いてくる。
”シュオォォォォン” 燃焼音を響かせながらテルミット反応弾は燃え続ける。
「ィギャッハハハハ!」
 それでも友康を見つけた強化不死者は歩みを止めない。
燃えながらも一歩一歩近付いてくる、ところが後少しと言うところで力尽きてしまった。
手足はビクッと時折動くが、立ち上がることが出来ないようだ。
 やがて、辺りに腐肉を焦がしたような匂いが広がり、強化不死者は動く事を停止した。
「材料の混ざり具合がイマイチだったみたいですね、もっと爆発的な反応があると思ってたんですが……」
 友康はまだ煙を上げ続ける、強化不死者を睨みつけながら言った。
「いやいや、短時間で用意できたのだから大変に優秀ですよ」
 片山隊長は頼もしげに友康の肩を叩きながら言ったのだった。

 

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