自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。
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警備室に意気揚々と戻ってきた片山隊長と栗橋友康の面々。
「この爆弾は期待以上の成果ですね」
片山隊長は友康の作成した、テルミット反応爆弾の成果を警備室に居た全員に報告した。
強化不死者の強さを目の当たりにしていた隊員たちも目を輝かせて喜んだ。
何しろ自分たちの持つ小銃の弾が効かない相手だ。
しかも駆除するのに友康がボーラやスタンガンを、総動員してやっとこさやっつける事が出来た相手だ。
人手も足りない中で弾を贅沢に使わないと倒せない。
しかし、テルミット反応爆弾があれば状況が違う。
これで膨大な銃弾を浪費せずに、あの強化不死者を駆除する目途が付いたからだ。
だが、警備室の全員がにこやかに歓談している中、ひとり松畑隆二だけ浮かない顔をしている。
「どうしたんですか? 松畑先生?」
柴田医師が不思議そうに隆二に尋ねた。
「……ちょっと、不味いですね」
腕を組んで額に皺を寄せて隆二はつぶやいた。
「何がですか?」
柴田医師は隆二の悩み事がわからずキョトンとしてしまった。
それに釣られて警備室の面々も隆二に注目した。
「先ほどの試験の工程の御話を聞いた限りでは、強化不死者を呼び寄せる為に栗橋さんが手を振った……」
隆二が試験の経過説明を続けていると、前原達也がここで頷いた。
「……前にお話しした通り、不死者たちは何ならかの方法で連絡を取り合っています」
警備室に居た全員が隆二の次の言葉に注目した。
「ここに栗橋さんが居るということが、周りの強化不死者に通知されたと見るべきです」
隆二が全員にわかるように説明した。
「あ! しまった!」
片山隊長は隆二が心配している事に気がついた。
「強化不死者たちが集結して、疾病センターを襲撃しに来る……と、いう事ですか?」
片山隊長は強化不死者の群れが疾病センターに群がる様を思い描いた。
今度は隆二が頷いた。
「はい、間違いなく来ますね、なにしろ栗橋さんは彼らにとって不具戴天の仇ですからね」
警備室に居た、全員が唸ってしまった。
「増してや、折角進化させた強化不死者を、栗橋さんはまたもや苦もなく駆逐してしまった、その事も周知されたと見るべきです」
折角のアイデアも問題を複雑にさせただけなのかと友康はがっくりした気分だ。
一難去ってまた一難ではなく、十倍になって却って来た気分だったのだ。
「今からだと救援のヘリを呼べないですね……」
柴田医師が壁にかかっている時計を見ながら言った。
時刻は夕方だ。
夜間でもヘリを飛ばそうとすれば、暗視装置が必要で府前基地にはそれが無かった。
それに屋上のヘリポートをライトアップする手段も無い、ホバリングで全員を拾ってもらう前に強化不死者に襲われたらお終いだ。
何しろヘリはその爆音が近所の不死者を集結させてしまう。
「……何がなんでも殺しに来ると……確かにあの強化不死者に数で来られたら厄介ですね」
前原達也が小銃を握り締めて言った。
ヤツラは素直に死んでくれない、眼孔以外に有効な攻撃ポイントが無い。
老人ホームで今は亡き出川隊員が、その身を持って示してくれた。
斧で首を刎ねようにも達也と小山の二人がかりでやっとこさ切断出来たのだ。
「無駄に頑丈になんだよなあ、強化のヤツ……」
小山が首の切断した時の事を思い出しながら呟いた。
沈黙が警備室を包み込む、だが片山隊長がそんなみんなを勇気付けるかのように言った。
「折角、お客さんが来るんだ。 お持て成しの用意をしないと……」
自分の持つ小銃の弾倉を抜いて、中身を確認してから元の場所に叩きこんだ。
彼の辞書に諦めるという言葉は無いらしい。
”問題を前に足踏みして嘆いていても何も解決しない、それならまず行動するべき” が、片山隊長のモットーだ。
「スリングショットをもっと作りましょうよ、簡単な構造ですから自転車があればすぐに出来ますよ」
友康がスリングショットを手に持ちながら提案した。
手で投げても構わないのだが、投擲を遣りやすいようにスリングショットの方が良い。
ガイドレールが無いと、中々まっすぐに飛ばないのだが、少し練習すれば取得できるだろう。
今は少しでも有効な武器を自作しておく必要がある。
「病院棟の裏手に駐輪場があります、そこで調達しましょう」
冨田看護師がそう告げた。
この地区一帯の高度医療を提供する疾病センターには、来客用の自転車も職員用の自転車も同じ駐輪場にある。
病院棟と研究棟の間にあり、五百台は楽に止められるようになっているのだ。
そして、冨田看護師も通勤で自転車を利用するひとりだ。
「僕と冨田さんで自転車調達してきます」
柴田医師と冨田看護師が連れ立って駐輪場に向かっていった。
もちろん先頭を颯爽と行くのは冨田看護師だ、柴田医師は愛用の斧を持ってしずしずと付いていっている。
「じゃあ、僕は今回取得できたMRIのデータを、世界中の研究者に送信する作業に入ります」
隆二はパソコンのキーボードを叩きながら言った。
無事に帰れる可能性が未定となった以上は、善後策を立てておくべきと考えたのであろう。
送信する貴重なデータはきっと役に立つと信じているのだ。
「ぼ、僕はテルミット反応弾をもっと作ってきます」
友康は先に屋上で作っておいたテルミット反応弾を、警備室の長机の上に置いて屋上に向かって走っていった。
「前原隊員は栗橋さんの警護についてくれ」
片山隊長は達也に友康と一緒に居るように言った、何かあれば友康が真っ先に狙われるからだ。
「了解」
達也は返事をして先に屋上に向かっていった友康を追いかけた。
「小山隊員は柴田さんたちの警護を、東雲は私と一緒に建物の警備を確認に行く、状況を開始する」
片山隊長は隊員たちに指示を与えていく。
「了解」
小山隊員は駐輪場に向かって走っていった。
もうすぐ夜だ、最早救援ヘリを呼ぶことが出来ない、夜明けと共に来て貰うにしても今夜持ちこたえねばならない。
警備室に残った木村は空き箱に、車に残っていたパチンコ玉と手りゅう弾を詰め込んでいる。
”なんちゃってクレイモア地雷”を作ろうとしているのだ。
これがあれば荒ごなしに敵を葬れる、主敵は強化不死者だが、それ以外の不死者も来るのは間違いない。
全部をまともに相手にしていては、あっという間にこちらの戦力が磨り潰されてしまう。
「弾薬の残りのチェック、食料を各員に配布して順次取るように! さあ、長い夜になるぞ」
片山隊長は警備室の時計を睨みながら全員に指示を出して行った。
各人がそれぞれの個性を生かして、今日をそしてまだ見ぬ明日のために生き残ろうとあがいている。
そう不死者たちの天敵は眠らないのだ。