自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。
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前原達也と栗林友康一行は満杯の車で老人ホームを後にして疾病センターに帰り着いた。
疾病センターの門をくぐって建物に到着すると、見慣れた3人組みが待っていた。
松畑隆二は柴田医師・冨田看護師らと共に、ヘリで疾病センターに戻って来ていたのだ。
疾病センターに必要な物資を運ぶ目的もあるが、今回の騒動で判った強化不死者の詳細を調べる為だ。
府前基地には医療設備はあるが、構造解析をするための機器が無いのだ。
「ワクチン量産工場の立ち上げに時間かかりますし、何より強化型不死者の解明が優先されますんで……」
隆二は口元歪めた、冨田看護師が鈴木温子に聞いた処では、これは微笑んでるつもりなのだそうだ。
「また、ご一緒出来て嬉しいですよ」
片山隊長はそう挨拶代わりに言って笑っていた。
3人は達也から受け取った強化不死者の頭を、早速レントゲンにかけてみた。
「嗚呼、なんだコリャ?」
柴田医師がレントゲン写真を一目見て素っ頓狂な声を出した。
「原型は人間なのだが、細部が違っているというか…… 不明な器官が色々と映っていますね」
隆二が喉のあたりを指さして首をひねってしまった。
普通であれば食道が一つあるだけなのだが、明らかに違う管のようなものが密集しているのだ。
「んー、これだけだと解らないなあ……」
柴田医師がため息をついた。
「MRIでもっと詳しい三次元画像を作成して、詳細を検討する必要が有りますね」
冨田看護師が強化不死者の首を持って、MRI室のほうへと歩いて行く。
その結果を待つ間、全員、警備室に移動して休憩をとることにした。
疾病センターで待っていた木村は、小隊の人数が半減していたのを無線で聞いて知っていたが、全員意気消沈しているので黙って迎え入れた。
彼も強化不死者の事を色々と、質問したかったのだが憚られたのだ。
しかし、今は黙っていることにして、老人ホームで保護した老人や女の子たちを奥の部屋に案内していた。
隆二と柴田医師はレントゲン写真を見ながら、アレコレ話し合っている時に片山隊長が口を開いた。
「そう言えば老人ホームで、連中が襲撃して来た時に壁が崩れて来たのはどうしてなんですか?」
片山隊長が一番疑問に思っていた事を口にする。
あんな形での奇襲が無ければ小隊は総崩れにならずに済んだはずだからだ。
「建物自体は耐震設計をクリアする程に頑丈なはずだし、不死者たちの突入口のみ穴が開いたのが分らないんです」
片山隊長には建物の壁が都合よく、そこだけ弱かったなどとは考え無かった。
人は信じたい物だけを信じてしまう悪癖があるが、それをやると真実を見落としてしまうから気をつけているのだ。
その話を無線で聞いていた隆二と柴田医師はレントゲン写真を睨みながら考え込んでしまった。
二人が考え込んでいると、強化不死者をMRIに掛けていたいた冨田看護師が、データを持って帰ってきた。
「ふむ、口の部分を断層画像で見てみると、声帯の先から細い空洞が密集しているのが解ります」
柴田医師がMRIの断層画像を指さしながら答えた。
「ここで高周波を発生させて、共鳴現象で壁を破壊したと推察できます」
あくまでも可能性だが断層画像を見た限りはそう考えるのが合理的だ。
確かに建物を破壊する方法に似たような装置がある。
爆発物や重機を使わない方法だが、あらゆるものは固有振動数をもっていて、外部からの振動周期と合うと共振(共鳴)して振幅が大きくなり、ついには破壊されてしまうのだ。
「むしろ強化骨格はその副産物ではないでしょうか?」
隆二はふと思い出したように言った。
「共鳴させるには頑丈な骨が必要だった、その為に頑丈な構造にしようとして強化骨格になったと……」
隆二はひとりブツブツと言いながら何かを納得しているようだ。
「骨格は電子顕微鏡で見てみないと確かな事はいえませんが、その特性から考えて炭素繊維ではないかと思います」
隆二はレントゲン写真を見ながら呟いた。
「炭素繊維……それで銃弾を跳ね返すんですね」
片山隊長はF2支援機の機体にも使われている炭素繊維の頑丈さを思い出すながら言った。
「彼等が共食いするのは、体内に生成された炭素繊維の材料を、一つの個体に集約させようとの、目的が有るのでしょう」
隆二は無線で聞いた、不死者同士の共食い報告を思い出しながら言った。
最初は人間を捕食するように成ったのかと思ったが、それだと仲間を増やす事が出来なくなるので、いったいなんだろうと疑問に思っていたのだ。
「不死者たちが次々と強くなっている原因は何か思いつきますか?」
達也は段々と手に負えなくなってきている不死者の強さに疑念を抱いていた。
「はい、彼等は何らかの通信手段を使って、情報の共有を計っているものと思われます」
隆二は走る不死者が、日本だけでなくアメリカなどの諸外国でも出現している事を報告した。
府前基地には衛星回線を通したネットワークが健在なので外国の研究者と情報が共有出来ている。
「そして、阻害され度に対処して進化が促進されているのでしょう」
隆二は友康が次々と編み出してる対処法をネットを通じて流している。
「不死者たちが強化もしくは進化するたびに、阻害する方法を編み出す人物の情報を伝達しあっている考えています」
隆二が不死者が進化し出現するのは日本が一番最初だと考えている。
他の国からの情報では、強化タイプの不死者の報告が上がってきていないのだ。
だが、日本に出現した以上は他の国に現れるのも時間の問題だろう。
そこで対処法を考える為に、隆二は疾病センターにやって来た。
「その阻害する方法を編み出す人物こそが 栗林さん なんですよ」
隆二が指差す警備モニターに友康は居た。
警備モニターには何やら薬箱を抱えた友康が、いそいそとどこかへ向かって歩いている。
「不死者たちからすれば第一級の敵ですね」
柴田医師が友康を見ながらポツリと言った。
「ああ……だから栗林さんを発見すると、その位置情報を伝達しようとして、例の声を出しているんですね」
達也は友康の時だけ、走る不死者たちの咆哮が違う事に気が付いていた。
そして、目の前に普通の人間が居るのに、それを無視しても友康を追いかけまわすのだ。
常々、奇妙に思っていたが柴田医師の話で妙に納得できた。
「……ところで、栗林さんは一人で何をしてるんだ?」
片山隊長はふと思った、誰か警護を付けた方が良いような気がしたからだ。
不死者たちの最大の敵は薬箱を抱えて、ニコニコしながら屋上に続く階段を昇りはじめた。
「はい、”カマグ”はどこら辺にあるのかと聞いてきたので、保管している薬品室の棚を教えました」
冨田看護師は友康とのやり取りを思い出すように言った。
「カマグ?」
片山隊長は聞きなれない薬品名に聞き返してしまった。
「下剤の一種ですね、花を摘みに行くんでしょ」
柴田医師が笑いながら答えた、”花を摘む”は登山用の隠語でトイレに行くという意味だ。
片山隊長は”不死者たちの最大の敵は便秘に悩んでるのか……” と、思わず脱力しそうになった。
「んー、誰か……栗林さんの警護についてくれ」
片山隊長が一休みしている隊員たちに呼びかけると達也が手を挙げた。
「屋上に向かっているらしいから、ついでに握り飯を持って行ってやってくれ」
差し入れのおにぎりを達也に手渡した。
「了解」
達也はおにぎりと水を抱えて屋上に向かっていった。