自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。
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前原達也たちの一行は、是政大橋に近付いたが、ちょっと困った問題に直面した。
全員の格好が宜しく無いのだ。
何しろ着の身着のままで、逃げ回ったり、闘ったりしているので、服は所々破れ、返り血やら泥などで、薄汚れてしまっている。
まるで、ホームレスの集団だ。
そんな集団が近付いたら、橋の検問所に誤解される可能性がある。
ましてや、不死者たちと大規模な戦闘を行った後だ、大人しく近付けさせるとは思えなかった。
「……スポーツジムで着替えを探すべきでしたね」
園田が困ったように呟いた。
「僕が先に行って説明して来ますよ」
達也は自衛隊の迷彩服を着てるので、何とかなると思っていた。
「戦力を分散するのは不味いです、主力の前原さんが抜けるている時に、襲われたら一溜まりもありませんよ」
園田が反対して来た、確かにその通りだ。
猟銃の残り玉も少ないし、ボウガンの矢も10本を切っている。
「んー」
達也は困ってしまった、老若男女の雑多な組み合わせだ、普通の民家一軒では全員分を揃えられないかもしれない。
複数の家に入り込めば、それだけ不死者と対峙する可能性が高い。
小休止を挟んでいるとはいえ、疲労が貯まっているのは、手に取るようにわかる。
「あの洋品店なんかどうですか?」
鏑木が指し示す方に、中規模の洋品店……と言うよりは古着屋が有った。
「良さそうですね、あそこに行きましょう」
園田が全員に移動を促した。
達也と鏑木が、最初に偵察に入り、問題が無ければ、合図を送る手筈になっている。
まず鏑木が先行して、続けて達也が銃を肩に構え、手にライト持って、店内に入っていった。
その店には、賊が侵入した形跡も無く、商品は手付かずで、陳列されたままだ。
”まあ、ここは食い物屋じゃないからね”と、達也は思った。
これまでの道中で、コンビニを始めとする、食料品を扱っていると思われる店は、例外なく全て略奪されていた。
中には火を付けられていた店も有った。
そして、そういう店には大概、不死者たちが居たのだ。
達也は入り口付近から、慎重に店内を観察して、店の奥に行こうとした時、不意にガタッと音がした。
達也と鏑木は音の聞こえた方に、ライトを向けた。
ライトに照らし出されたのは、小さな不死者であった。
身長は約一二〇センチぐらい……子供なのだろう、覚束無い足取りで、さまよって歩いている。
その顔面は腐ってしまっていて、頬肉が削げて鼻が無く、眼の有った辺りには、暗い穴が闇を湛えているだけとなっているが、服装から見て子供だった。
身に付けている衣服から察するに、恐らくは少年だったのだろう。
頭部が殆ど皮ごと腐り落ちているので 、それくらいでしか判別が出来なくなっていた 。
良く見れば、首の辺りが酷く損壊している。
恐らく捕まってしまい、不死者たちに噛まれて、不死者になってしまったと思われる。
鏑木がボウガンを構えた。
しかし、いくら慣れたとは言え、流石に鏑木は躊躇していた。
不死者とは言え、明らかに子供だ。
照準を合わせたまま、引き金を引けないで居る。
こんな事変が起こるまでは、彼は極普通の大学生だったのだ。
明らかに子供と解るモノに、引き金を引くのには、多大な抵抗が有るの仕方がない。
やがて達也が、鏑木の気持ちを思いやり、変わってやることにした。
「……俺がやるよ」
達也は鏑木からボウガンを受け取り、その小さい不死者に照準を向けた。
哀れだなと思いつつも、構えた照準サイトの中央に額を捉えると、そのままトリガーを迷い無く絞る。
”シュッ”っと、風きり音がして、矢は小さい不死者の、眼孔から入り脳髄に達した。
不死者は矢の刺さった勢いで、がくりと弾けるように後退し、そのまま仰向けに倒れ、数度痙攣した後に完全に動かなくなった。
「……すいません」
鏑木はいざという時に、怖じ気づいた自分を恥じたように謝ってきた。
「気にするな、誰だって躊躇するよ」
むしろ何も感じなくなってきた、自分に戸惑っている。
数秒間倒れた不死者を凝視して、もう動かない事を認識すると、達也はボウガンを鏑木に渡して、自分は猟銃を構え直した。
そのまま、店内を確かめ、不死者が居ないことを確認すると、みんなを招き入れた。
「綺麗な服に替えてください、それと着替えも用意してください」
園田は手早く支度をするように注意を与えた。
鏑木はさっさと着替えて、”食料を探す”と言って店の探検に行った。
そして、達也は店の入り口で、見張りについていた。
汚れてボロボロになっても、達也は着替える訳にはいかない。
この迷彩服の他に、自分が自衛隊だと証明するものが無いのだ。
全員の着替えが終わった頃、鏑木が戻って来たので、店をあとにして橋に向かっていった。
橋の付近に到着すると、散発的な銃撃音が聞こえる。
狙撃して、不死者が集中しないように、間引いてるのだろう。
達也は落ちていた棒の先に、タオルをくくりつけて振り回した。
不死者は、そんな事を遣らないから、きっと目立つに違いない。
そして、目立っておかないと、不死者とまちがわれて、狙撃されてしまう。
着替えて小綺麗な格好になったが、念には念を入れたい。
やっとここまで来て、後ちょっとの所で死ぬのは願い下げだ。
タオルを振り回していると、軽装甲機動車に人影が立ち上がるのが見えた。
よく見ると、双眼鏡でこちらをみているのが解る。
達也は敬礼をした後に、身振り手振りで、生存者が居ることを伝えた。
意味が通じたのか、人影は腕で丸を作って、こちらに来いとゼスチャーしている。
「通じたみたいです、じゃあ、行きますか」
達也が園田を促して出発した。
狙撃される心配は無いので、接近する不死者だけに注意を払った。
でも、接近しそうな不死者は、橋の狙撃手が片付けてくれたので、楽に通過出来た。
橋に着くと、軽装甲機動車の上に居たのは、達也の部隊の隊長であった。
「ま、前原! 良かった! 無事で何よりだ」
涙もろい隊長が、涙をこぼしながら喜んでくれた。
隊の仲間も全員と肩を叩き合って、無事を喜んだ。
”要救助者の救助。 状況終了っと”達也は密かに呟いた。