自作小説です。 残酷な描写もしますので苦手な方はスルーするのをお勧めします。
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松畑隆二は、研究棟の図面と警備モニターの配置図を見比べている。
警備モニターで、研究棟の中を調べて見ると、生存者が居ることが解ったからだ。
隆二は、取り敢えず彼等を警備室まで誘導し、今後の対策を話し会おうと考えていた。
まず隆二としては、ウィルスを解明する為に、是非とも不死者の献体が欲しい。
そのためには、身体を捕まえる係、噛まれるのを防ぐために口を塞ぐ係、そして捕まえた不死者を固縛する係。
つまり隆二の他に、あと2名は必要なのだ。
モニター越しに見た限りでは、医師が1名・看護師が2名・ 男性1名・子供が2名。
全部で6名だ。
医師は外科の柴田秀幸のようだ、看護師たちは名前は思い出せないが見知ってる。
男性と子供は判らなった、たぶんの病院に来ていた患者さんかその家族だろう。
”この内、使えそうなのは医師と男性だけか・・・”
まずは、医師を迎えに行こうと提案したら、温子に猛烈に反対された。
「!!!!! 常識的に考えて、まず子供たちでしょ!」
温子は顔を赤くして大声で抗議した。
”どうして、この人は常識が無いんだろう?”
これが研究者脳なのかと、温子は呆れてしまった。
「え?子供なんて、役に立たないじゃん、後回しで良いよ」
隆二はいつものように淡々と言った。
「!!!!! □※くぁwせdrftgyふじこ☆!」
温子は怒りの余り、日本語にならない言葉で抗議している。
そして、隆二を両手を振り回しながら殴りまくった。
「イタイイタイ……解った。 解りましたから……子供たちを先に迎えに行きますから、そんなに殴らないで下さいよ」
それでも暴れて、隆二を殴りつける温子を宥め、隆二はブツブツ言いながら警備室を出た。
警備室を出る際に、チラリと温子の方を見ると、部屋の真ん中で肩で息をしながら、腰に手を充て仁王立ちしていた。
「子供はすぐ泣くし、理屈が通じないし、苦手なんだよな……」
子供たちを連れて帰らないと、絞め殺されるのではないかと、心配になってしまう隆二であった。
研究棟の警備室は地下にある。
”まずは1階にいる子供たちを迎えに行って、その後2階にいる男性と看護師A、次が3階にいる柴田医師と看護師Bを迎えに行くか……”
隆二は、ざっくりと順番を考え、1階に向かった。
地下から上に向かう階段から、そっと顔を出して廊下を見てみると、何体かの不死者たちがうごめいている。
非常扉の閉鎖前に入り込んだのだろうか?
研究棟には、医学生用の献体や病棟で出た遺体を、貯めておく場所が無いので、此方では不死者が発生しないはずだ。
”それでは逃げ込む時に噛まれて、その後不死者になったと考えた方がスジが通るな”
隆二は不死者を、観察しながら考えた。
1階の真ん中辺にある、資料室の前の準備室に子供たちは居る。
廊下は不死者たちがうろついてるので、出来れば廊下は通りたくない。
無用な戦闘は避けたいと、隆二は考えていた。
そういえば、受付の奥にある控室から、資料室に通じるドアがあったはずだ。
頭の中で見取り図を思い出しながら、 不死者に感ずかれないように、そっと移動する。
ここは研究棟の為、セキュリティーがしっかり施されている。
各、主だった部屋は、セキュリティー解除のカードキーを、持っていないと通り抜け出来ない、鍵が解除出来ないせいだ。
机から机と屈み込みながら、資料室のドアの前まで行き、自分のカードキーをかざす。
施錠のシグナルが赤から緑に変わり、鍵が解除されたのを確認し、そっとドアを開け始めた時に、廊下から不死者がやってきた。
施錠が解除された時の、シグナル音を聞きつけられてしまったのだ。
隆二は、咄嗟に机の下に潜り込んで、不死者をやり過ごし、その机の下を潜り抜けて、廊下へと逃れた。
「びっくりした、気を付けないと駄目だな……」
隆二は慎重になっているつもりだったが、目で見てるのと実際に経験するのとでは、違っているのだなと納得した。
廊下に出た時に、消火設備があるのに気が付いた、窓を破るのに使う斧が入っているのを思い出したのだ。
そして消火設備から、非常用の斧を取り出している時、資料室の準備室から小さい悲鳴が響いた。
「不味い、他の不死者を呼び寄せてしまう!」
隆二が急いで駆けつけると、不死者たちが兄妹を襲おうとしていた。
妹は資料室へ通じるドアを懸命に叩き「おじさん、開けてぇー!」と、叫んでいる。
兄は妹を庇いつつ、待合室に有る丸い椅子のようなもので、不死者たちを牽制していた。
しかし、子供の力ではあがなう事が適わず、腕を掴んで引き寄せられ始めてる。
不死者の口が大きく開き、噛み付こうとした瞬間に、隆二が引き剥がして壁に投げ飛ばした。
投げ飛ばされた不死者は頭から落ち、そこを隆二は斧で頭をかち割った。
その直後、後ろの棚の影に隠れていたのか、女の不死者が現れて隆二に襲い掛かってきた。
だが、隆二は振り向きザマに、回し蹴りで頭を打ち抜き、不死者の体を窓から蹴りだした。
続いて入ってきた不死者も、襟首とベルトを掴んで窓から放り出した。
いきなり、絶体絶命のピンチに現れた男に、兄妹はビックリしたらしく硬直している。
「大丈夫?」
隆二の言葉に、幼い兄妹たちは安心したのか、泣きながらしがみ付いてきた。
「もう、この部屋にアイツらは居ないよ」
隆二にしては、珍しく優しい言葉を掛けながら、兄妹の頭を順に撫でてやった。
それにしても、さっきの”おじさん、開けて!”が気になる。
隆二は資料室のドアを指差して聞いてみた。
「誰か中にいるの?」
隆二の問い掛けに兄が答える。
「一緒に逃げて来たおじさんが居るの。あの怖い人たちが部屋に入ってきた時に、自分だけ中に入って鍵を掛けてしまったんだ」
兄がしゃくり上げながら答えた。
警備室で兄妹を見かけた時には、気が付かなかったがもう一人いたらしい。
そう、資料室の中には、田島洋二がいた。
不死者たちが入ってきた時に、田島は兄妹に机の陰に隠れるよう言い付けた。
そして、自分が資料室の前まで来ると、書類を兄妹の方に投げつけて、不死者の関心を兄妹に向けさせた。
田島は、幼い兄妹を囮にして、1人で逃げようとしていたのだ。
きっと幼い兄妹を連れていると、足手まといになると判断したのだろう。
”なんて奴だ!”
足手まといは同意するが、だからと言って囮にするのは論外だ。
”許さん! ぶん殴ってやる!”
隆二は憤慨すると、斧を構えて資料室の窓から中を見た。
すると”おじさん”は、複数の不死者たちに噛みつかれて、資料室の中でジタバタもがいていた。
あれだけの人数ではどうする事も出来ない、隆二はドアの窓からその様子を見ていた。
そして気が付いた。
”あ゛っ、そういえば、資料室の反対側のドアを、ここに来る前に開けたっけか……”
隆二は、その光景を見るまで、反対側のドアを開けた事を忘れていたのだ。
目の前の問題に集中すると、うっかりミスをするのは隆二の悪い癖だ。
「……ま、いっか」
結果オーライだ、因果応報という事で納得しておこう。
温子の怒りを鎮めるアイテムは手にしてる。
「あの、おじさんはどうしてるの?」
部屋の中を覗いて黙りこくった隆二に、不思議そうに兄が聞いてきた。
「ああ……んー、あの怖い人たちと仲良しになったみたい」
嘘は言ってない。
この光景を事細かに、子供たちに説明する必要は無いと判断したのだ。
凄惨な出来事が続くと、PTSDに罹ってしまう恐れもある。
「そうだ、君たちのお名前教えてくれる?」
話しを反らそうと、隆二は兄妹に名前を尋ねることにした。
「僕は佐藤浩一、8歳です」
2年生くらいか、それにしてはしっかりとしている、妹の手前だからだろうか。
「ゆりあ、6つ」
妹は両手の指を使って教えてくれた。
”右手が5本に、左手が2本だ……って、1本多いじゃん!”
「浩一君にゆりあちゃん、僕は隆二です。 これからは宜しくね」
隆二は余計な突っ込みは止めて、妹を背負い兄と手を繋いだ。
ふと親はどうしたのだろうと思ったが、一緒に居ない所を見ると聞くのは躊躇してしまう。
後は温子に任せてしまおうと隆二は考えた。
「他にも生き残ってる人が居るから、一緒に迎えに行こう」
そして、次の生存者を探しにいく為、3人で階段に向かった。